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#02説得

できるだけ人気のない喫茶店を選んだ。


灰褐色の古い建物で、全体的に薄暗い。


「話って何よ…」


何を勘違いしたのか早苗の顔が緊張していた。


「この子をどうするのかって話だよ。」


「だから私が飼うっていってるじゃない。」


オレは少し考えて。


「ヒト一人飼うのにどれだけのエサ代が必要か分かってるのか?」


「…それは…」


本当はそういう問題じゃないんだけど、今は何でもいいから早苗を説得するしかなかった。


「教育費だって今は馬鹿にならないんだ。大学まで行かせようと思ったら…五千万ぐらい必要だ。」


「………」


「それに、飼い主には生半可な責任じゃ、なってはイケナイ。この子の面倒を一生背負っていかなきゃならないんだぞ?それでもいいのか?」


「………」


ひどく落ち込み塞ぎ込んだ早苗を見て、良心が痛んだ。言いすぎたかもしれないと反省した。


沈黙が続き、アイスコーヒーの氷が鳴った。


天使は、オレンジジュースの氷をねぶっている。



「…分かった…」


内心ホッとした。分かってくれたのかと…


「分かったわ…私たち…結婚しましょう。」


なぜ…早苗の思考回路はもしかしたら宇宙の仕組みよりも複雑なのかもしれない。


「この子を育てるには母親だけじゃなく父親の力が必要なのね……」



アイスコーヒーの氷が鳴った。



説得が失敗に終わった。


早苗の中では既に決意は固まっているようだ。



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