木獣姫-ドライ・シード-①
☆
クロエはため息をした。
学園に来てそうそう力を見せてしまったので精神的に疲れた。
オルバにいい材料を提供してしまった気分だ。
絶対にリッカはこうなることを予想していたはずだ。
リッカの思惑ですすんでいることに不満を覚える。
「クロエよ。学園都市クロスにも他国と同じで様々なギルドがあるが学生が所属する冒険者ギルドは四つ、その中の三つが定番じゃな」
カノンから学園都市クロスの案内を受け取ったクロエにオルバが声をかけた。
「一つは騎士科が集う冒険者ギルド【太陽の搭】。これはクロエには関係ないな。
二つ目は魔術科だけの冒険者ギルド【月の城】。三つ目はどちらの科も所属可能な冒険者ギルド【花の妖精】」
「どうして冒険者ギルドを分ける必要がある?」
「騎士科と魔術科は仲が悪いんじゃよ。だから大抵は一緒にクエストをやりたがらない。が、互いの偏見を持たないのが冒険者ギルド【花の妖精】に属している」
「どこかで聞いた設定だな」
「設定言うな」
オルバは軽くクロエを睨み、
「学生たちはパートナーかパーティを組むことが義務づけられている。が、Sクラスのみ単独が許されておる」
「効率悪くないか?騎士科の連中だけで組んでクエストしても回復役がいないんじゃな。薬草とかも限りがあるだろうし」
「そのための護法○○じゃ。護法がつくジョブクラスは多少回復魔術が使える」
「じゃあ魔術師たちはどうなんだ?魔術がきかない魔物もいるだろう?」
「クロエみたいにか?魔術師な中にも剣術や武道を心得ておるものもいる。それとパーティでも組めば多少は危険度が下がるだろう」
「確かもう一つギルドあったよな?何ではぶいた?」
「ふむ。ギルド【不死の猫】というんじゃが、そこのギルマスがちいっと素行が悪い━━というか、非常識なんじゃ」
その言葉にクロエは驚いた顔になった。
「非常識のようなアンタがそこまで言うなんて」
「クロエがワシをどういう目で見てるか分かった」
オルバは渋い顔をした。
「学生にも問答無用で無茶を言いよる。パートナーやパーティーが原則の学生にも単独でクエストをやらしたりしての。実力関係なく」
「あそこは一階がクエスト受付兼飯屋になってます。昼夜問わずに柄が悪い人たちが出入りしていると報告があがってます。違法もなく正規のギルドの一つですから営業には問題はありません」
カノンが説明をした。
「ギルド【不死の猫】のギルマスもしかして【呪い持ち】か?」
「その通りじゃ。それもリッカちゃんと似た感じのな」
オルバは頷いた。
「ちなみに彼女は半年くらいにナンバーズ入りしたばかりでの。しかもちぃと戦闘狂なところがあるから力を見せたら目をつけられる」
「だが楽しいヤツではありそうだ」
クロエはニヤリと笑う。
目が輝いていた。
「クロエ、まさか」
「あぁ。俺はギルド【不死の猫】に所属する」
「は?」
「そういうと思った」
カノンとオルバは違った反応を見せた。
「今のクロエとウマがあうと思うぞ」
「俺としてはリッカと同じようなにおいを感じる。変な意味じゃないがな」
「そこの職員兼店員兼メイドもくせ者ぞろいだから組めばも気に入るじゃろう」
「ちょっと待て。メイドって何だ?」
「知らぬのか?」
「メイド自体知らないと言っているんじゃない。ギルド【不死の猫】はメイド服で働いているのか?」
「眼福じゃぞ。
彼女らの愛らしい姿に屈強な男どもも骨抜きじゃ」
「まあ、その格好は見たいと思うが、中には不埒なことをしようと考える男もいるだろう?」
「あぁ、それはな」
なぜかオルバは遠い目をした。
「誰もが命は惜しいものじゃ」
「そこの職員、強いのか?」
「まあのー。何人かは学園の教師並━━そして一人はギルマスクラスの実力者だと聞いておる」
「この都市はバケモノ揃いか?そんな連中が集っていたら他の国がいい顔をしないぞ?」
「そのための契約はしておる。奴らも迂闊に手出しはしてこん」
「悪いジジイだな」
「ただ実績があるだけじゃ。誰を敵にまわせば厄介か、よーく分かっておるんじゃよ」
ドヤ顔で笑うオルバを冷めた目で眺め、
「世界のためにアンタを殺したほうがいいと思うぜ」
「!?何を言いよる、クロエよ!」
オルバは焦ったように叫んだ。
実際、他国すべての戦力を投入すればいかにオルバも━━とは思うがそれでも何やら対抗する手段がありそうで油断はできない。
「冗談だ」
「まったく笑えなかったぞ」
オルバは頭に手をやって、
「冒険者ギルドに行くのは今日じゃなくてもいいからな。ギルドカードを発行したら学園側に提出してくれ」
「分かった。それからリッカから聞いてないか?」
「何をじゃ?」
「俺が住む場所」
「ないぞ、そんなの」
「は?」
「ここにはクロエが住む場所はない」
「おいおい。確かにリッカは」
「この都市にはないが、ちゃんと用意しておる」
「どこに?」
「この都市の外、街道から離れた場所の森の中」
「・・・・・・」
「通称【迷いの森】と呼ばれておる」
沈黙。
ただ黙ったままいるほど状況を受け入れるほど穏和な性格ではないクロエは棚の上に飾ってあった高価そうな飾り皿を手にした。
「クロエよ、何をする!?」
血相を変えたことから相当大事なものなのだろう。
「迷いの森って何だ?」
「踏み込んだら最後、必ず出られなくなるなんてことはないから安心せい!」
「できるかーっ!」
「あ”あ”あ”あ”あ”あっ!?」
クロエが壁に投げた皿をオルバは身をていして受け止めた。
クロエは舌打ちする。
「その森自体に何か力があるのか?」
「いや、森自体はただの森じゃな。多少ゴーストが出没することがあるが危険はない」
「ゴーストが出る時点で危ないだろうが。とりつかれたらどうする?」
「大丈夫じゃよ。無害じゃからな」
「信用できるか」
「クロエ君。それは本当です」
カノンがオルバのあとを引き継いだ。
「クロエ君が言っているのはゴーストではなく、悪霊や怨霊のことですね」
「どっか違いがあるのか?」
「悪霊や怨霊はどちらかといえば魔物に近い性質を持った存在です。
魔物並に知能がありませんが生前の時の未練を濃く残してどの世界に行くことも出来ずにさ迷い、時には生者を器にして甦る。それが悪霊や怨霊と呼ばれる魔物。
そしてゴーストとはモンスターの一種だと最近考えられるようになったのをクロエ君は知ってますか?」
「それは初耳だな。じゃあ、何か。ゴーストはハーフ?」
「はい。ただ器である肉体を持ってないだけで私たちのような思考を持っています。どういう理由で迷いの森に近づくのかまだ分かりませんが、彼女らを怖がらないでやってください」
「別に怖がることはないが、呪いの森じゃないのか?」
「じゃから普通の森じゃ。ただしこれからクロエが住む屋敷のそばにある木がちいっと普通じゃないがの」
「毒樹が棲息しているのか?」
「リッカがそんな場所に屋敷を建てるか?」
「リッカが屋敷を建てたのか?」
「あぁ。昔のリッカは人が嫌いでな、その屋敷に引きこもっていた」
「想像できん」
「昔はいろいろあったんじゃ」
オルバは懐かしそうに目を細めた。
「かつては迷いの森とは呼ばれていなかった。が、リッカが森の中にある屋敷から離れたあとからそう呼ばれることになる。なぜか屋敷に近づくことができないらしい」
「森自体に問題がないとすると。考えられるのは」
「そうじゃ。クロエが考えている通り。棲んでいるんじゃよ」
オルバはヒゲを撫で、
「木獣姫がな」




