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白騎士さんが通る  作者: 煙道 紫
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受付嬢

アデュート帝国の歴史の中で最も重要視されてきた職業の一つが冒険者である。

始祖であるグロリアの冒険の始まり、当時魔獣に虐げられていた人類種を救うべく立ち上がった8人の勇者が切り開き、守り抜いたこの国は世界で最も栄えており勇者に認められた『人を導く者』である貴族がかつての勇者の子孫と共にこの国を守っている。


魔獣の危険は依然存在し、一夜にして村が消え去ったりと言う事も珍しい事では無い。

だからこそ、魔獣種と命を賭けて戦い民を守る冒険者は市民にも貴族にも王族にさえ一定以上の敬意を示される。ランク次第ではあるが。


勇者の伝説は未だに消えずに残りこの国に住む人類種達は祖先の魂に誇りを持って、強きに敬意を表するのがこのアデュート帝国の帝国民たる気質だった。

そして、完全なる実力主義である冒険者は市井での人気の職業である。商人の様に特段、教養は必要なく誰でも力さえ示せばギルドカードが発行される上に入会に金が必要ない。これは帝国が冒険者ギルドを重要視している為に帝国の国庫からギルドカードの費用が出る為である。


その力自慢達が今、畏れ慄いていた。


未熟な者は崩れ落ち、熟練と言われる冒険者でさえ武器を構える事さえ出来ていない。唯々呆然と、目を見開いて間抜けた表情を浮かべるだけであった。


いつも賑やかな冒険者ギルドのクエストボード。周囲には忙しい為に料理を作る暇のない冒険者を支えるための食事場なども存在している為、普段から大変混雑し時には叫び声さえ聞こえる。

昼間から飲んでいる冒険者たちはその道のベテランであり、若い冒険者たちの指導や相談に乗る褒美として教えられた人間が酒を奢ると言う事がこのギルドの通例となっていた。


実力の大小有れども仲良く騒いでいたこのギルドの騒音は、一人の白騎士の登場によって水面の様に静まり返ったのだ。

冒険者と聞いて野蛮で戦法も無く殴り合うイメージは帝国には無い。実際の冒険者は狩人の様な物で、正面から力づくで討伐する機会はそれこそ少なく、隠れて遠方から弓で狙撃する機会の方が多い。

魔獣と言っても唯の獣の様に知能が無いわけではない。剣を持った実力者を見たら弱い魔獣は逃げるに決まっている。

彼らにはある種の社会性を持つ者もいるのだ。


剣と盾を持ち斬り合うのは緊急時に相手に接近された場合が殆どの為、大抵の冒険者は気配を機敏に察知し、また気配を消す事に長けている。昼間から飲んでいる冒険者たちの様に熟練レベルにまでなるとそれこそ相手の力量を正確に判断できる。


さて、そんな気配察知の熟練者。力在る冒険者たちが急に静まり返り一斉にギルドの入り口に見入った。

新人冒険者は何が起こったのかとキョロキョロと顔を振っている。熟練冒険者たちを気配だけで静まらせた存在がコツリ、コツリと足音を立てて歩いて来た。


静まり返るギルド内。扉を開けて入って来たのは光を纏った様な白騎士だった。

騎士。王城に常駐している騎士とは比べ物にならない程の覇気を纏い周囲を圧倒するその様はある種、王族めいた気配さえ感じる。

白騎士は真っすぐに私の方へと歩いて来た。いつも私を気に掛けてくれているギルドマスターのロバートさんでさえ身体を動かすことが出来ない様だった。


「こ、こんにちは。ご用件は・・・。」


身体が冬の水浴びの時の様に震える。かろうじて声を出す事が出来たのは1日に何百回も繰り返し行う身に染みた挨拶だったからだろう。


「□▽△〇◎□~~~。」


何と言っているのか解らない。

アデュート帝国の支配域は大陸の6割に及び、大陸内では共用語が主に使われている。少なくともこの大陸出身と言う事は無いだろう。


「あ、あの。私、ファソダ共用語以外はわからなくて」


「▲◆●●◆▲▼!」


「ぴぃっ!」


絶対怒ってる!めっちゃ怒ってる!

なんて言われてるのか解らないけど!


辛うじて震えていただけの私の身体が崩れ落ちる。腰が抜けたのだ。

私の視界が涙で歪む。震える身体が呼吸さえ正常にさせてくれなかった。


「野郎!ぶっ殺してやる!」


「馬鹿っ!やめろ!」


熟練冒険者の1人が恐怖に耐えきれずに白騎士に向かって行く。大剣を使う冒険者で気が荒い事で有名だった。それをパーティーメンバーの盗賊が止めに入るが一瞬、手が届かなかった。

走り向かって行く冒険者を白騎士は唯々、見つめていた。


鉄が交差する高い音が静寂なギルドに響き渡る。

迫り来る大剣を避けもせず突っ立っていただけの白騎士は何事も無かったかの様に私に話しかけて来た。


「○○◆▽□◎□?」


「えっ?あの・・・。」


白騎士は未だに大剣で連撃を行う冒険者の事を気にも留めずにクエストボードを指さした。

連続した金属音が脳にまで響く。熟練冒険者が行う大剣の攻撃は一撃決殺が基本。その事を思い出させる程の音量が連続して響いている。


「●□▼□〇◎□?」


「クエストボードですか?あれは、冒険者が依頼を受注するための物で・・・。」


恐怖でか細い声になった私の声が煩い金属音に私の声が掻き消える。

白騎士は一度首を傾げると大剣の連撃をして居る冒険者の方を向いて拳を握った。


「◎〇□◆」


ぐちゃり。と何かが潰れた音がする。

受付と広場を区切るように設置されたカウンターテーブルで見えないが、あの重厚な剣戟の音が止まった事を考えると・・・。


未熟な冒険者が数人。顔を青くして倒れた。ああ、もう考えたくない。


「●□▼□〇◎□?」


さっきと同じ言葉が聞こえる。同じ事を聞いている事は解った。

私は恐怖を振り払うように叫ぶ。


「冒険者が依頼を受注する為の物ですっ!」


「○□◆○◎」


白騎士は一礼をして、私の視界から消えた。

しゃがみ込んだのだろうか、その瞬間にギルド内を白い光が照らした。


「◎□□〇▼」


「あれ?おれ・・・は」


大剣を使う冒険者の声が聞こえた。

ギルドに常駐している神官達が跪いて祈りの言葉を唱え始めた。・・・何が起こっているの?

白騎士は周囲を気にせずにクエストボードへ向かい一枚の依頼書を破り取って私の元へ持って来た。


「●□〇◎□▼□〇」


「えっと・・・クエストの受注には登録が必要で。はい、今やりますね。」


冒険者ギルドの登録には金銭のやり取りは無い。立てない私は、腕をめいいっぱい伸ばして机の下にある申請書を取って、震える手で何とか必要事項を書き込んだ。

依頼の受注書が上から降ってきたのでそれを受け取った。


「あっと。ありがとうございます。」


受注書に私の名前を書き込んで受注処理は終了。

依頼は大猪(ボア)の討伐。魔獣ではなく唯の獣であるが人肉の味を覚えてしまった個体だ。凶暴で村の作物と小さな子供が3人。食われている。


私が受注書をギルドカードと共に渡すと、白騎士は其の侭ギルドを出て行った。

静まり返ったギルド内にギルドマスターの声が響く。


「諸君!あの白騎士は敵対者では無いだろう。そこで()()()()()アベル君の様に下手に刺激しない様に!」


ギルドマスターの声も震えていた。私の様に腰が抜けなかったのは彼が元熟冒険者として名を響かせていた意地からだろう。

いつもの威厳は無かったが、誰もその考えに異議を示す人間は居なかった。




次回、主人公視点です!

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