エピローグ
その後冒険者たちは、ドラゴンの討伐証明部位を切り取って持ち帰り、数日間の帰路についたのちに、いつもの街へと戻ってきた。
ちなみにトリーシャの衣服は、戦場に辿り着く前の場所にあらかじめ置いてきていた背負い袋に替えが入っており、裸のまま道中歩くような真似は、もちろんしていない。
冒険者たちは街に着くと、冒険の事後処理を終えてから、酒場で食卓についた。
ドラゴン退治によって多額の報酬を得た冒険者たちの前には、豪勢な料理がずらりと並んでいた。
「それじゃあ、冒険の成功と、トリーシャのパーティ入りを祝して──乾杯!」
「かんぱーい!」
丸テーブルを囲んで腰掛けた四人は、アシュレイの音頭に合わせて、木のジョッキを打ち合わせた。
「んぐ、んぐ、んぐっ──ぷはぁっ! おいしいいいいっ!」
トリーシャがさっそく、一杯目のエールを空にする。
「飲みっぷりいいな。トリーシャって、そんな呑んべぇだったか?」
「違うよぉ! 今日は人生で一番楽しい日だから、じゃんじゃんいっちゃうだけだよ~。マスター、もう一杯ちょうだい!」
トリーシャの注文に、酒場の主人が「あいよ」と小気味よく応じる。
そして次の一杯が来るまでの間、トリーシャは料理にも手を付けずに、テーブルに両肘をついて、にこにことほかの三人の様子を見る。
「……な、何ですの? あまりジロジロ見られていると、食事しづらいのだけれど」
「えへへー。ボクこういうの、ずっと憧れてたんだ。冒険が終わった後に、みんなでこうやって宴会するの。夢が、叶っちゃった」
そう言って嬉しそうにしていると、注文したエールを給仕の娘が運んできた。
トリーシャはすぐさまそれに手をつけ、またごくごくと一気飲みしてゆく。
「ぷはぁっ! しみるぅ~!」
「……お、おい、さすがにハイペースすぎるんじゃ」
「らいじょうぶらよぉ、いけるいけるっ。マスター、もう二杯──ううん、三杯追加!」
さっそく呂律が回っていないトリーシャを見て、引きつった顔を浮かべるアシュレイである。
──そうしてしばらくの時が過ぎた頃には、そこには、完全にできあがった少女の姿があった。
トリーシャはいつしか自分の席から立ち、アシュレイにしなだれかかるように抱き着いていた。
「お、おい、トリーシャ……? 周りみんな、見てるんだが……」
酒場全体の注目は、今や完全にこの卓へと集まっていた。
やじ馬たちは口々に、アシュレイに対するブーイングと、トリーシャに対する喝采をあげている。
「えー、見てたら、らめなのぉ? アシュレイ言ってくれたじゃん、ボクのこと好きらって。……それともアレは、嘘らったの?」
「いや、それは……お、おい、リネット、メイ、助けてくれよ!」
アシュレイは仲間たちに助けを求めるが、
「……無理ですわね。身から出た錆、というより役得なのですから、素直に堪能しておけばいいんですわ」
「む、無理ですっ。頑張ってください、アシュレイさん」
リネットはすまし顔で、メイは酔っ払いトリーシャの絡みターゲットが自分に移るのを恐れて、救助要請を拒否する。
そしてトリーシャは、リネットとメイの方を向いたアシュレイの顔を両手で挟み込み、ぐいっと自分の顔の前に持ってくる。
そして、据わった目で、こう言った。
「──キスして」
「……はい?」
「ボクのことを本当に好きなら、できるはずら」
「いや……この場でか?」
「うん」
うおおおおおおおっ!
酒場のやじ馬たちから、歓声があがる。
そして巻き起こる、キスコール。
アシュレイは、これは逃げられないなと観念した。
そして彼は、意を決して、トリーシャの唇に、自分の唇を重ねた。
今日一番の歓声が、酒場中に広がった。
──そして翌朝。
トリーシャは二日酔いと、前日の自分の所業に対する羞恥から、酒場の二階にある宿の自分の部屋に、引きこもることになるのであった。




