ブックカバー
翌日。
「はい」
にっこりと微笑みながらプリムラはかわいい刺繍の付いたブックカバーをレイス様に渡す。
「うちの紋章だ」
レイス様は目を丸くして呟いた。刺繍は本と羽ペンだ。
で、アルミナにも、紋章入りのブックカバーが渡された。
「ありがとう。きれいな色合いね」
雫型の赤・青・黄・緑・紫・オレンジ・ピンクの宝石が花のように配置された紋章だ。
糸だけなのに本物の宝石のような立体感と光沢がある。
「家紋わからなかったから、バルバスの国花のチューリップにしました」
さらに私にも。
紫のフェルトに真っ白なチューリップが一輪咲いている。わざわざ調べてくれたんだ。
「わー、とってもかわいらしい」
三人がそれぞれに感想を述べていると、カル様が尋ねてきた。
「俺のは?」
当然自分にも献上されると思っていたのだろう。
「王家の紋章を刺繍するなんて恐れ多いので、申し訳ございません。気が回りませんで」
プリムラは王族がまさかブックカバーを欲しがるとは思っていなかったようで、すごく恐縮した感じだ。下手に縫っていたら、次はプリムラが第二王子の婚約者に目を付けられかねないし。
対してカル様はちょっと寂しそうだ。
「あのよろしければ好きな花とか物とかおっしゃっていただければ」
「王族が自分の好みを言いふらすのは好ましくない」
プリムラがおずおずと申し出たが、王子様はちょっと拗ねたように返した。
ああ、一言これが好きって言ったら、贈り物がそればっかりになっちゃったりするんだろう。
でも、じゃあどうしろと。
「では、学園の紋章でよろしいでしょうか」
もともと王家が建てた学園だから、王家の紋章の形を一部継承しているし、学園の紋章のブックカバーなら持っていても別に詮索され……ないといいな。
タイミング的には今、まとめて渡したほうがいいんだろう。
特別に後で渡したら厄介なことになるし……今も王子様の一挙手一投足を令嬢方が監視している。 ほんと、この王子余計なことしかしないな。
◇
放課後。勇敢な同士が私の隣に三人も付いてくれた。
プリムラ、アルミナ、レイス様だ。
「最悪、悪事を世界中に広めるって言ったら君は助かると思うよ」
私が助かってもレイス様的にはまずくない?
「一対一で、と書いたはず」
木の陰から金髪ど――じゃなかった、マリー・ライト様が現れた。
レイス様を女子三人で前に押し出す。
「言葉通りに信じるわけないだろう」
レイス様はため息をつきながら答えた。
扇で隠したマリー様の口からため息が漏れる。
「最初に一言言っておくわ。私、カイ様のこと好きでも嫌いでもないわ」
「「「「は?」」」」
11/11 すみません。随分前に予約したのをすっかり忘れていました。ちょっと時期が時期ですので一部削除させていただきました。