第一話ーー物語が始まるらしいです
読んでくれてありがとうございます。
マイペースにやっていこうと思うので、更新日は不定期になると思います。
いろいろと試行錯誤してできるだけ皆さんに私の想像している内容をお伝えできるように努力しようと思っているので、できればコメントなどで応援や助言なんかしてやってください。励みになります。
では最後にこの物語を読んでくれた方々が愉快な気持ちになることを祈って前書きの終わりとします。楽しんでください。
「おーい、マスター?生きてますか〜?もしかして雑魚モブ程度の攻撃で立ち往生なんてしてませんよね〜?三大ギルドのギルマス様ともあろうお方がそんなんじゃ笑い話ですよー?」
盗賊衣装と水着がかけ合わさったような露出度の高い装備をしたサイドテールの副ギルドマスター、クルルシアがあまり気持ちのこもってない声音で話しかけてくる。
「んー?おぉ…」
ので俺も適当に返事を返しつつ愛剣を振るい真正面から襲ってきた二本脚で立つというどこかティラノサウルスを連想させるドラゴン種の翼を持たぬ地竜"レッサーロックシェルドレイク"をワンパンで倒す。レッサーロックシェルドレイクは名前の通りの容姿をしている。まんま岩石を身に纏った無翼竜だ。
「はぁ…。なんですかマスター?その気の無い返事は…。腐ってもトップギルドのギルドマスターなんですからもっとこうヤル気のある返事をしたらどうなんですか?だからあなたは他の三ギルドの下っ端共に舐められるんですよ!そもそも私たちのギルドはソロプレイヤーが集まって……」
あーうるさいうるさい。また始まったよこいつのお説教が〜、毎度毎度長いんだよな話が。それさえ治れば見てくれはそこらのアイドルやモデルにも劣らず整った綺麗な顔してんのにさ〜。背が低くて声がアニメ声だから絶対ヒロインとかマスコットキャラクターになれただろうにその生真面目な性格のおかげで全部パアだぞ!普通いねーよ!?座右の銘に完全無欠なんて言葉を敷く奴!!
「……」
ん?あれれ?なんだいつも30分以上も説教をするくせに今日はもう終わったぞ?何かあったのか?何かあったにしてはいつも以上に視線が痛いんですけど…。なんて言うのかな、突き刺すような?熱い視線を感じるぜ。もしかしてこのタイミングで俺に恋に落ちたとかですか?照れるな〜〜。
「…マスター、今悪口考えてませんでした?」
「ふっ、今頃俺の魅力に気づいたか。やめておけ…火傷するぜ……?」
「…はぁあ?」
決まった…。これはもう絶対こいつ落ちたよ!
『きゃーっマスター渋いカッコいい!』
『バカ…火傷しても知らないぜ……(イケボ)』
『はぁん…!らめ、マスターの声を聞いただけで下腹部がキュンキュンしちゃうの〜!』
『なに?それはイカン、何かの病気かもしれん。すぐ病院に行こう!』
『大丈夫…、これは私のお腹の中の女の部分が疼いているだけだから……。心配しないでマスター』
『俺に何かできることはないか?』
『抱いて!!』
みたいな展開がこの後待っているんではないかね!?いや、何も俺はこいつのことが好きだとかそんなんじゃないけど、じゃあないんですけども!女に求められたらそりゃあ男としては応えるべきでありましてからして、何も21歳という年齢で大人の仲間入りをして早一年がたったのに未だにDTだというこの状況に焦りを感じたりしているわけでは……ないとは言い切れないところが悲しいです!
あ、でも俺がこんなチンチクリンが好きということはあり得ませんよ?そりゃあ確かにヒンヌーはステータスだと思いますがデカいことにこしたことはないでしょう。とは言えこいつみたいな顔が可愛い小さな少女(さすがに幼女とまではいかないよね!)は慎ましいお胸と若さ故の締まりのある尻が一番なんですがね!
それにこいつはたぶん隠れ巨乳だと俺は思っているんですよ!あの装備はぴっちりならないようにできているはずなのに身体の線が分かるのはそういうことだろ?
「何を言ってんですかマスター?人の話を聞いてましたか?話が噛み合ってねーですよ?」
「お前の胸はCだ…なっはぁあん!」
み……みぞおちを殴りやがった………。あれれ〜?オカシイな、俺の装備は結構ガチガチの重装備なのにな〜。どうしてこんなに痛いの?君、拳闘士のアビリティカードか気功浸透士のアビリティカード取ってたっけ?あ、もしかしてコレは愛ゆえの痛みなのですか!?
「く……お前の愛の拳、効いた…ぜ……ガフッ」
「さっきから何を意味が分からない言葉ばかり言ってんですか!」
「着痩せ合成チンチクリン万歳……」
そう言いたいことを全て言い切った俺は某ボクサー漫画で見たことがあるような倒れ方で前のめりに倒れたのだった。
「何をやりきった感満載の顔で人のパンツ覗こうとしてんですか変態!」
痛い!そんな振りかぶって顔を蹴らないで!やっぱり鎧があるから肉体的苦痛はないけど心が痛むから!俺の飴細工のように脆いハートが君の一発の蹴りで粉々になるから!そのうえ変態って言葉でコスモの彼方に飛んでいっちゃうから!まだ紳士をつけて変態紳士しゃまのおバカしゃんってちょっと舌足らずな喋り方でお願いします!!できれば顔を紅潮させつつグズを苛むような目線をください!!
「何を考えているのかは分かんないですが顔が気持ち悪いです」
「褒めても何もでないぞ?」
「死ねっ!」
父さん母さん、見てますか?あなた方が残した宝物は今、兄ちゃんの顔を蹴り死ねとまで言いました。育て方を間違ってやいませんかね?
「マスターとは血が繋がっているわけでもなければ会ったのだってこのゲームが初めてですよ!」
「え、おまっ俺の考えが分かんのか!?」
「顔に書いてます!」
「そんなの書いた覚えはねー!……つまり、愛だな?」
「はぁ…、よくもまぁそんな事を恥ずかしげもなく真顔で言えますね……」
頭にその小さな手を当ててため息を吐く少女。その見た目のおかげでどこかの芸術家が描いた絵画のようだ。様になっている。
「苦労してるんだな…」
「だいたいマスターのおかげですかね」
「えぇーっと…、どういたしまして?」
「あんたは皮肉っつうもんが分からんのか…」
そう言ってまたため息を吐く。いや〜、オジさん君の将来が心配になってきちゃったよ。近い未来ため息娘とかいう妖怪が生まれたらたぶんこいつだろうな。可哀想に、その時は俺のことはスッパリ忘れて他の奴らを呪ってくれよ南無南無。
「おぉ〜い!マスターー!最上階に着いたみたいだぞ〜、どうする?一旦ここで休憩挟むか〜〜?」
ん、ふざけている間に最上階についていたようだ。ということはこの塔はコレで終わりか、やっぱりメインじゃなかったのね。
「マスター、やはりこの塔もメインじゃないみたいですね。メインなら少なくとも最上階に着く前に広間があって、そこにステージボスがいますからね…」
「だぁな」
そう、メインならステージボスがいなきゃならない。俺たちが今いる場所は塔の中だ。何故ならこのゲームをクリアし、解放されるにはタワーを四つ攻略しなければならないからだ。と言っても今言ったようにどうやら今いる塔は俺たちプレイヤーが攻略したいと思っているメインタワーではないらしい。
この世界にはストーリーを進め攻略度を上げるタワーと『塔の墓場』と呼ばれる地域に存在する廃塔の二種類の塔があり、廃塔はいくら攻略しても意味がないのだ。だが陸上で確認されている3つのタワーは最早『解放組』と呼ばれるトッププレイヤー達によってこの三年間のうちに攻略されているのだ。だが最後の一つだけどうしても発見することができず、三大トップギルドの主要人が集まって会議をした結果ここの塔のように大体が廃塔だとされている『塔の墓場』の中にメインタワーがあるのではないか、という話になったのだ。
このゲーム、《アビリティタワーオンライン》がログアウト不可のデスゲームとなり都市伝説の仲間入りをしてくれちゃったおかげで普通なら経験値稼ぎに持ってこいなストーリーとは無関係のこういう狩場は有難いのだが、そのストーリーを進めなきゃゲームクリアできず囚われ続けるとなったら、しかも俺たちのようなレベル上げに必要な経験値がバカ高く早々上がらないプレイヤーからしたらストーリーに関係しているメインに似たお邪魔虫はありがた迷惑なのだ。
「はぁ〜あ、この塔で俺らのギルドが攻略したのは何本目だよ……?」
「えぇーと、確か17本目ですね。私たちのギルド《独り狩りの猛者達》、魔法騎士団を自称するナルシギルド《剣魔騎士団》、約三万人ものプレイヤーが加入しており実質最大ギルド、旧名解放戦線共生血盟あらため《解放戦線血契国家》の三ギルドとその他のギルドの攻略結果を総計すると79本攻略、8本攻略中だったはずですよ。この塔に入ってから6日過ぎているので現在は攻略本数は増えてると考えても85本はまだいってませんね」
公私混同しない主義なのか分からんけどこういう時はしっかりと敬語で話す我がギルドのマスコット候補ちゃんクルルシア。できれば怒る時とかも敬語で怒ってみて欲しいな、たぶん全然怖くないと思うんだよね!あ、でも説教の時にバリバリの敬語でやられるとちょっと引くな…。
「ていうか…、まだそんだけしか攻略してないの?マジで?」
「マジです。それとファンタジアナイツと国家の攻略本数ですが、ナイツ16本攻略。国家14本攻略です」
「墓場の廃塔の総数は?」
「国家が発表した廃塔の総数は147本です。残り未攻略の廃塔はだいたい65・6本だと思われます」
うっ…。マジか〜〜、墓場を攻略しだしてから一年半は過ぎたよね……なんでまだそんなに残ってんだよー。てか加入者数最大の国家様は何をしてるんですかね?また面倒な政策とかほざいてんですかね、あっこの解放組って確か47人しかいなかったよね、それを調子に乗って血契四十七士とかほざいてた気がするよ。なんで三万人もいるくせにたったのそれだけなんだよって話なんですけど…。しかもその中で真にトッププレイヤーと言えるのは俺が見た限りでは二人しかいなかったよ。舐めてやがんのかしら本当に……。あーもう…ダメだ、思い通りに攻略が進まないからって国家の愚痴言っても変わんねーよ俺!
あ、そういえばあのギルドはまだ攻略済みの廃塔しかやってねーのかな、聞いてみるか。でもな〜、クルルシアにとって確か禁句だった気がするんだよねー。まあ、ものは試しですな。
「あー、あのギルドはやっぱり攻略済みの塔ばっかやってる?」
「まあ…はい」
「……」
「……」
いかんな、やっぱりあのギルドの話はクルルシアにはまだ禁句だったかしら?でもちゃんと確認とっとかないとダメだし、許せマスコット候補ちゃん!ってヤバいな、こいつの目からだんだん光が消えていってる気がする!何か、何かないか?この変な空気を吹き飛ばす何か…!
「あー…で、どうすんのマスター?できれば俺たちの中にもダメージくらい食らった奴いるし、今日はお前新人も入ってのパーティだからよ。ボス線の前に打ち合わせとかした方が良くねーか?」
そう言って頭をガリガリと適当に掻き毟るTHE筋肉ダルマって感じのオッさん、ハイゼル。歳は確か32だったはずだ、俺より10年上だったと記憶しているので間違いはないだろう。こちらは白をベースにしたレザーアーマーのような格好をしている。本当は裏にヒヒイロカネの小片を隙間なく縫い付けており、かつ急所には外側にエリアボスと呼ばれるボスモブの甲殻を組んでいるので何とも言えない鎧になっている。本人曰く「俺ぁ実戦料理人だからな、こいつぁコックコートよ!武器だって見ろ断塊包丁つってれっきとした肉厚包丁なんだぜ?」と言って回ったり主武器の馬鹿デカい包丁を掲げたりしていた。
「ハイゼル!マスターに向かってタメ口はやめてくださいといつも言ってるはずですよね!?」
ハイゼルの俺への話し方が気に食わなかったらしくクルルシアが注意をする。はたから見ると老け顔のハイゼルとチンチクリンなロリっ娘要素満載のクルルシアのやり取りはダメ親父をしっかりさせようとする娘って感じがするから和むんだよね。そう思っているのは俺だけではないようで他のギルドメンバー達もニマニマと気持ちの悪い笑みを作っている。お前らその顔面ちょっと逮捕ものだぞ、大丈夫か?
「う…うるせーな〜、嬢ちゃんが言うからちゃんとマスターって呼んでるだろう?これ以上俺に何をさせるつもりだよ…」
どうやら本人からしたらそんな和む要素はないようだ。心底不思議そうな顔をしていやがる。後ちょっと後ずさったところを見るにハイゼルはクルルシアのことを苦手をしているようだ。
「何をってそのタメ口をやめてくださいと言ってるでしょう!」
なお注意をやめないクルルシアさん。このやり取りのおかげで心を癒されるのだがこのままだと火力のあるアタッカーのHPが0になってしまうので止めに入るとしますか。
「あー…俺としてはハイゼルの方が年上なんだし、そのー…なんだ、敬語を使われてもむず痒いと言うか…ね。うん、だから俺がハイゼルにはそのままタメ口でね、いてほしいって頼んだんだよクルルシア」
やっべ何も考えずに止めに入ったから弱々しい物言いになってしまった。これじゃあ遠回しに否定した感じに受け取られちまうぞ。
うわ〜、マスコット候補とは思えない目で睨んでくるよ!何て言うかマジものの置き人形の目をしてる!お目目ぱっちりなのに光がさしてないよ!怖い!
「はぁ…、マスターがそう言うなら…もう良いですよ。好きにしてください……」
グハッ!ちょ…待って、そんな信じていた者に裏切られて人生に理不尽と過剰な失望を抱いて自殺フラグを立てたような人間が言う言葉を言わないで!平衡感覚を失った酔っぱらいのようなフラフラとした足取りで何処かに歩いていく背中がとても悲しそうだ。彼女の進路上にいる他のギルドメンバー達も道を譲っている。
「おーい、さすがに今のはやっちゃダメだと思うわ〜」
な…に!?ハイゼルてめえ助けてやろうとした人間に対してその言いようは酷くね!?後他のギルドメンバー達も非難の目を俺に向けるんじゃねー!
「おら…コレでも持って慰めに行ってこい」
そう言ってハイゼルがメニュー欄を開き、アイテム欄から可愛らしい花の髪留めを取り出し放り投げて寄越す。
「おら何してるマスター!あいつ一人でボス部屋に入って行こうとしてるぞ、早く止めに行かんかい!」
背中を力いっぱい叩かれた。ご丁寧に『浸透勁』スキルを使って鎧の防御を通過させやがった。マジ痛いんでやめてほしい。
背中をさすりながら俺は全速力で走って自殺しようとしているっぽいクルルシアを止めに行ったのだった。
◇◇◇◇◇
「GULLUUuuu……… GOAAAaaaaaaaaaaaAaAaAaaaAAAAAA!!!!」
「オラオラー!HPバー残りラスト一本だけだぞ、気張っていけよお前らー!」
4回目の特大咆哮をあげるこの塔のエリアボス"ハイラバベロニーテシェルドレイク"。見た目はティラノサウルスを連想させた二足歩行のレッサーロックシェルドレイクとは異なって、尾が太く長いトリケラトプスを連想させる容姿をしている。名前通り火山岩尖を纏っているのでいたるところがトゲトゲしい。特に額部のまっすぐ伸びた角は硬度が高く、俺たちトッププレイヤーのHPをごっそりと削る。
だがそんな強力なボスモブも4人パーティ4つと2人パーティ1つの計18人レイドの前では数の力の下、サンドバック状態である。1つのパーティを狙って襲いに行けば左右後方から狙い放題攻撃し放題なのだ。とはいえこの哀れなボスモブも全方位同時攻撃くらいはできる。針状の岩石を飛ばしたりドロドロに溶けた溶岩を出したり毒霧を放出したりだ。だがそこで俺とクルルシアの2人パーティの出番だ。
俺は俺の器用貧乏らしさをフルに活用して近・中・遠距離とオールラウンドな俺に似た器用貧乏な武器、多節型伸縮刃状鞭の伸縮自在の悪魔を使って、クルルシアは使い難さトップ5に選ばれてしまい最早使用するプレイヤー過疎状態となって久しいアビリティカード『投擲 飛貫槍』を他者からの助言ーーというよりいらぬお節介ーーを完全無視して三年間鍛え続けたいろんな意味での猛者であり、周りに突き刺したユニーク級以上の業物の数々を使って、ボスモブの全方位同時攻撃を避けるためにボスモブの周りからのいた攻撃線上にいたギルメンという名の邪魔者がいないことでありったけの攻撃をお見舞いすることができるのだ。
今もまた俺とクルルシアの独壇場タイムで、ボスモブのラストのHPバーの半分を削りとった。
HPバーが赤くなる。瀕死の合図だ。
「畳み込みましょう!」
こんな時に敬語を使うクルルシアちゃんマジ天使。あとはその右手に持った禍々しい悪魔とかが持っていそうな三叉の槍をワンドとかにしてればもっとグッときただろうに残念だ。なんで魔法職に進まなかったのだろう、とよく思ってしまうが俺たちのギルドはそういうの一切口出ししないことをルールで決めているので何も言わない。それを指摘したら真っ先に俺がギルメンの全員に吊るし上げられてしまう。
ギルドのマスコット候補たるクルルシアに叱咤されて鬨の声をあげるギルドメンバーたち。ギルドマスターである俺の言葉には何も返してこなかったくせに……。いや、気にしてないよ?ボスを倒すことに夢中になってたんだよね、だから聞こえなかったんだよね、何も俺に人望がないとかじゃないはずだ。うん、クルルシアが声を発した時ギルドメンバーたちは一旦のいてたから聞こえたんだと思う。
まあ俺の方が全然声を張ってたけど、しかもあいつら俺の声に反応してHPバー確認してたけど……。…うん、これ以上考えてたら悲しいことに結果しか待ってないと本能が伝えてくるので思考放棄することにしよう。
「Ooo………aaa、aaaaaaAaAaAaaaAAAAAAAAAAAAAAA!!!!」
そうこうしてるうちにボスのHPはもう消える寸前まできていたようだ。ハイラバベロニーテシェルドレイクが死ぬ間際の咆哮をあげる。それと同時にそれまで以上の威力を内包しているであろうドデカい針状の岩石と毒霧が爆散する。全員が退避し俺の攻撃線上から邪魔者がいなくなったので俺は渾身の一撃をお見舞いした。
テッテレッテレ〜〜
軽快なリズムを刻んだ短めの音楽とともにボスモブの身体が無数のポリゴン片となって流れるように霧散する。『YOU WIN』の文字が霧散したボスモブ中から表れる。その次に『Last attack bonus』という文字が視界の上部に表れ、焔山竜滅爆槍とアイテムの後に書かれていた。
「マスター帰りましょう」
自分のドロップアイテムを確かめ終わったのか、メニュー欄を消しながらクルルシアが駆け寄ってくる。
「そうだな、もうここには興味ないしな」
そう言って俺はギルメン全員の無事を確認するとボス部屋の真ん中にクリアしたことで現れた塔の出口に転移する転移魔法陣を使用して廃塔を後にした。
◇◇◇◇◇
「えー、では皆さん今からは攻略もしっかり終わったことですしそれぞれ自分の狩場にでも戻ってアビリティカードのレベル上げをするも良し、これから私たちと一緒に馬車でギルド本部に戻ってのんびりまったりもする良しです」
もう塔攻略の司会・進行役が当たり前となったクルルシアがいつも通りの言葉を言い、最後に「自由解散!」と手を叩きながら言うことで今回の塔攻略は終わりを告げた。それと同時に皆自分の移動手段を使って狩場に帰っていったり、残ってギルド本部に戻ることを選んだりしだす。それをボーッと見ていた俺にクルルシアが向き直って。
「ではマスター、私たちもギルドに帰りましょうか」
塔攻略の疲れを感じさせない元気ハツラツな笑顔でそう言うクルルシア。大抵の男がその笑顔で落ちるとは全くもって思っていないのだろう。それを見たいがために今まで残っていた奴もいたようで、顔を赤くしながら胸を押さえ、俺に対して嫉妬の視線を向けてくるギルドメンバー。もう良いからお前はさっさと自分の狩場に戻れアホ。
「すまん、俺は今日は一人で歩きながら帰るわ。クルルシアは他の奴らと一緒に先に帰っといてくれ」
俺が謝罪しつつそう言うとクルルシアは驚いたような顔をした。
「マスター、とうとうそこまでおバカさんになってしまったのですか…。ココから本部までいったいどれだけの距離があると思ってんですか!歩いてたら日をまたいじゃいますよ!?」
いや、そんなの分かってるよ?大丈夫、若年性アルツハイマーがきてるわけじゃないから、だからそんな怒りながら可哀想なものを見る目はやめてください。
「まあ、途中で適当にモンスター捕まえて乗って行くからたぶん今日中には帰れるよ。心配すんなって」
そう言ってクルルシアの頭を撫でてやる。すると俯いて震えていたクルルシアが俺の手を払いのけてギルメンが用意していた馬車に飛び乗った。おいおい、そんなことしたら馬車が痛んじゃうぞ。勢いが強過ぎたのだろう、ベギッと凄い音がした。
「もう知りません!マスターなんて内海の魔女に狩られてしまえば良いんです!それかはぐれボスに食われちまえです!!アホーー!」
出発してください!とギルメンに言い、馬車を進めさせるクルルシア。拗ねさせてしまったので後で何か甘いものでもプレゼントしてご機嫌を取ろうと思う。
さっきクルルシアが言っていた内海の魔女とは塔の墓場のすぐ近くにあるとても綺麗な中海に最近いるとされる人型エリアボスである。とはいえ今まで観光地となっていた中海でエリアボスが発見されないわけがないのでーーまあ、海中には誰も入ったことは無いだろうから絶対とは言いきれないがーーそれはエリアボスではなくハグレボスと呼ばれる異動型ボスや人型と言われているのだから中海を占拠しようとしているプレイヤーだろう。それに噂の尾ひれが付いただけだろう。
なんて言ったってそのボスはファンタジアナイツの副ギルドマスターを4:1で退けたなどというマユツバな噂があるほどだ。ナイツのワンパーティを、しかも副ギルドマスターが参加しているのに退けれる異動型ボスはいないだろう。
異動型ボスは固定の地域に存在するエリアボスに比べて遥かに劣る、俺なんか一人で狩った覚えすらあるほど楽勝なモブだ。HPバーが3つと多いだけでさほど警戒することはなかった。ナイツは個人の力は俺たちのギルメンに劣るもののれっきとしたトッププレイヤーを語れるだけの力はあるし、それにあちらは数が多いほど巧みな連携で強くなるんだ、こう言っては何だがパーティとしての強さは俺たちのパーティを超す。負けるはずがないのだ。
はぁ…、なんで俺がナイツの方を持たねばならんのだ。基本的に俺は個人の強さが好きなのだ。例え一般的に見たら奇天烈で見るに堪えないおバカプレイをしていようと、強いならば俺は大好きだ。俺のギルドはそんな奴らが多いしな。それとは違って多勢の強さなんぞはあまり好きではない、多勢で強いなど当たり前なのだから。
「もう、どうでも良いや…」
だんだん考えるのが面倒くさくなってきた。話が脱線し過ぎだな。とりあえず、内海の魔女などという噂はホラで、噂は噂でしかないのだ。
クルルシアと別れてから結構な時間が経ち、中海沿いに延びる少しはモブのポップが少ない道を進んでいるのでもう少ししたら件の内海に接することだろう。
と言っても内海は広い。どれくらい広いかって言うと琵琶湖並みに広い。いや、琵琶湖に行ったことは無いし、琵琶湖の大きさも内海の大きさも知らないので比較することなど出来ないのだが何となくのイメージでドデカい湖を考えると琵琶湖が出てきたのでとりあえず琵琶湖並みにデカいことにしといてくれ。
この世界、"アビリティタワーオンライン"はドーナツ状の大陸とその周辺に点在する小さな離島が陸地として存在している。中海ってのはこの大陸のドーナツの穴に当たる部分のことだ。
何故湖でなく内海なのかと言うと、詳しくは潜ったことがあるわけではないので知らないが、始まりの街ーー正式名称、モンステッド王国首都セーフティーーの王立図書館にあった"英雄賢者アダマンの世界冒険記"に「このヒストリア大陸の湖ラクリマは外海と地下洞窟を経由して繋がっている模様。そして魔力が溜まり続け、水の魔力密度が高いので外海の深海魚が魔力を吸収し独自進化をしたため湖の魔魚たちは強力なのだと判明。いや、外海と繋がっており海水であるため最早湖ではなく内海と呼ぶべきであろう…。」と記していた。まあ所謂ありきたりな設定紹介の端末にそう書いてあったのでそうなのだろうということで皆内海と呼んでいる。
「ん…、見えてきたな」
一人でいると如何せん独り言が多くなってしまうので寂しい。
内海はいつ見ても綺麗なので心休まる。少しあそこで休んで行くのも一つの手である。うん、休もう。久しぶりに日光浴をしながらごろ寝でも決め込むとしよう。
そう決意した俺はできるだけ長く日光浴をするために走って内海に向かった。
内海には"英雄賢者アダマンの世界冒険記"にもあったように魔魚が棲んでいる。まあ魚型のモブのことなんだが、こいつらを狩るのは少しばかり梃子摺る。特にパーティ狩りとかは向いてない。何故なら海水の中では"泳ぎ"アビリティカードが無ければ動くことも出来ないし息も持たないのだ。厄介極まりない。その上相手は水中モブなので当たり前のごとくスイスイと空を舞う鳥以上に動きの読めない泳ぎでやってきてヒットアンドアウェイで捕まえることが難しい。戦士泣かせなモブばかり。
かといって魔法職は魔法職でフィールドが水中なので魔法のほとんどが無意味になってしまう。例を上げるなら炎魔法は使用不可、雷魔法は感電し、水魔法は水流を読まれて避けられ、風魔法は真空波を打ち出せたが水の抵抗で威力・速度ともに弱まり、重力魔法は浮力が邪魔して意味をなさず、土魔法は弾丸を打ち出してもすぐ水に溶けてしまう。フィールドが魔法職を拒んでいるかのような気さえするほどだ。まあ、他にも魔法系統は雑多にあるらしいけど使い手が少ないか弱いか使い難いかで試すことすらできなかった。それらが重なって、泳ぎアビリティカードはカード枠の肥しだとまで言われたほどだ。まあ、それは今は置いとこう。
それより内海での日光浴が優先だ。光が差した内海はキラキラと反射させていて、その反射した光と日光の光の両方を浴びて海面をゆったりと泳ぐ白い影が見えた。その時の俺は綺麗なモブだな〜、なんてありきたりな感想を抱いていただけだった。ちょうど良さげなマングローブに腰を下ろしながら日光浴をするためにメニュー欄から贔屓にしている裁縫士のプレイヤーに作ってもらった枕を取り出し、さあ寝るぞと枕と頭のフィット感を確かめている時にザバァッと音がした。まさかこのマングローブに足ヒレを持った陸海魚モブが登ってきたのかと思い、横に置いといたボス戦の時に使用していた多節型伸縮刃状鞭『伸縮自在の悪魔』に手をかけて向き直った。先に申したとおり俺は白い影がモブだと思っていたので驚いた。
「ん。君は私の特定席で何をしているんだね?」
白磁のような白くて綺麗な肌で、スラリと伸びた長い足にD以下であるとは思えないたわわに実った豊満な乳房は全体的に細めであるが故にハッキリと自己主張をしていた。
脇毛などの無駄な毛は一切なく、下の方も似通っている。あ、黒子だ…。
肩から伸びた腕は足と同じく引き締まっており無駄な筋肉・脂肪がないことが伺え、手から伸びた指は細く長い。
首は少し力を入れたら折れてしまうのではと思える女性特有の細さを持っている。
顔の造形にいたっては美の女神がそのまま自分の顔をとっつけたと言われた方が納得がいくほど整っている。
妖艶さがある薄めの紅色をした唇、スッと通った鼻筋はしかし外人のように無駄に大きな物ではなくどちらかと言うと小ぶりで、瞳は少し光の加減で茶色が混ざりつつベースはやはり黒、睫毛が長く大き過ぎない目と合間ってエロさがある。眉も細いし流し目とかしたら威力がヤバいだろう。口の端の下に黒子があってまたエロい。
髪は長く、今は下ろしているので腰骨の辺りまできていて、くすみなど見受けられない漆黒の髪色で艶やかに光を反射している。触れば何の抵抗もなくサラリと撫で下ろすことができそうで、肌触りなど抜群なのだろうな。
もう言うまでもないだろう、そこに立って俺に話しかけてきた彼女は全裸だった。
これが俺と彼女の物語の始まりで、ここ最近の代わり映えのしなくなった世界でまた始まった愉快な物語の始まりだった。
き、緊張する…!
面白かったでしょうか?
面白かったと思っていただければ光栄です。
まあ、一話だけで分かるかハゲって感じですがw
面白かったならポイント入れてくれたら嬉しいな〜
あ、あざとかったですねwすいませんm(_ _)m
では次話から物語が始まるので(今回はプロローグもどきですw)乞うご期待ください!
∃・_・) < コ…コメントくれたら嬉しいな///




