試験①
☆
クロエは振り下ろされる拳をただ見つめていた。
それを避けるつもりも、防ぐつもりもなかった。
クロエには分かっていた。
それが自分に届かないことを。
彼女がわざと拳を外すとは思えない。
だが、自分にダメージを与えることはできないだろうと予測した。
それは自分が何か対応するからではない。
クロエの前に巨大な楯が出現していた。
緑色のそれはエミルの拳を受け止め、炎を散らしていた。
エミルはキョトンとし、クロエの後ろにいる人物を見た。
そしてすぐに営業スマイルを浮かべて、
「これはフレデリック様。こんにちはです」
「あぁ。こんにちは。で、これはどういうことだ?何をしているんだ?」
「いえいえ。いかにも不審者の方がいられましたので、ちょっと挨拶を」
「彼は学園の生徒だぞ。それをいきなり追い出すとは学園側に喧嘩を売るつもりか?」
「そんな滅相もありません。私は穏便に話し合いを」
「穏便に話し合いのわりには殺傷能力のある一撃を放とうとしたよな?」
「はは、見てらっしゃいましたか?」
「とにかく彼は学園の生徒だ。手荒なことをするな」
━━学園?
「フレデリック様がそう言うなら仕方ありませんね」
エミルは頷いて、
「クロエ君。申し訳ありません。実はアナタのことは学園側からお話は伺っております」
彼女は申し訳なさそうな顔を━━まったくしてなかった。
目が冷たく、クロエを観察している。
「別に気にはしてない。これでギルドカードを発行してくれるんだろう?」
「今はギルマス様が不在なためすぐにギルドカードをつくるのは無理です」
エミルはため息をした。
「本来はギルマス様が見極める役をしていますが、いつお戻りになるかも分かりません」
「じゃあ、出直すのか?」
クロエは「面倒だな」と呟いた。
「いえ。簡単な試験を受けてもらえればギルドマスター代理様がギルドカードをつくってくれます」
「今のは試験じゃないのか?」
「いえ。これは私の趣味、でして」
「まったく悪びれてないな」
「アナタもやられるのを想定していたでしょう?」
「まあな」
「クスクス」
「ククッ・・・・」
互いの目を見つめて笑いあう二人に、
「俺のことを忘れるなよ?」
呆れたようなため息が聞こえてクロエは振り返った。
金髪の若い青年が一人。
いかにも王道のイケメンとした雰囲気の彼にクロエは露骨に舌を鳴らした。
「誰だ?」
「はじめましてだな。俺はフレデリック・クロー。クロス学園武芸科プレハブ組の教師だ」
「プレハブ組?」
クロエは眉をひそめた。
「まあ、魔術科でいうところのF組と同じだ。校舎や教室も与えられず辛うじて学園の敷地内にある場所でプレハブを教室がわりに使用している。武芸科にもF組はあるが、あつかいはそれ以下だ」
「初耳だ」
「プレハブ組は劣等生や落ちこぼれではなく、力が中途半端な生徒が集まっている」
「どうして俺のことを知っている?」
「お前ンとこのダメ教師に聞いた」
「なるほど」
「ギルドで顔を合わせることがあれば私のかわりに面倒見てくれとも言われたな」
「本当にクソダメ教師だな」
「それは否定できん。実力があるのに勿体ない」
フレデリックはため息をついた。
「アンタは大楯使いか?」
「あぁ。よく知っているな」
「聞いたことがある。楯を具現化する者ははじめて見たが」
>名前:フレデリック・クロー
年齢:二十。
種族:人間種族
職業:クロス学園武芸科プレハブ組の教師
クラス:大楯使い
固有スキル:エラー
「?」
クロエは頭を押さえて自分の目を疑った。
フレデリックのステータスを見て怪訝に思う。
ステータスのいずれかの項目にエラーが出るのは|珍しくない。
しかしクロエが一瞬瞬きをするとフレデリックのステータスが消えていた━━いや、見えなくなった。
━━どういうことだ?
クロエは眉をひそめたまま視線を移動させ、今度はエミルのステータスを・・・・
━━やっぱり見えん。
なぜ他人のステータスが突然見えなくなったのか、思い当たることがあった。
今頃、封印の宝珠の効果がきいてきたようだ。
思ったより力が下がった、と思ったほうがいいかもしれない。
「俺には魔術の類いは使えないが防御にかんしては自信がある」
「楯属性か?」
「特殊属性の一つらしい。俺は攻撃はてんでダメだけどな」
フレデリックは苦笑した。
「その学園の教師がなぜここにいる?」
「引率だ。コイツらのな」
クロエが目を向けて見るとフレデリックの後ろに二人の少年少女の姿があった。




