最終回
「……しくじったなぁ。オリ主の私が最終決戦に参加できないなんて、まるで踏み台転生者じゃないか」
組織が運営する医療施設の隔離棟の病室で遥は深いため息を吐く。その白い肌には無数の解読不能な文字が浮かび上がり、発光する色を変化させながら蟲の如く蠢いている。此奴は今、呪いに侵されていた。
「功を焦るからだ馬鹿者。今は治療に専念しろ。戦いはこっちで済ませる」
「だって敵のボスが姿を現した上に妹まで現れたんだぜ? ぶっ倒せばヒロイン達が漸く素直になって私にデレるんだ。ふふふ、子猫ちゃん達は素直じゃないからね」
だが、この馬鹿はこの通りピンピンしている。本来は苦痛の中で死に至る呪いらしいが、レベルⅩともなれば各種異能への耐性も尋常ではない。……無論、無事ではない。耐性に力が注がれて普段通りの力が発揮できない。これで能力が使えないのなら兎も角、制御が全く出来ず力の強弱がコントロール不可なのだから後方要員も無理だ。尚、俺のように呪い耐性の能力(本来の持ち主は餅をのどに詰まらせた時に目覚めた)を持ってないと伝染する可能性が有るからと隔離している。
「今の私はただの超絶美少女か。おやおや、此処で君に押し倒されても抵抗できないって訳だ」
ベッドに寝ころんだままチラチラ此方の様子を伺い、胸元を広げてみせる馬鹿が一人。俺は冷静に対処した。
「そんな予定は未来永劫無いから安心しろ。少なくても同意の上でしかお前を抱かん」
「じゃあ、今すぐ抱いてくれるかい? ……ちょっと君が心配だし、景気付けにさ」
不安そうな声を出す遥。そもそも、此奴を此処まで追い込んだ相手はなんと龍堂寺……いや、ラスボスの妹であるカーミラだった。何時もの様にアリーゼ達との戦いの最中、紛れ込んだ蜘蛛に怯えた遥が正面から抱き付いて来たので仕方なく抱っこした状態で戦っていた時、彼女は現れた。虚ろな瞳を俺に向けながら……。
「……その人、何をなさっているんですか?」
「情けない話だが……いや、待て。お前、一体どうやって……」
龍堂寺は一般人の筈だ。にも関わらずワープでもしてきたかのように突如現れた事に俺は動揺して固まり、アリーゼ達は最大限の警戒で動けずにいた。
「何故貴様が此処にいる? ……カーミラっ!!」
憎悪さえ感じさせる声で叫んだのはラスボスの妹の名であり、原作においてラスボスと共にアリーゼの一族と家臣のほぼ全員を皆殺しにした上で従属の呪いを掛けた者の名前。その声を聞いた龍堂寺の首が僅かに動いてアリーゼの方に視線が向けられた。
「……ああ、貴女の仕業ですか。兄さんの道具のくせに、先輩と、私の大切な人と到底釣り合わない癖にモーションを掛けている勘違い女。そんな屑のせいで先輩が苦労して私に笑顔を向けるための時間が減るし、同じ組織ってだけで目障りな人達が側にいるんです。貴女が居なければ、貴女とその女達さえ居なければ先輩は先輩は先輩は先輩は先輩は先輩は先輩は先輩は先輩は先輩は先輩は先輩は先輩は先輩は先輩は先輩は先輩は私だけを見て、私だけと側にいて、私だけと話して、私だけを愛してくれるのに……死ねっ!」
感情の読めない表情で息継ぎなしに一気にまくし立てた彼女の足元から赤紫の泥があふれ出す。グツグツ沸騰して波打つそれは津波のように押し寄せ、アリーゼ達を飲み込むと引き潮のように龍堂寺へと戻って行く。後に残ったのはなめたけの瓶の残骸。急展開にオレは表情を変え、遥も蜘蛛が何処にいるか気にしながらも俺の横に立って身構えた。
「……さてと。ここで私が彼女を単独撃破すれば大手柄。子猫ちゃん達も私へのラブ度を振り切るだろうね。じゃあ、行くよっ! 来た来た来た来たぁあああーーーーーーーー! オリ主に相応しい大活躍の場だぁっ!!」
「おい、待てっ!」
制止しようと伸ばした手は空を切り、遥は龍堂寺……いや、カーミラへと突き進んでいく。そんな遥に煩わしそうな視線を向けたカーミラの足元から赤紫の泥で形成された槍が無数に飛来した。
「死ね、恋敵っ!」
「はははははっ! 彼も君も私のハーレムメンバーさ! さあ! 私の強さに見惚れるんだ!」
飛んでくる槍を次々に呼び出して射出する剣で相殺し、身体能力に任せてカーミラに接近した遥の拳が腹部に突き刺さり、地面に叩きつけると同時に服を剣で貫いて地面に縫い付けた。
「顔は絶対に傷付けない。ふふふ、紳士だろ? 惚れても……いや、素直になっても……」
完全に油断している遥は格好を付けて歯を見せて笑いながら髪を掻き上げる。その腹部をカーミラの口から吐き出された黒い煙が貫いた。
「……結局、あの後モンスターに変貌したカーミラをお前を庇いながら倒したのは俺だったな」
「まあ、主人公にだって失敗は……」
苦言を呈しても反省の色が無い遥。俺はその体を両手で抱き締める。自分の声が震えているのが分かった。
「……動かなくなったお前を見て本当に心配したんだ」
「……ごめん」
「もう無茶はするな」
「……うん。約束だ」
遥も同じ様に俺を抱きしめ、暫くの間、俺達はそうやって抱きしめあっていた。互いの体温や体の感触が何時もより感じられる。こうやっていると遥は少し華奢だと、そう感じさせられた。
「じゃあ、行ってくる。最後にカーミラ……龍堂寺が教えてくれたラスボスの本拠地に殴り込みだ。お前は俺の勝利を信じて待っていろ」
最後、彼女は正気に戻って笑いながら逝った。最後の言葉は『兄さんを救って』と『好きでした』だ。……何故俺を好きになったのかは知らないが、彼女のことは忘れないでおこう。勿論、アリーゼ達もだ。きっとそれが俺の責務なのだから。
「……行かないで、とは言わないよ。君が私の側から居なくなるはずがないんだからさ。でも、これは勝利を祈っての景気付けだ」
腕を掴まれ引き寄せられた俺の唇に遥の唇が重なる。普段のふざけてしてくるキスとは何処か違った気がした。
「……待ってるからね」
「……ああ。勝利の女神の祝福を貰ったんだ。さっさと終わらせて帰るとするさ」
互いに相手の顔を見れないほど恥ずかしく、背中を向けあって言葉を交わす。では、そろそろ行くとしようか。
「……畜生。一体私の何処が問題なんだ。容姿端麗頭脳明晰高収入経験豊富の美女だぜ?」
「普通に考えて性別だろう。あと、お前の何処が経験豊富だ」
あの戦いから数年、呪いも解除して前線復帰した遥と家飲みをしながら愚痴を聞かされていた。あの日、結局焔が原作通りに死の淵から復活して一時的にレベルⅩに到達、俺も居たので道連れ目的の攻撃で轟も昏睡状態にならずにすんだ。原作では回想シーンで明らかになったラスボスが悪霊になったり妹を狂わせた理由も当然不明なのでただの悪として判断されたのは少々悲しいが仕方がないだろう。
……しかし、轟も治癒崎も焔に告白しなかったせいで田中と結婚したが、俺や遥が邪魔してタイミングを逃したのだろうか?
「ちょっと聞いているのかい! ……大体、性別なんて些細な問題じゃないか」
「いや、極度の男嫌いのお前が言うか?」
この会話から分かると思うが、前世同様に遥は振られたんだ。しかも容姿がそっくりな相手にな。再び引きこもるなら俺が側で支えるが、取り敢えず今は愚痴に付き合ってやろう、俺がそう思ってツマミに手を伸ばして視線を外した瞬間、突如立ち上がった遥が服を脱ぎ捨てた。器用なことに下着もだ。
「……風邪引くぞ。暑いなら冷房の温度を下げろ」
「君は馬鹿かい? 今からヤるんだよ、君と! 経験を積んで大人の魅力を増すのさ!」
また馬鹿が馬鹿を言い出したと何時もの様に対処しようとするがこの日は違った結末を迎える。酒が入っている事と任務があったので疲れていた事、両腕を掴まれレベル差のある身体能力で今まで以上に強引に迫られた事。この日、俺と遥は……。
「うん、今分かったよ。私は君が、君だけが欲しかったんだ。もう女の子は別にいらない。ああ、君の愛が欲しい」
……どうしてこうなった。強引に迫られ果てた後、遥が今まで以上にベタベタして来た。正直言って不気味にすら感じる。しかも、この日から本当に同性を口説くのを一切止め、その分のアプローチを俺にして来たのだ。その上、俺が不気味がれば怒って何度も強引に迫ってくる。結局、何度も関係を持つ内に俺にも限界が訪れた。
「……いい加減にしろ、遥。俺も男だ。悪いのはお前だからな」
「へ? いや、君、落ち着いて。……ひゃわんっ!? ま、待って! 私、そこは弱いしさっきしたばかりで敏感に……ひぃっ!」
結局、こんな事が数回あった事もあり、俺は遥に求婚した。別に責任感からだけじゃない。此奴と一緒に居るのは楽しいし、変な罪悪感を感じずに側にいたいと思ったからだ。……好きかどうかと聞かれれば素直に好きと認めよう。
「おい、遥。結婚するか?」
「あっ、良いよ。じゃあ今から親に挨拶にいこう」
この後は最初の方で語った様にあっさり承諾を貰い、俺の友人だけで千人近い招待客が全員出席しての大規模な式をあげた。花嫁姿の遥が相変わらず綺麗だったのは言うまでもないだろう。
「……ねぇ、赤ちゃんは何時出来るかな? ……今から頑張らないかい?」
「さてな。授かり物だから仕方がない。まあ、少し待て。暫くこうしていたいんだ」
俺は甘えた声を出す遥の膝に頭を乗せてウトウト微睡む。幸せとはこう言うのを指す言葉で、これからもこれまで以上に幸せを感じるのだろう。遥と一緒なら間違いない。
「おい、遥。好きだ、愛している」
「私もさ。好きだ、愛しているよ」
ああ、全く。俺の幼馴染みは踏み台転生者で今は俺の嫁だが、少し辛い事がある。こんな時、どうすれば良いのだろうな?
俺の幼馴染みが愛し過ぎて辛いのだがどうすべきだろうか?
伝説の爺を宜しくお願いします




