5-1. 山で採取
今度はメイが<ブヒブヒのかばん>を背負い、チロのバスケットはミオが持つ。
リージュはすぐ傍に海と山と森といった豊かな自然と資源に囲まれた街だ。
山は少々遠いので、始発の乗合馬車で距離を稼ぐ。朝早いというのに、乗客は数人いた。チロは翼を畳み、バスケットの中でおとなしくしていた。本当に知能指数が高い。
「【一角ウサギ】、取れないね」
「山では鹿や鳥が狩れるから」
「本当? チロちゃんも食べられる?」
「ああ。ついでに俺たちも食べられる。うまいぞ」
料理は任せたというジェイクに、メイもミオも任せてと胸を叩く。料理は得意だ。いつも三人分作っていたのに、ひとり分少なめに作るというのがどうにも切なかった。それが今は三人分どころか、お代わりする人がいるので四人分くらい作る。分量を増やすのは、どうということはない。それよりも美味しいからもっと食べたいというのが嬉しい。多分、ミオも同じだろう。
朝早いが、メイもミオも元気なもので錬金術のこと、素材のことなど様々に話した。
錬金術のことを語りだしたら、ふたりはずっと話していられる。世界の神秘を解き明かす学問だ。まだ足を踏み出したばかりで、希望と理想とそして不安がないまぜになっている。メイだけじゃない。ミオもそうだ。そして、師である祖母への尊敬がつねに根底にある。
「おばあさまは近隣の人たちの困った時にいつも頼られていたの」
「みんなからいつものお返しだといっていろいろもらっていたのよ」
だから、そう困窮したりひもじい思いをしたことはない。いつも誰かがいついつの礼だと言ってなにかしら持って来てくれた。
「でも、素材は隣近所に住む人からもらえるようなものではないから」
そこで、メイとミオはそれぞれが採取できるように頑張ったのだ。メイは鉱物を、ミオは植物のことを学び、知識を蓄えた。戦闘ができない自分たちは仲良くなった冒険者たちに頼み込んで経験値稼ぎや素材採取の依頼にくっついて行き、せっせと採取した。
「危ないからっておばあさまはあまり良い顔をしなかったけれど、でも、わたしたちが採取して来た素材で作れるものを色々教えてくれたの」
懐かしくはない。メイたちにとってはつい先日までのできごとで、まだそんな域には達していない。
ふたりの精神的支柱であり、大黒柱でもあった祖母を失って、非常に不安で心細かった。自分たちは若く、経験を積んでいない。けれど、メイにはミオがいた。ミオにはメイが。
そして、チロを買い取り、ジェイクも手を貸してくれる。
両親がどうしているのかは聞いていない。もしかしたら、ミオは知っているかもしれない。
メイとミオはふたり、手をつないで懸命に立って歩いて行こうとしている。
ジェイクは、ジェイクはいつまで一緒にいられるだろう。ほんのひとときのことだろうか。冒険者を長く続けている風だ。気紛れで自分たちに力を貸しているだけだろう。彼には彼の進む道がある。わずかに自分たちにかかわっただけだ。その事実がなぜかさみしく感じられた。
山のすそで馬車を降りる。
木々や苔むした岩の合間を縫うようにして道がある。人が通ることでできたものだ。昨日行った森とは違い、斜面が続き、大小さまざまな岩がある。
しばらく登と、開けたところに出た。突き出すような岩棚になっていて、景色が望める。
「あれがリージュね!」
「わたしたちの工房は見えないわね」
いつもなら休憩しないで進むが、メイやミオが疲れたなと思うタイミングでジェイクから休もうという声が掛かる。今も自分たちが住む街を見ることができると言われ、少し道を外れて木々が途切れた岩棚に連れていかれた。
「あの出っ張ったのは広場の鐘楼だろうな」
「ああ、あれね!」
「こんなところからも見えるのねえ」
「リージュを目指す旅人が目印にするくらいだからな」
運河に街のぐるりを囲まれたリージュから鈍色に輝くゆるやかな蛇行が延々と伸び、やがて海につながる。
ジェイクが指し示す方に目を凝らすと、鈍く光るものがうっすら見えた。
「わあ、海だ」
遠くに霞む海にミオとメイが歓声を上げる。
「港町にも色んな素材が売られているんだって」
「リージュも運河で色々運ばれてくるけれどね」
「一度は行ってみたいね」
休憩を切り上げ、ふたたび山道を登る。
「おじさんはリージュ以外の街に行ったことがある?」
「ああ、あるよ。ハントとか、国都とか」
ハントはリージュと運河で繋がった港町だ。すぐ傍の立地から、双方を行き来する冒険者は多い。
チロはバスケットの中ですぴすぴと寝息を漏らしたが、やはり、魔獣が襲ってくるのには一番に気づいて警告した。
【身軽なシカ】はその名の通り、とても軽快なステップで翻弄してくる。
少々てこずったが、なんと、チロが威嚇の鳴き声を上げひるませて足止めすることに成功した。
「やったわ、チロちゃん! お肉を手に入れたわ!」
「なん!」
つい今しがたの勇ましい姿はどこへやら、とろりとした鳴き声でジェイクが倒した【身軽なシカ】を見下ろす。
「チロが協力的なのは肉のお陰かな」
「やっぱり、ご褒美があると張り切るものよね」
チロはその後の【つっつきヤマドリ】、【しんちょうなヘビ】の襲撃でもすぐさま気づいて知らせる。
「【つっつきヤマドリ】は一度つつきだすと止まらないからやっかいなんだ」
「【しんちょうなヘビ】は慎重なだけに、そっと近づいて来るのよね。それで毒を持っているのだから、とんでもないわ」
しかし、チロは空を飛ぼうと、草の間をぬって地面を這おうと、気配を巧みに読み取った。おかげで一行は怪我することなく、大した消耗もなく目的地に着いた。




