case5# GUN & SHOW -6/7
身をひるがえす。
背で、弾頭は発射された。直後、宙で追い焚き。ブースターに火は入る。瞬間で弾頭の加速は毎秒百メートルに達し、駆け出したところで逃げ切れはしなかった。背後でワゴンに弾頭は突き刺さる。飴と車体は潰れ、車内でストロボと火は瞬いた。弾頭が炸裂する。広がる衝撃波に背を押されていた。だとして華麗に二回転など編集のたまものなら、手足を絡めてレフとストラヴィンスキーはアスファルトへ叩きつけられる。衝撃波は、突然の爆発に身を縮めた歩道の人々の間もまた駆け抜けると、交差点を四方に消えていった。
遅れて、ワゴンの破片は空から降る。
目だし帽を警官へ預けハートは、黒焦げとうずくまるワゴンに釘づけとなっていた。いくらも離れた所に横たわるレフとストラヴィンスキーに気づき、飛び出しかけて後じさる。まだ何が燃えるというのか。漏れたガソリンに火は点くとワゴンを火だるまにしていた。
熱気に大気は揺らぎ、その向こうを人影は横切っていく。レフが知らせた目だし帽だ。中央分離帯を越えると、降るワゴンの破片をすり抜け護送車へ向かっていた。
「レーフッ。ストラヴィンスキーッ」
呼びかけハートは目だし帽へ銃を突き付ける。
「男、二人。MP5所持。離れるぞッ」
マイクへ吹き込み引き金を絞った。
されたところでたまったものではなかったが、二発目を装填する気はないらしい。四人目の目だし帽も手持ちをMP5へ変えている。ハートと入れ違いになるかっこうで、同じく護送車へ向かい駆け出した。
ゆえに間もなくハートが食らった反撃は、護送車へ辿り着いた二人からだ。かいくぐり、ハートはレフの傍らへ滑り込む。そもそも優しく揺り起こすなどキャラクターどころかこのシチュエーションが許さない。胸倉を掴み上げた。
「起きろッ」
離れた場所に転がるストラヴィンスキーへ声を張る。
「ストラヴィンスキーッ」
音量にレフの体は跳ね上がり、ほどなくストラヴィンスキーも呻いて頭を持ち上げた。
「……あ、あの世まで、吹き飛ばされたかと思いました」
「安心しろ、お前が思うほど近くないッ」
燃え盛るワゴンを盾にする。移動した三人は黒煙の合間から、目だし帽の動きをうかがった。背中合わせになった二人は護送車の後部ドア前に立っている。
「二人、リアについたぞ」
ハートがマイクへ吹き込んだ。調子を取り戻したレフもすかさず口添える。
「一人は残弾が少ない。持ち変えたRPG野郎が外を見張るハズだ」
「誰かジープのキー、抜いてくれてるといいんですけど」
「ここで逃がすか。笑い草だぞ」
少々歪んだ眼鏡のブリッジを押し上げたストラヴィンスキーへ、ハートがなじる。続けさま、アーミーベストから抜いたマガジンを投げた。
「他は?」
ハナだ。混ざりイヤホンから声は聞こえてくる。
「見当たらん」
むしろこれ以上は勘弁だろう。
「じゃ、ポイントメンのみなさん、よろしく」
口ぶりに、三人して顔を見合わせていた。飲み込みやがて動き出したのはストラヴィンスキーが最初だ。
「はいはい。仰せの通りに」
四つんばいできびすを返す。ハートも振るアゴで、レフを別方向へ促した。
読みとおり、RPGを放った四人目が周囲を警戒している。もう一人はドアの開閉を確かめると、施錠されているとわかるや否やMP5を撃ち込んだ。あられもなく潰されたドアノブにひねる必要はない。ひと思いに開かれる。
だからして次々と飛び来る銃弾に車内で渡会の部下は二人、立ち上がると事態に身構えた。まさぐった懐から回転式の拳銃を引き抜き構える。だが前に出るスペースもなければ、後じさろうとしたところで車内はとにかく狭い。身動き取れず立ち位置を決めかねていいるうちにも、観音開きのドアの片側だけが開かれていた。
そこに目だし帽は一人、背を向け立っている。
そいつか、と銃口を定めた。
あいだへ二人目は飛び込んでくる。
振り上げられたMP5が火を噴いた。
護送車の天井に一列と風穴はあき、陽が差し込む。
「動くな、銃を捨てろッ」
向けなおされた銃口と、引き金に触れたままの指がすでに圧倒的なストロークの差を見せつけていた。火力さえかなわないなら判断材料はそろったも同然となる。部下たちは挙げた両手から渋々、拳銃を放り出した。
「榊大輔か」
モッズコートは腰かけたままだ。呼びかけに、ファーを揺らしうなずいた。見てとった目だし帽が再び声を張る。
「鍵を外して縄を解け。早くしろォッ」
モッズコートも立ち上がり、従え、と言わんばかり手錠がかけられた両手を部下へ突き出した。
前にして部下らはいっとき視線を絡ませる。だが時間稼ぎなどあまりに無駄だった。二人がかりだ。手錠と腰縄を解きにかかる。自由を取り戻したモッズコートは床から投げ出されていた拳銃を拾い上げた。掲げて部下らへ狙いを定める。半歩、一歩と、外へ向かい後じさっていった。
「……予定通りだ、同士。プライズにサプライズ。二十四日、我々は蜂起する」
肩へ、目だし帽は囁きかける。
否や、拳銃を握るモッズコートの手に力は込められた。あのくだりは放たれる。
「与えられる楽しみは全て楽しむことを義務付けられた労働だっ。捕らわれた全ての民衆に真の娯楽をっ」
その声は細く高い。背を向けていた四人目も驚き振り返っていた。
つまり声で正体が明らかとなるこれがタイミングなら、翻弄して路面で人影もひるがえる。逃さずモッズコートも身を反転させた。目だし帽へと引き金を引く。肩を貫通した弾が路面で粉を吹き上げた。投げ出されたように、体もおっつけ路面で跳ねる。
様子に四人目がぎょっと動きを止めていた。
モッズコートはそちらへも、切り返した靴先で引き金を引く。
塞がれていたドア前に光は差し込んでいた。落としていた腰を、モッズコートはゆっくり持ち上げてゆく。詰めていた息を吐いて暑苦しさも限界と、フードを払った。黒髪は、中から艶めき踊り出す。
「護送車、二名、制圧」
告げてハナは撃鉄を元の位置へと押し上げた。
「発砲に関する書類はわたしが」
まだ熱の残る銃身を避けて握りなおし、大げさに目を回す渡会の部下へ差し出す。自前の一丁を懐から引き抜くと護送車から飛び降りた。
「まったくもう。どういうこと、これは」
玉突き事故の車列に、散乱する破片。炎さえ豪快と上がっているのだから言うほかない。
「そのセリフはチーフに残しておいてやれ」
ハートの声だ。イヤホンから聞こえていた。
「お見事。ホント、なによりでしたっ」
満を持して放つストラヴィンスキーへは思わず頬を緩める。
「彼ら、榊をよく知らなかったみたいよ。背格好、合わせて、あたしじゃなくてもよかったんじゃない」
護送車から出て来た渡会の部下らが、投げ出されたMP5を回収していた。振った手で応援を呼び寄せる。そうして警官らに取り押さえられたところで暴れる目だし帽の二人は、まだまだ元気があるようだった。
振り回されて人だかりは揺れ、いつの間にかすすけた体を払ったレフも離れた場所から顛末を眺める。
今や辺りはるるロード前を拠点に完全封鎖の状態だ。路肩には救急車が連なり、消防車の侵入を告げて拡声器の声が道を空けろと促していた。見回すほどに広がる視界は取り戻しつつある冷静を実感させ、だからこそレフの中で、慌ただしさから浮いたように沈黙するソレは気になり始める。相手が正体不明ならなおさらだ。レフはジープへ向かい足を繰り出していた。懐へ銃を挿し戻し、ドアへ手をかける。中へ頭を潜り込ませた。




