表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/13

第九話

 巨大な洞窟は、その距離においても、長大なものだった。

 四人の冒険者は、まるで自分たちが小人になったような心持ちで、うねり続く巨大な赤土のトンネルを歩み、進んでゆく。


 この洞窟に足を踏み入れ、少しした頃から、その音は聞こえていた。

 奥に進むにつれて徐々に大きく聞こえてくるようになる、その暴風のうめき声のような音は、あるいは巨人のイビキのようにも聞こえ、洞窟の主がこの奥に確かにいることを、冒険者たちに悟らせる。


 冒険者たちが慎重に注意深く、分を十ほど数えるぐらいの時間をかけて洞窟を進んだ頃、彼らの視界に、その恐ろしい生き物が姿を現した。


 そこまでの洞窟のトンネルすらも、冒険者たちにとっては巨大なものだった。

 しかし、たどり着いたその終点にあった空間は、その巨大トンネルすらも確かに通路でしかなかったのだと、あらためて思わせる広大な場所であった。


 大貴族の城の舞踏会場のように広い、その赤土の大広間の奥に、赤くて巨大な生き物が、とぐろを巻くように鎮座していた。

 その生き物は、小さな虫けらが数匹、自分の棲み処へと入り込んできたことを知り、静かにその瞳を開く。


 ドラゴンであった。

 全身を赤いうろこに覆われたそれは、人を握りつぶせるほどの巨大な鉤爪かぎつめと、牛馬をみ千切れるほどの獰猛どうもうな牙と、家屋をたたき潰せるほどの凶悪な尾を備えていた。


 このドラゴンによる被害は、まだ近隣の村落が二つ壊滅しただけだというが、この生き物がその気になれば、数千や万という数の人が住む大都市ですら、瞬く間に灰塵かいじんに帰するのではないかと錯覚させる。


 そのドラゴンが、開かれた金色の瞳で矮小わいしょうな人間を見下しながら、ゆっくりと身を起こす。


 巨大な空間の入り口で、赤髪の少年がぶるりと一つ震え、エルフの少女が半歩わずかに後ずさり、獣人の少女がその手にした杖をぎゅっと握りしめる。

 ただ、銀髪の少女だけがその腰から剣を抜き、前へと歩み進んでゆく。


 十分に身を起こしたドラゴンが、目の前の小さき存在たちに向けて、その口を開く。




 人間ども……我が領域に足を踏み入れたこと、万死に値する……。




 地が震えるほどの声が、その場を支配する。

 これにはさしものトリーシャも身震いをするが、だからと言って、それを恐れることはない。


 死の恐怖への覚悟は、とうに済ませていた。

 少女はもう一つの恐怖に立ち向かうべく、口を開く。


「アシュレイ、リネット、メイ……お願いがある。何があっても、何を思っても──この戦いの最中だけは、ボクに協力してほしい……」


 三人の冒険者に背を向けて歩む銀髪の少女。

 その鈴のような美しい声は、しかし少し、上擦っている。


 一体何を当たり前のことを言っているのか──そういぶかしむ三人に、トリーシャは二の句を継ぐ。


「この戦いの間だけでいいんだ……お願いだから──」


 少女の内側から、禍々(まがまが)しい紫色をした何かが、あふれ出す。

 それは少女が身に着けていた軽装鎧の留め金を弾き飛ばし、その衣服をすべて焼き切った。


 頭部からは、湾曲した二本の黒い角が生える。

 背中の肩甲骨付近からは、蝙蝠こうもりの翼を拡大したような一対の黒い翼が。

 尻の上からは、太くたくましくしなる黒い尻尾が。


 服が焼き切られ裸身となったその肢体には、紫色のくらい光の渦が、蛇のようにとぐろを巻いて絡みつく。


 そうして、完全に変貌を遂げた銀髪の少女は、三人の冒険者たちに背を向けたまま、少しうつむいてつぶやく。


「お願いだから──ボクを嫌わないで」


評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
このランキングタグは表示できません。
ランキングタグに使用できない文字列が含まれるため、非表示にしています。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ