公爵令嬢襲来
3限目が終わる頃には『商人の娘が殿下ばかりかレイス家の子息をたぶらかした』なんて噂が流れた。
だって、仕方ないじゃない。 隣が殿下だなんて思ってないよ。 大体そういう席は婚約者様か、賄賂を積んだどこぞのご令嬢様かで埋まっていると思うじゃない。
「すみません。すみません。変なご迷惑おかけして」
私は殿下と周りの生徒に頭をぺこぺこ頭を下げると、
「君は挨拶をしただけだ。そんなにかしこまる必要はないよ」
レイス様がそう言ってくれて、前の席の女の子が「気にしないで」って言ってくれる横で、王子様が、
「たく、平民のせいでいい迷惑だ」
さすがに殴りたくなったが、ぐっとこらえた。
ここで殴ったら間違いなく我が家ごと没落してしまう。
ことことことと複数の足音が近づいてくる。
なんか謎の軍団が来た。
「そこの小娘」
集団のボスざ―――集団のリーダーがびしっと指差す。
「は、い?」
まともに名前を呼ぼうとする人間はこの学園にはいないのだろうか。
「わたくしの下僕になりなさい!」
その集団のボスが高らかに宣言するが。
「その……いやです。それと人を指差さないでください」
「な!?」
王子以上に恐ろしいやつなんてさすがにぽこぽこいないだろうし、
女ボスは絶句した後、
「……どうしましょう、どうしましょう。このままじゃ……様に」
急に慌てだした。
「お前、嫉妬に狂うような女じゃなきゃ、貴族の礼儀ってものは最低限守れよ」
「はあ? あなたは口を挟まないでいらして」
王子様に怒気もあらわに食って掛かった。
「変な噂が立つ前にいい男子紹介したげる。ラインハルトなんてどう? 一応男爵家だし。資産だけはうなるほどあるって聞いたけど」
「もう立ちました」
トラブルうんうん。
「なんで僕に振るの? めんどくさい。それに」
手近すぎる。
「……君が去年の当事者の顔を忘れているとは思わなかった」
その瞬間、群れのリーダーはぴしっと固まったかと思うと、
「用事を思い出しました。一旦引き下がりますが、わたくし諦めませんわよ」
そう宣言して、彼女はきびすを返した。
配下のモノ達も鋭い視線をこちらに向けて去っていった。
「あなた、勇気あるわね。公爵令嬢のマリー・ライト様に」
あのドリル……世間に疎い私でも知っているマリー・ライト様!?
あの人って、私の隣にいる第二王子カイル様の婚約者様じゃないか。
姉さんどうしませう。私の人生終わったみたいです。
「それじゃレイス様は? 喧嘩売ってしまってたんじゃ」
「彼らは権力とかどうでもいいって思っているのよ。特に彼は……」
もう話は終わったとばかりに、まともな少女恋愛小説……男子が人前で読む物かどうかは不明だが――を読みながら彼はこちらを見ないでこくりと頷いた。
「彼女と王子には去年のペナルティーがあるしね。
とりあえず彼、虫除けにはなると思うから大事にしておいたほうがいいわよ」
アルミナちゃんがこそっと教えてくれる。
「僕を巻き込まないでくれる?」
それを聞き取ったラインハルトは冷たく返した。
◇
授業が終わると寮の部屋で姉にはクラスで起こったことを手紙で知らせる。
実家は王都にあるが、学校が終わってからだと門限を気にしなければならないし、姉が出かけている可能性だってある。
姉の武勇伝に耳を傾けてしまえば、私の話をする前に門限になってしまう。
使用人に渡すと、返信はその日の内に返って来た。
『殿下に話しかけるなんて、あんたおバカ?』
はい。お馬鹿です。ごめんなさい。
『殿下はあんたにはハードル高すぎるわ。 狙うならレイス家のお坊ちゃんにしなさい。
あの家、自分の興味あること以外全く何もしない人多いのに、伝統と金はうなるほどあるから、妻になったらお金使いたい放題よ。
どうしても殿下を落としたいなら止めはしないけれど。
変な噂を立てられたくなければ、殿下とは二人っきりになるな。殿下とお会いするときは必ず女子の友だち連れて行きなさい。 ナイラ・タルジェ』
女友だちできそうにありません。とりあえず二人は確保できそうだけれど。
ふと、かさりと小さな音がして、音のした扉のほうを見たら、扉の下の隙間に封筒が差し込まれていた。
そっと扉を開けて廊下を確認するが当然誰もいなかった。
ため息を付き、手紙を開いて名前を確認する。
『明日の放課後、二人きりでお話しましょう。講堂裏で待っています。』
名前は書かれてなかった。
「姉さん、私、明後日の朝にはお城のお堀に浮いているかもしれません」
ナイラ・タルジュ……紫の瞳。黒髪。妹と容姿が良く似ている。姉妹間の仲はまあまあ良い。妹よりも社交的。妹love。




