木獣姫-ドライ・シード-②
☆
━━木獣姫。
クロエは胸中でそれを反芻した。
詳しくは知らないがクロエは木の妖精のようなもの━━とだけ聞いたことがあった。
そして古代種の一つでどの種族にも属さない。
自然の魔力が凝縮したものが姿を持ち、人並の意識を持つ。
噂だと愛らしい姿をしていて、滅多に姿を現さない。
この世界の古くからの民。
彼女らはいたずら好きで自分のテリトリー内にはいったモノは許さない。
しかしクロエは彼女らがこの大陸にいるとは聞いたことがなかったが。
「リッカがとある場所で木獣姫を見つけてのー、そのまま連れ帰った」
「まさか人さらいまがいのことをしたのか!?」
「いや、弱っておったのを保護したらしいんじゃ。彼女らの民は自然の魔力を吸収することによって回復するらしいが、保護した彼女はちいと特殊らしくてな。詳しくは知らんが。
リッカは森の中でしばらく彼女と暮らしておった」
「リッカからそういう話、聞いたことはないが?」
「あのリッカが無償でよいことをしたと聞いたらクロエは笑うじゃろう?」
「あぁ。自分の耳を疑うな」
「そうじゃろう。ワシもそうじゃ。木獣姫は離れたリッカを待ち続けておるのじゃよ。力を使って森に入ってきたモノを惑わす。屋敷に近づけさせないために」
「じゃあリッカを連れていけば木獣姫は何もしないんじゃないか?」
「アヤツが動くと思うか?」
「メンドイ、なんて言いそうだな」
「否定はできん。最後まで責任を持てばいいものを」
「最低なオンナだ」
「・・・・・・」
ボロクソに言う二人を眺めつつカノンは「非常識なアナタたちが言うことですか?」とひそかに思った。
「俺がいっても結果は同じじゃないか。迷わされたあげくに屋敷につかん。野宿は嫌だから寮の一部屋を提供してくれ」
「それは無理じゃな。寮は満ぱいじゃ(笑)」
「あきらかにウソじゃないか」
「クロエなら迷うことはないぞ。木獣姫は魔力酔いをさせて方向を狂わす。クロエならそれを阻止する道具━━というか、剣のペンダントを持っておるじゃろう」
「あぁ。あれも一種の魔剣なんだ。魔剣【ナナシ姫】。相手の魔術や魔法を無効化するかわり俺も力を使えん」
「魔剣につける名前じゃないと思うが、クロエなら問題なしじゃろう?」
「無事に屋敷にたどり着けたとして、そのあとはどうする?俺は無理やり追い出してまで住みたくないぞ?」
「木獣姫は一度心を開けばなつく。そして加護を得ることもできる」
「リッカは木獣姫をふくめてこの学園に通わす気なのかよ。俺は暇じゃないのに」
「今は一学生の身分じゃろう?」
「髪の毛抜いてハゲにすンぞ?」
ニヤニヤしているオルバにクロエは舌打ちする。
オルバと顔をあわせていると精神的疲労で死にそうになりそうなのでクロエはさっさと退散しようと考えた。
踵を返す。
と、後ろから声がかかった。
「クロエ君」
振り返ってみるとカノンの姿があった。
何やら真剣な目でクロエを見ている。
クロエは首を傾げた。
「何だ?」
たとえ目上に対してもぞんざいな態度だ。
何かに注意事項でもあるのかと思ったのだが、
「ちょっとお願いしたいことがあるのですが、ダメですか?」
「なぬ。カノンちゃん。まさかクロエに一目惚━━」
「黙りなさい、クソジジイ!」
カノンの魔導銃が火を吹き、オルバの頬をかすめて壁を貫通した。
少しでもずれたらオルバの首が吹き飛んでいたかもしれない。
命の危険よりもカノンに「クソジジイ!」と言われたことがショックだったのだろう、オルバは涙目だ。
「オルバ様のことは放っておいて」
いじけているオルバを完全無視するカノン。
「いいのか?あれ」
「明日には元に戻りますよ。あの人、Mらしいですから放置されていると喜んでいるはずです」
「・・・・・・」
真面目そうなカノンの口から「M」という言葉を聞きたくなかった。
「決してオルバ様が言ったようなことではありませんから」
「あぁ。だろうな」
彼女は一目惚れするタイプではない。
「学園都市クロスに入る前不思議な少女に会いませんでしたか?」
「不思議な少女?」
クロエはしばらく考えてから「あぁ」と頷いた。
「スライムの群れン中にいたな。寝てたが」
「はい。彼女のことで相談したいことがあるのです」
カノンはオルバに視線を投げたあとでクロエの耳に小声で囁いた。




