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開闢のミーディアム ~人ならざる者が見える辰美の視点~  作者: 犬冠 雲映子
悪い魔法使いと越久夜町編《人ならざる者が見える辰美の視点》
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鬼神 1

よろしくお願い致します。

「──それにはこの時空をハッピーエンドにするしかないのさ。」

「ハッピーエンドって、ゲームとかじゃないんだからそんなの無理だよっ」

「上位の者にしたらあんたらの世界はゲームかジャンク扱いだろうよ。」


(あたしが生きてる世界はジャンク扱い?馬鹿げてる。そんなヤツらのために、ハッピーエンドにするなんて。──嫌いだ。そういうの。)


 暗い洞窟にも似た、湿った闇の匂い。寒い風が肌を撫でる。死の世界を連想させる何も無い、暗闇。

 まるでここは地下のトンネルだと"意識"が言う。そうか地下を通っているのか、ならそろそろ出口がある。手探りで前へ進み、ふっと視界が開けた。

 山の合間にあるあの小さな田舎町。ポツポツとまとまって建っている民家に挟まれた路地にいた。

 夢路を恐る恐る歩いていくと標識灯があった。()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 なかなか精巧に造られていて、歩くと靴音が反響する。アスファルトに落ちたゴミクズだって垣根で身じろぎした野良猫も現実世界と大差ないのである。これでは夢というより異界だ。


(これは誰の意識?私のものじゃない。)


(誰?)


(きっと会ったことがあるハズ。)


 佐賀島 辰美(たつみ)は歩きながら考えていた。路地を()うようにあてどなく歩いていく。夜の越久夜町は寒々としていた。

 見慣れた町並みが全く違ってみえる。人のいない異界は静寂に包まれており、空気が重苦しい。それは湿度が高いのか──空気が存在を宿しているのか。

(どこへ向かっているんだろう?) 

 導かれるように足が動き、やがて地主神が祀られていた神社にたどり着いた。薄光を浴びて浮かび上がる境内をジッと眺める。 


「神社に行きませんか。」

「えっ、神社?安全祈願とか?」

「光の線がなんなのか分かるかもしれないんです。」

「別にいいよ、分からないままで。」

「確かめたいんです。…あなたの目が、必要なんです。」

(緑さんと私が神社にいった、記憶。それは本物。紛れもない本当に起こった出来事。)

 ──あなたの目が、必要なんです。

(忌み嫌われた私を必要としてくれた。なんて。恩着せがましいかな。)


 パラレルワールドの一つの事象でさえ、こんなにも脳に残るとは。

(私の体験をなかったことにはしたくない。)


「そう。その経験を、何度も繰り返せばいい。」

 町の暗闇から白銀に近い長髪の子供が口を出してくる。白い布を(まと)わせた天使のような幼い少女だった。端正な顔立ちは浮世離れしており、生憎背中に羽はついていないが、頭上に幾何学的な模様の"光の輪"が浮いている。

 髪をたばねる金具や腰帯、足具などには鈴が装飾されておりジャラリと鈍い音を立てる。その鈴の音をどこかで聞いたことがある気がした。

 異界から天女か天使が現れたと、辰美は思った。

「あなたが届かない過去。あなたが望む道筋。それを手に入れなさいな。」

「アンタ、だれ?」

 とろけるような甘い声音で少女が言った。黄色と赤紫色の混じった奇妙な目の色をしている。それが夜闇に怪しく光っていた。


「わたくしは干渉者。あなたの、成れの果てに近い存在。」


 少女は可憐に笑ってみせる。「──干渉者!?」

「大丈夫。あなたは仲間だから、ねえ?辰美さん?その気持ちを持っているんだもの?」

「えっ」

「戻りたいんでしょう?」少女は不思議な瞳をゆがめる。

「緑さんと見水と、楽しくやっていた時空に戻りたい……そうでしょ。辰美さん?」

「…それは」

 辰美は影のある顔で俯いた。否定はできなかった。


「辰美さんにはその資格がある。時空を超えてやり直せる資格が。」

 甘い囁きを寄越して、擦り寄るように干渉者は近づく。

「資格って-」


()()()()で勧誘をするなよ。干渉者めが』


 脳に響く質の異なる少女の声音に、干渉者は不機嫌な顔をする。

「…あっそ。つまらないお人ですこと。じゃあ、辰美さん。また会いましょう。」

 夜闇の帳に消えていった干渉者の光が残り、そしてゆっくりと溶けていく。

『こちらへ来るのだ。佐賀島 辰美。』

 辰美は操られるかのごとく視界の先にある神社へ近づいていった。


 ──あの塚、町を守ってくれる神様がいた場所なんだよ。おばあちゃんが昔言ってた。

 塚を駐車場にしたせいではないかと見水はいう。あの塚は昔、怨霊を見張っていた祠があったとか。


「怨霊……。」見水の言葉を思い出し、あの先に怨霊があると確信した。

(これは夢だから。)


―――

 見慣れない民族衣装に身を包んだ、小学生高学年ぐらいの少女が石畳に横臥していた。長い栗毛色の髪を広げ、彼女は氷の如く冷淡な無表情をしている。

 双眸は人ならざる者だと主張するかのような黄緑で、魔性の光を帯びている。あどけない少女から滲み出るバケモノじみた気配。

「……何してるの?」


「何もしていない、をしているのさ。死の追体験、と言える。」

 彼女は寝そべりながら言った。


「はあ…あの、私を食べようとした人ですよね?」

「ああ。君の目玉は美味そうだ。今もね。」

 無気力な言い方に敵意はないと悟り、覗き込む。


「私の顔を真正面から見るとは、その目も潰れてしまうぞ?」

「アナタは怨霊?」

「私は神であり魔である。人の道から外れた人の成れの果ての、一つの結末である存在だ。」

「……。」

 自らの手を見る辰美に、少女は微かに頬を緩めた。

「人の道から外れた私には名はない。言うなれば鬼神。」


「私を導いてどうする気?」

「君から近づいてきたんだろう?」

「そうなんだ?」

「さあねえ?」

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