アデュート帝国の受難 その2
大理石がシャンデリアの明かりに照らされて燦然たる星々の様に光を乱反射させる豪華絢爛な会議室はアデュート帝国の城の中でも特別な空間と言える。
会議室と銘打ってはいるが、事実会議の場として使用されるのは通常年に1度のみでそれ以外は他国の皇族を迎える為の宿泊部屋として使用されている。
此れは戦時下に最も堅牢強固な城の更に重要な部分に位置しており、他国の皇族たちが抱える暗殺者の恐怖から守る為でもあり、戦時中に容易に攻め入られない場所で在った。
そして今、皇族の部屋として申し分ない広さの部屋は異様な熱気に包まれていた。
問題は件の白騎士。皇帝の使者が余りの恐怖に脱兎の如く逃げ出した事で貴族間で白騎士は有名な人物になっている。勿論、悪い意味で。
問題は言葉が通じない事。今回、使者になった文官に渡る程度の情報など大貴族が持っていない筈が無い。城には使用人として貴族の身内が在籍している事が殆ど。
これは皇帝が全ての政を決定するからであり、その情報を少しでも早く入手する為だった。皇帝もその事を黙認しているので今回の大会議の情報についても城に諜報を送る事が出来る力ある貴族は事前にこの事を知っており、詰りは緊急に開催される会議に真っ先に参上し帝国への忠誠心を示していた。
流石に反発心ある貴族の諜報を受け入れる程皇帝も甘くない。
「さて、今回集合を掛けたのは新たな英雄についての話だ。それこそ我らが始祖であるグロリアと8英雄の再来と言っても良い程の実力の持ち主であるが、残念ながら他国の人間らしくファソダ共用語を使えない。」
集められた大貴族たちは当然、この事を知っている。城へ向かう馬車の中で考え抜いた策をこの場で話し合い、皇帝に忠誠心と自身の知識を示す貴重な機会である。
有能は取り立てられるのだからこの機会を逃す手は無い。
「ニカイア帝国軍5万を文字通り全滅させ、目先の戦争を回避できた。しかし、報酬が問題になる。今までは冒険者パーティーへ分配していた金貨が全て個人に渡る上、我が国が白騎士を御せていない事が他国に知られると白騎士の取り合いが起きる。ニカイア帝国のコンスタンス帝は白騎士はアデュート帝国に属していないと見抜いている筈。そこで、諸君らを招集した。如何にして白騎士を我が国の傘下に加えるかだ。」
白髪の長髪に青い瞳の老人。老いてなお迫力の衰えない歴戦の辺境伯ヴィルキス・フランが挙手して発言した。
「失礼。傘下に加えなければ為らないのでしょうか?聞くに白騎士は余りにも危険であるかと。」
「他国に渡ると問題だ。言い忘れていたな。対城魔法を使用できると報告されている。抵抗は出来ぬ。」
招集した貴族たちはざわめいた。対城魔法を行使できるとなると人類種の史上最強の大魔導士であるウィンと同等である。アデュート帝国には過去、大魔導士・ウィンが練習場として用いていた3千メートル級の鉱山が存在するが、その4分の3は丸く抉れている。
大魔導士・ウィンの対軍魔法の練習場の名残で在り、その威力以上のものとなるとアデュート帝国都市が壊滅状態になる事は用意に想像できた。
「確かに・・・他国には渡せませんな。しかし、アデュート帝国の傘下に入れる事は言葉が通じない以上難しいでしょう。戦士は魔法の行使に敏感です。翻訳魔法は明らかな敵対行為とみなされる可能性すらある・・・。」
辺境伯ヴィルキス・フランは現状が手詰まりである事を他の貴族に説明するように話す。余計な問答を避ける為である。
「大々的に戦勝パレードを開き他国に知らしめるのはどうでしょうか?白騎士を城に呼んで絵で説明すればそこから得られる利益を理解できるのでは?」
次に発言したのは緑髪の短髪に鋭い眼が特徴の文官長ペルシャ・ホセ。この会議に出席する中で最も若く才能に溢れた人物である。しかし、考えが若い。全ての人類種が利益や地位に殉じるとは限らないのだ。
特に冒険者と言う職業は基本的に自由を求める。縛られるのが嫌いで冒険者になったのに国から命令されては機嫌を損ねる可能性があった。
「戦争被害が出ていないので、他国からの関心が薄いと考えられる。情報を統制している以上、市民たちが戦争を実感するのは冒険者達が戦争準備をし始めてからだ。それに、市民たちの中に他国の諜報が紛れているのはこの国の流通を調べる為だ。それ以上の情報を自国伝えるにはリスクが大きすぎるからな。他国に白騎士の存在とアデュート帝国との縁が有る事を伝えたい。それが事実でなくとも他国の引き抜きが行われない様にしなければ。」
貴族等が様々な意見を出し、其れを否定し続ける。嫌がらせや意地を張っている訳では無い。
結局は皇帝である私が決定を下す以上はそれ相応の責任を伴う。知識人たる大貴族達を招集したのは様々な角度から物事を見る事で私が想像し得ない事を導き出す為だ。
多数決など愚の骨頂。責任の分散でしかない。国を運営する人間が多数決で政を決定して居たら誰も責任を取らなくなってしまい、誰もが納得するような平凡な政策しか打ち出せなくなってしまうのだ。
民衆の顔色を伺うだけの政治家は唯の大道芸人でしかない。遊びで国は動かせない。
私は責任の所在を擦り付け合う愚者では無い。責任を持って行動する。故に政の決定は私が行う。
貴族達の意見は白熱して行く。様々な案が飛び交い、会議室は熱気に包まれていた。
「あのー。一つだけよろしいでしょうか・・・?」
提案と議論で白熱する貴族達を両断するかのようにオドオドとした弱気な声が会議室に落ちる。
異様な熱気に水を掛けるかの様な静けさが会議室の空気を包んだ。そして全ての貴族が言葉を発した長い茶髪の令嬢。ジュリア・オルコットの方を見た。
「白騎士がニカイア帝国と闘った事はコンスタンス帝率いるニカイア帝国軍が十分、承知している筈です。ニカイア帝国軍の兵士達に「白騎士はアデュート帝国を守るために戦った」と吹き込めば良いのでは無いでしょうか?戦争クエストを受注している以上は、矛盾しない。それを裏付ける為に白騎士を城に呼んでパーティーをすればアデュート帝国と白騎士の縁が真実味を帯びて来たりして・・・。」
「ほう?」
他国の民衆を使うと言う作戦に私は思わず声を上げた。通常、他国の兵は動かせない。しかし、敗北を決した今。戦の敗北は兵士に強いストレスを与える。
ニカイア帝国軍の精神状態が崩れている今であればコンスタンス帝の言葉よりも噂を信じるかもしれない。
「やる価値は十分に有る。ニカイア帝国軍に潜む他国の諜報に信じ込ませることが出来れば噂は他国へも伝染するだろう。良い案だ。」
皆、軍略を学んだ訳でも無い素人の考えに驚いていた。このような意見が出るからこそ物事を多角的に見るのは大切なのだ。
「よし、ニカイア帝国軍に潜む我が国の諜報に伝達しろ!敗北の余韻が抜けていない今が勝機ぞ!急げ!」
向かうべき方向は決定した。後は実行するだけだ。
「白騎士を城に呼び出せ。敵対行動となりうる一切を禁ずる。白騎士の祝勝会での非礼の一切はユリアヌス帝の名に於いて許される。周知しておけ!」
未知の強者に弱気ではいられない。
命令し、行動させた以上は全て私の責任になるのだからと自分の心を奮い立たせる。
大陸の6割を征服したアデュート帝国の皇族のあるべき姿が其処に在った。
次回は2/21の更新になります!




