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「私が思うに君は物事を難しく考え過ぎなんじゃないのかい?」


 バ科学者エリアーデの薬による一件の次の日、流石に幼くなった時の記憶やキスされた事などが引っ掛かって遥の顔を正面から見れなくなった俺だが、食事中もそうだった為か不満や呆れが籠った顔を向けられてしまう。


「……お前はそう言うが、気にするレベルだと思うぞ? お前は気にならないのか?」


 前もあったが年頃の女が裸を見られて何故平然としているんだ。流石に少し心配になってきたが、俺の心情などどこ吹く風という風に遥は平然とした態度を崩さない


「いや、前から言っている通り私が結婚するとしたら君しかありえないからね。別にそこまで気にする事でもないさ。流石にヤッたら意識するだろうけど」


 何を平然と言っているのかと言いたくはなったが、言われてみればその通りだ。此奴との関係は薬によるトラブルでどうにかなるような物でもないな。


「礼を言うのも癪ではあるが、お前と話していると気にするのが馬鹿馬鹿しくなって助かった。礼を言おう」


 心底遺憾ではあるものの遥に礼を述べて水筒を傾ける。出て来たのは水滴だけだった。どうやら今朝お茶を入れるのを忘れていたようだ。態々取り寄せた茶葉を使ったので楽しみにしていたのだがな。


「売店に買いに行くか。……この時間は混んでいるだろうな」


「今から行ったら遅くなるし、これを飲みなよ。今朝からまともに顔を合わせてくれなかったし、折角顔を見せてくれるようになったのに待たされるのは寂しいんだ」


 投げ渡されたペットボトルを受け取ると蓋をちゃんと閉めていなかったので中身が零れそうになる。既に何口か飲んでいなかったら零れていただろう。


「悪いな。いただこう」


 流石に全部飲むのは気になるので軽く喉を湿らせると手渡しで返す。遥は気にするなと言いながら喉を鳴らして中身を流し込んだ。


「それにしても最近平和だね。エリアーデが情報流したおかげで百鬼会の拠点を次々に潰しているし、もう原作とか崩壊してるよ」


「俺とお前が存在する時点で今更だろう。……だが、注意は必要だ」


 アリーゼなどの上級幹部クラスの目撃はなく、討伐したのは精々が下級幹部程度。それも詳しい情報を得て対策を施しての結果だ。上級幹部相手には奇跡的な幸運に恵まれて勝った原作主人公である焔が原作のように倒すか、俺達が責任をもって倒すしかないだろう。


 その事については遥も同意見らしく頷いてくれている。


「まあ、主人公である私の為の世界だし、守り切って見せるさ」


 ……その理由が理由なので残念なんだがな。しかし幼い精神に戻ったのを世話して改めて思う。なんで! どうして! こうなったっ!?


「しかし、君の好みが私だなんてね。驚いたよ」


「見た目だけな。お前の中身に関しては好きではあるがライクであってラブにはならない。お前もそうだろう?」


「今の所はね。案外君のことを男として好きになるかもしれないぜ? っていうか結婚する未来あるんだし、ラブになる可能性も無きにしも非ずだろ?」


 思わぬ反論に少し言葉に詰まる。想像もつかないが、異性として好きではない相手と結婚するような無責任な真似を自分がするとは思えないしな……。



「まあ、可能性は可能性だし、君の気持ちを受け入れるよ。私がどんな風になっても受け入れて傍に居てくれているんだからね」


「……自分の現状が”どんな風”と付けるような状態と自覚があるのなら自重しろ」


「え? 嫌だけど? 私は私が好きな風に生きるって決めたからね」


 少しだけドキッとしたのは秘密だ。少しだけ笑顔が魅力的だと感じたから照れ隠しに苦言を呈すれば何時もの馬鹿な発言になったのだから尚更言ってたまるか。





「因みに私の初恋は君だぜ? 今は異性として見ていないけど」


「奇遇だな。俺も同じだ。……こう話していると思うのだが、結婚しても何も変わらない気がするぞ、俺達は」


「いやいや、案外私は君にデレデレかもしれないぜ? 可愛い子への浮気を許さない君と結婚するなら彼女達への愛情を全部君に注ぐんだからね。……え? 想像したら気持ち悪くなった? 失敬なっ!」


 普段から失敬だらけどころか敬うという気持ちを知らない此奴に謝るのは嫌なのだが謝った方が良いのだろうか? 絶対に謝りたくないのだが……。




「いいんちょー、いらっしゃーい」


 数日の間風邪で休んでいた治癒崎から、遅れた分の勉強を見て欲しいと頼まれた俺は彼女が母親と住む社宅を訪ねていた。組織は性質上秘匿とされており、構成員はダミー会社に就職していることになっている。この社宅もそんなダミー会社の一つの物となっていた。


「お母さんは事務の仕事の期限が迫ってるから遅くなるってさー」


「……流石に俺が一人で訪ねるのは風聞が悪いか。誰か呼んでも構わないだろうか?」


 同僚なので顔見知りとその家族しかいないとはいえ年頃の女子が一人で居る所に同年代の男が訪ねるのもどうかと思ったのだが、周囲の部屋の人も事務方で今日は遅いから大丈夫とのことだ。


 まあ、呼ぶとしたら遥だし嫌だったのか、と納得した俺は素直に部屋に上がらせてもらった。中には特に家具もなく質素な内装で、ジロジロ見るのも悪いからあえて視線を向けないがガランとした印象を受けた。


「えへへー。何もなくて驚いたー? 私もお母さんも物を置くのが嫌いなのー。あっ、飲み物持ってくるねー」


 視線に気付かれたのか治癒崎は笑いながら台所に向かい、俺は手持ち無沙汰なのでチームリーダーとしての仕事に取りかかる。簡単に言うとボーナス査定についてだ。


 轟が独断で動いたり、遥が必要以上に派手に戦ったり、力のコントロールが未熟な焔がボヤを起こしかけたり、俺の監督責任に関わる問題を羅列していく。任務一回につき結構な量になる上に能力はあるから任務の数も質も自然と上がり、書類も多くなる。


「きゃー!」


 何故か少しだけ態とらしく感じたが悲鳴が聞こえたので向かってみれば頭から濡れた治癒崎の姿があった。飲み物をこぼしたのかコップが散乱し、無地の白いシャツが濡れて透けた上に体に張り付いている。俺は慌てて治癒崎に駆け寄った。


「割れたコップの破片を踏まないように注意しろ。ああ、冷えて風邪がぶり返す前に着替えてこい。此処は俺が片付ける」


 ガラスの破片がないか床を注視し、近くの箒とちりとりで掃除を始める。おや? 治癒崎が動く様子がないな。怪我なら自分で治せる筈だが……。


「えっとねー。私、凄い格好になってるんだー」


「ああ、そうか。背中を向けて掃除をしよう。先程から微塵も見てはいないが配慮が足りなかった」


 濡れた服で異性の前を通るのは抵抗があるか。俺も気が利かないな。即座に背中を向けると治癒崎が通るのが分かる。どうやら正解だったようだ。





「……あの程度じゃ無理かー。透けるように水をかけたのになー」





 卓袱台の上に教科書を広げ、休んでいる間の補足をすること一時間、元々成績は悪くないので予測よりも早く終わりそうだ。だが、懸念事項が……空模様が怪しいのだ。天気予報を見忘れていたな。そんな風に考えている内に空が黒くなっていき、雨が降り出す。……遥が洗濯物を取り込んでくれていれば助かるのだがな。


 突如ドンッ! と音が響く。雷まで発生したのだ。


「ひゃんっ!?」


 雷鳴が再び轟いた瞬間、治癒崎が腕に抱きついてくる。体を密着させ少し震えていた。雷が苦手なのか……。


「……よし」


『音遮断』『景色変更』と停電対策に『光球生成』を発動する。これで雷鳴も雷光も気にならないだろう。治癒崎も呆気に取られてポカンとしているが、急に雷が消えたからだな。


「もう大丈夫だ。では、ついでだし何か教えて欲しい科目はあるか?」


「……保健体育かなー?」


「残念だが保健体育に関する教科書は持ってきていないんだ、済まんな! では、他にないか? 無いなら悩み相談でも良いぞ。俺は委員長だし、それ以前にお前は友人だからな」


「……友人かー。特にないよー」


「そうか。お前がそう言うなら深入りはしないが何かあったら言ってくれ。友人の力にはなりたいからな!」


 








「……誘惑しても全然反応しないんだもん。困っちゃうよー。でも、あんな風に言われるなんて……ちょっと本気になっちゃうかもー」






 家に帰ると洗濯物は取り込んだ上に畳まれており、俺は礼を言おうと遥の部屋に入るも姿がない。まさかと思って自室に向かうと俺の漫画を読みかけでベッドの上で眠っていた。スカートがめくれてパンツが見えているので目のやり場に困りつつ布団を被せようとしたのだが、突如腕を捕まれる。


「……起こすのも可哀想だな」


 俺の手を握って嬉しそうに笑う寝顔を見ていると起こす気にもならずベッドの端に腰掛け、起きるのを待つことにした。






「本当に世話が焼ける奴だ」


 だが、嫌な気はしない。この苦労の日々も愛しいと思えている自分が居た……。


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