第三十九話 運搬料込みで
翌日になっても温泉町ユノトスではまだ祭りが続いていたが、俺とモナは午前中のうちに伯爵領を後にした。
あの見窄らしかった子供二人だが、金を持たせて普段の居場所を聞いておいた。最高級宿ハイジックから歩いて十分ほどのところにある孤児院で生活しているそうだ。残飯あさりをしていたのは、孤児院が貧しく満足に食べられないからとのことだった。いずれ訪れることになるかも知れない。
ところで伯爵一家に魔法のバッグを渡したので、コレッタたちにプレゼントする予定だった数が足りなくなってしまった。そのため屋敷に帰る前にモナと一緒にヒュブル村に行くことにしたのである。
「明後日またユノトスに行かれるのですよね」
「今度はコレッタたちを連れてね」
「いいなあ。私もまた温泉に入りたいです」
「温泉気持ちよかったもんな」
「次はいつ行かれるのですか?」
「それについてはちょっと考えがあってさ」
「どんな?」
「まだ決定じゃないから目処がついたら教えるよ」
そして三日後、俺はコレッタ、ルラ、ルリ、ルルの四人を連れて温泉町ユノトスに向かった。宿は伯爵がリザーブしてくれた、前回と同じハイジックの客室露天風呂がある一泊金貨三枚の部屋だ。
ただし担当はあのフロント係の男性ではなく支配人だった。俺が領主の客と知って、粗相があってはいけないとでも思ったのだろう。コレッタたちが奴隷と分かっても態度を変えるようなことはなかった。
さすがにお披露目は終わっていたので祭り中とは言っても町は平常運転に近かったが、温泉町ということもあってか観光客の姿は多い。町の見物は後回しにして俺は皆を連れて伯爵邸へと向かった。
「レン・イチジョウ様ですね。ご案内致します」
門番に名前を告げると、特に身分証などを確認することもなく邸の中に通される。コレッタたちは城のような建物に興味津々のようで、騒ぎこそしないまでもキョロキョロと辺りを見回しながらついてきていた。
「旦那様、すごいお屋敷ですね」
「伯爵様だからね」
「あの壺きれい」
「大っきな絵です」
「絨毯ふかふかー」
今日の四人はメイド服姿でも革鎧にミニスカート姿でもない。丸襟で前ボタンのひざ丈ワンピースに、後ろの大きなリボンが可愛らしいベルトを巻いている。お揃いのデザインで色違いだ。こんなに可愛い女の子たちが旦那様、お館様と慕ってくれているのだから、俺は本当に果報者だと思うよ。
「レン・イチジョウ様ご一行様をお連れしました」
「通してくれ」
食堂の大きなテーブルには白い布が敷かれ、飲み物のグラスが置かれている。向かって右側には伯爵夫妻とフェルナンドにジェリカ、それから初めて顔を見る少女二人は話に聞いたご令嬢だろう。六人とも俺たちを和やかに迎えてくれた。
「よく来た、レン・イチジョウ殿。お嬢さんたちも座るといい」
「お招き感謝致します」
「今日はご婚約者殿はいないのかね?」
「モナは仕事がありますので、今回は冒険者パーティーのメンバーを連れて参りました」
俺は四人を紹介した。
「レン君パーティー組んだの?」
「うん。コレッタは食事とか雑用担当だけど、こう見えてルラは戦闘職のBランク、ルリとルルも戦闘職のCランクなんだ」
「すごいですわ! そんなに可愛らしいのに」
言ったのは長女のフレデリカである。
「じゃあもうキパラ大森林とかにも行けるのね」
「だね。最近は行ってないけど。あ、そうだ。イートンあるけどいる?」
「いる!」
「イートン? あんな安い肉が欲しいのかい、ジェリカ?」
「違うわよあなた。天然物よ、天然物!」
「天然物は美味いのかね?」
「お義父様、全く違います!」
伯爵家なら買うのは苦でもないだろうと思ったが、買えるのと手に入るのは違うのだ。キパラ大森林に棲息する天然物のイートンは、遠く離れたこの地では入手は困難なのである。
「血抜きと解体まで済ませてありますから、厨房に運びましょうか?」
「それには及ばん」
伯爵がパンパンと二回手を打つとすぐにメイドさんが三人、ワゴンを押して俺のところにやってきた。一頭分を乗せて三台のワゴンが埋まる。
「料理長に言って人数分の料理を作らせなさい」
「かしこまりました、旦那様」
メイドさんの一人が言うと、三人ともきれいに揃ったお辞儀を見せてくれた。さすがは本職のメイドさんだ。それを見たルラたち三姉妹が目を輝かせている。帰ったら練習するんだろうな。可愛い。
元々用意されていた料理が並べられ、まずは昼食のスタートとなった。先付け、フレンチではアミューズと言えばいいのだろうか。続いて前菜、スープ、焼き物、肉料理と続くコース料理だ。伯爵家の料理長ともなれば腕もいいのだろう。どの料理も見た目、味共にパーフェクトだった。
「旦那様……」
「どうした、コレッタ?」
「負けました。完敗です」
何と戦ってるのさ。俺はコレッタの作ってくれる料理も好きだぞ。もちろんコレッタのことも好きだ。
そしていよいよイートンの料理が運ばれてきた。皿に乗せられたそれは見た目でいうとポークソテー。添えられた温野菜がメインを美しく彩っている。それをナイフで一口大に切って口に運ぶ。
「美味いな!」
「美味しい!」
「これは……! 本当にあのイートンなのか!?」
「ね、私の言った通りでしょ?」
「ジェリカ、君を疑ったわけではないが素直に謝罪しよう」
「私もだ、ジェリカ」
「お義父様まで……許しましょう。特別ですよ」
どうやらジェリカが嫁いだ伯爵家は笑いの絶えない楽しい家のようだ。俺もモナやコレッタたちとこんな家庭を築きたいと思う。
食事はその後にデザートまで出て終了となった。コレッタは料理の味をしっかりと刻み込んでいたようだし、ルラたちはメイドさんの所作をつぶさに眺めていた。四人はそれぞれ得るものがあったようだ。連れてきて正解だったな。
ところでコレッタ、うちにもちゃんとダーグという料理人がいるんだからね。忘れたら可哀想だよ。
「そろそろ本題に入るとしようか。お嬢さんたちはどうするね? もし町を見て回るなら案内をつけるが」
「いえ、旦那様と一緒にいます」
「「「います!」」」
「そうかね。ではレン・イチジョウ殿。まずは先日のエアコン木箱と暖房用木箱の代金、それから魔法のバッグの代金の金貨六百枚だ」
「六百枚? 少々多いような気がするのですが」
「ここまで運んだ運搬料込みだと思ってくれ」
「承知しました。ありがたく受け取らせて頂きます」
ここで変に断ってしまっては伯爵の顔に泥を塗ることになる。素直に受け取っておくべきだろう。それはそうと伯爵一家も誰一人席を立とうとはしない。この後の話に興味があるということなのだろうか。
「ところでレン・イチジョウ殿は私に何か頼みがあると言っていたね。それを聞かせてもらえるかな?」
「かしこまりました」
そこで俺はぼったくり商人を懲らしめるために、ある考えを口にするのだった。




