80.悪夢の始まり2
アウトバーナーに向けて大勢の足音が向かってゆく。
足音の正体はリーウェン子爵軍である。
「なんかアウトバーナーが騒がしくないか?」
子爵軍の司令官でもある衛兵隊長が言う。
「そうですね。街道の衛兵も見当たりませんし、もしかしたらこちらの動きが読まれているかもしれません」
答えたのは子爵軍の副官の男だ。
「それは参ったな。奇襲して驚かせてそのまま帰るつもりだったのに」
今回の子爵軍の目的はあくまでも牽制であった。
アウトバーナーと本気で戦争する気はないのである。
牽制はちょっと脅かして「次はないぞ」というようなメッセージを相手が受け取ればそれで終わりなのだが、奇襲が成功せずに真っ向から交戦されると本気の戦争になる。
牽制目的で派兵されたのに「相手に攻撃されたので帰りました」では牽制どころかより一層舐められるだけである。そのため交戦されればそのまま戦争であった。
「アウトバーナーへ向かう街道もいつもと比べると人通りが多いですね」
副官が言う。
「そうだな。もしかしたらアウトバーナーですでに何か起きているかもしれん。そもそも爵位が上の貴族に喧嘩売る馬鹿がほかに何もやらかしていない保証は全くない。これは貴族領が変わるかもしれんぞ」
衛兵隊長が答える。
「国も動きますかね?」
「そりゃあ動くだろ。リーウェン子爵は完全に怒ってたから国王にも報告上げるだろうさ。謀反の疑いありとかの大層な名前でな」
「謀反はあながち間違ってませんがな」
「さぁ俺らの仕事は脅かすことだ!気合い入れていくぞ!」
「「「「「「おぉぉーーーーー!!!!」」」」」
こうしてリーウェン子爵軍はアウトバーナーへ突撃を開始した。
遡ること数時間。
まだ陽が登りきらぬ朝方。アウトバーナーの男爵の館には衛兵がひっきりなしに出入りしていた。
「男爵!緊急事態です!」
「今度はなんだ!」
デウグルーブがやつれた顔で部屋に入ってきた衛兵を見る。
「リーウェンのギルドメンバーがカイラ達三人の解放を求めて押し寄せています!」
「はぁ?そんなもん追い払えばいいだろう!」
「それがカイラ達三人を不当に逮捕したことが露見したようで、斬りあいに」
「どこから情報が漏れたんだ!」
「リーウェンで子爵が許可証を発行していないのがギルドメンバーに漏れたようで」
「どうにかしろ!」
「人数に差がありすぎてどうにもできません!奴らはカイラ達三人の即時解放で手を引くと申しておりますがいかがしますか?」
「どうもこうもあるか!ここにいない人をどうやって引き渡すんだよ!」
「それは現場でも説明しているのですが、全く信じてもらえません」
「畜生が!」
デウグルーブは知らぬことだがこのときリーウェン子爵軍だけでなく大勢のギルドメンバーが各地からアウトバーナーへ向かってきていた。
アウトバーナー男爵家とギルド本部の癒着が広まったためである。
「アウトバーナー男爵家がギルドメンバーを不当に逮捕監禁している。さらにこれはギルド幹部も関わっておりその幹部は多分アウトバーナーの男爵家の人だろう」
この噂が一夜にして広まったのである。
なにせギルドは国家とは一切かかわらないことで大陸中に支部をもつ巨大組織となったのである。
その建前が一夜にして崩れたのである。
大陸中が動乱に巻き込まれようとしていた。