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SO WHAT ?! 1st.season  作者: N.river
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case1# SHAKE HANDS -7/9

「ご足労いただき恐縮です」

 やおら人影は柿渋デスクの向こうで立ち上がる。年齢なら水谷と同じほどか。羽織るスーツさえ同じ色の紺だった。だが声そのもの、とう雰囲気はあまりに違う。

「ささ、百々君、奥、奥。入って」

「ちょ、支配人っ」

 だというのに気後れどころか、ここでも水谷は率先して動く。

「このたびはご協力いただき感謝いたします」

 柿渋デスクのその人も、水谷へと手を差し出した。

「いえいえ、スケジュール通りが一番ですから」

 迷うことなく水谷が握って握手を交わせば、目の当たりにした百々の目こそ丸、三角、四角と形を変えてゆく。

「それにしても驚かされました。まさかロビーにおられたなんて。もしかして客席にも?」

「申し訳ありません」

「ああ。じゃあ、どなただったのかな。チケット代は返金を」

「いえ、テロ対策の経費としてまかなわれますので、どうぞお気遣いなく」

  瞬間、回り続けた百々の変顔ルーレットは止まっていた。

「……てっ、てろ?」

 聞こえて体を向けなおしたのは柿渋デスクの人だ。

「このたびは大変ご迷惑をおかけしました。わたくしは特定テロ組織への先制、予防、被害管理を目的としたセクション・カウンターテロリズム、通称CCT、チーフの[百合草敬一|ユリクサケイイチ]と申します」

 口調にはテロップでも入りそうな勢いがある。いやこの際、入れてもらった方が百々にはスムーズに理解できたが、ないなら水谷に棒立ちの体を引かれていた。柿渋デスクの前へ立たされる。

「って、コレっ、いったいどういうことなんですかっ」

 我に返った百々へ、あっけらかんも極致と水谷は言った。

「いやねそれが、今朝早く爆破予告がウチに届いてね。警察へ通報したらこちらさんとお知り合いになったってワケ」

「ばくは、く、はくはく、はつ……ってっ」

 百々の口こそ空を食む。

「そぉっんな大変なこと、どうして黙ってたんですかぁっ」 

「だって君たち、知っていていつもとおり仕事なんかできないでしょ」

「あ、ああ……、確かにそれはちょっと……」

 ノーと言えず口ごもった。

 危ういところで正気に返る。

「じゃ、なくてっ。だったら上映しちゃだめじゃないですかっ。あたし吹き飛ばされかけたんですよっ。爆弾で、今日っ、死ぬっとこだったんですよっ」

「その点については、わたしから」

 百合草の重い声に遮られていた。

「当該テログループの犯行予告が送信されたのはおよそ二十時間前。内容は指定するエリア内における劇場の爆破予告、というものでした」

「うちのほかに五十芸さんと、駅前の宝MOVIXさんがそのエリアに入っていてね」

 付け加える水谷は神妙な面持ちだ。聞きながら百合草も、ゆったり柿渋デスクの前へと回り込んでくる。

「ただちに各劇場内の爆発物検知を実施」

「大変だったよ。もう、上を下への大騒ぎ」

「しかし爆発物の発見には至らず、我々は当日の客に紛れて持ち込まれる可能性が高いと判断いたしました」

「だのにだよ、百々君」

 などともう水谷は自分がここの職員か何かだと勘違いしている様子だ。

「やっぱり大手さんは大手さんだねぇ。宝さん、当日の営業をやめるって言い出したわけ。理由を映写機械の故障にするなんてのは本当に恥ずかしいハナシだよ」

「あぁ、それは……」

 確かに、と同意しかけた百々は、ここでも声を張り上げていた。

「それが当然なんですってばっ」

「その場合、我々が懸念するのはテロリストが無差別攻撃に切り替えることです」

 勢いをまたもや百合草に削がれる。

「そうそう。ウチも閉めたら五十芸さんだって閉めるでしょ。的をなくしてそこいらに爆弾なんて仕掛けられちゃあねぇ」

「そうした意味で、今回のご協力には大変感謝しています」

「いやぁ、スケジュール通り上映するくらいわけもないことですよ。それにほら、テロに爆弾騒ぎなんてだいたい映画みたいじゃないの。お客様と従業員の安全は必ず確保します、ってこちらもおっしゃるし。五十芸さんのところにも確認したら向こうの支配人もノリノリになっちゃって。じゃ、お互い営業しちゃおうか、ってことに」

 後頭部を掻いて話す水谷の瞳は、これが人生のハイライトとキラキラ光り輝いていた。見せつけられた百々の頬はといえば、ピクピク小刻みに引きつる。

「ともかくごめんね、百々君」

 繰り返されてようやく言葉の意味を知っていた。

「ごめんね、じゃぁ」

 ならば繰り出すものが猫パンチだろうと、かまいはしない。

「なぁーいっ!」

 振り回す拳で百々は、ぽかすか水谷へ殴りかかった。

「あいた。あ、痛いよ、百々君」

 甘んじて受ける水谷は身に覚えがあるからか。

「落ち着け。本題はこれからだ」

 見かねた男が百々を水谷から引き剥がす。振って示したアゴ先で、百合草を示してみせた。

「踏まえて申し上げます」

 いったいこれ以上、何が残されているというのか。百々にはもう恐怖しかない。

「本テログループの手口は爆発物による工作を常套とし、これまで存在はそのテロ行為によって確認されるのみ。実行犯の割り出しすら困難な状況でした。つまりあなたが初の犯人目撃者となります。ぜひとも捜査へご協力いただきたい。それはご自身の身を守ることにもつながるとご理解くださってかまいません。本日はこのことをお伝えしたく、ご足労いただきました」

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