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お前のすべては私のものだ。


 その時、少女は意識を持ちながら意思を失っていた。

 自分のことを自分の中から客観的に眺めている、そんな錯覚。

「すまぬ」

 自分の体が、不意に止まる。

 周囲に人影は1つもない。

「すまぬ」

 聞こえていた声が、前から聞こえるようになった。

 何も見えていなかったはずだった。

 けれど目の前には黒い何かが、形ある何かが佇んでいた。

「すまぬ、幼子」

 泣いているのでは、と少女は思った。

 沈んでいるわけでもなく、掠れているわけでもない、寧ろその声は酷く冷静で。

 黒い何かから、白い手が現れる。

 ざわざわと騒いでいたのは、その手に握られた大きな大きな一振りの鎌。

 嗚呼、この人は死神なんだ。

 そして確信したのは、自分の死だった。

「すまぬ。死すべき時では、ないというのに」

 あたかも少女を殺してはならないような言い方だった。

 少女の心に恐怖は湧かない。

 意思を奪われた少女に、思い感じることは許されていなかった。

 ただ人事のように、他事のように、自分の首が刈られ、その身体が果てる様を見続けるのみ。

「すまない」

 彼の御方の、愛し子。

 黒いそれが囁いた最後の言葉に、少女は彼の死神を思い出す。

 どうせなら、知らぬ死神より、彼の死神がよかった。

 殺されるなら、奪われるなら、彼の死神がよかった。

 最後の、真実最終の願いが叶えられることは、終ぞ無く。

 彼の死神の名を呼ぼうとして、けれどできなかった。

 少女は彼の死神の名を知らない。

 嗚呼、情けない。

 解放された意思は混濁の末に切断される。

 残ったのはどんな思いなのかさえ、崩れ行く少女には分からない。

 せめて、笑っていよう。

 死んだ後も笑い続けることは、できないけれど。


 また、いつか。


 声はでなかった。

 それでもいい、人としてでなくとも、いつかまた、会えたなら。

 大地に伏した少女の躯に、記録はない。











 感じたのは、何だったか。

 漠然とした喪失。喪失?なぜ。

 なにを失ったというのか。なにが消えたというのか。

 嗚呼、嗚呼、嗚呼。

 何だこれは。

 何が起こった。

 僕の知らない場所で、僕の知らない何が。

 呆然と立ち尽くす死神の全身は、確かに震えている。

「  ?」

 真名を呼んだ。

 本来あるべき存在そのものの返事がなかった。

 愕然とした。

 予想の範疇ではあったはずだ。

 けれど。

 それなのに、そうでありながら、これほど恐怖する自分が馬鹿馬鹿しい。

「は、」

 自分がどんな顔をしているのか、分かりたくもない。

 悲しいのだろうか。

 嬉しいのだろうか。

 腹立たしいのだろうか。

 きっと哀れなほど狂気に歪んでいるのだろうと思いながら、死神は少女を迎えに発つ。

 途切れた場所を探る。

 消え始めている痕跡を追う。

 必死だった。


 どうか、どうか、どうか。


 そして死神は自嘲した。

 そうだ、輪廻は自分たちに、慈悲の欠片も見せないのだったと。






「すまぬ」


 視界に在るのは少女だったものと、頭を垂れた見覚えのある姿。

 黒いそれは僕の同士。

 何故、君が謝る。

 何故、君が膝を折るのだ。

 気付いていたのに気付かないふりをしたくて、けれど黒いそれは確かに言った。

「輪廻が、そして我等の王が、貴殿の歪みに気付いたのだ」

 すまぬ。

 すまぬ。

 私は貴殿のものを消してしまった。

 私は貴殿のものを手にかけてしまったのだ。


「嗚呼」


 嗚呼、おまえは。


「ばかだね」


 本当にばかだ、おまえは。


「すまぬ、」

「謝罪は要らないよ」

 謝ることはない。

 だっておまえは王に逆らうことなど思いつきもしないだろう?

 謝る必要なんてどこにもない。

 だっておまえの謝罪を受けたところで、現状が僅かでさえ変わることもないのだから。

 ねえ、そうだろう?

 おまえの謝罪なんて、聞きたくないよ。

 少女の肩を抱き起こす。

 頬に手を添えれば、徐々に冷えつつあることを知り、それが酷く苛立たしくて引っ掻いた。

 白い跡が這う。

 傷つけるほどの力をこめることなど、できはしない。

「贖罪も不要だ」

 嗚呼、そうさ、そうだとも。

 おまえがどんな奴なのか、僕はとてもよく知っている。

 そしておまえは知っているはずだ、僕がどんな奴なのかをとても、とても、よく。

「貴殿であろうと」

 搾り出したような声。

 下を向いたままの顔は見えないけれど、間違いなく苦みに歪んでいるのだろう。

 僕に対して萎縮しきったお前はとても無様だね。

 自らへ降りかかることに恐れを、王でもない僕の威圧に怯えを、そして僕がこれから起こすことにこの上ない戦慄を。

 それでも忠告を、警告をと開口するお前は哀れだね。

 王に逆らえず、けれど僕を捨てられない。

 人の子のような甘い優しさが、人の子のような慈悲深さが、お前を奈落へ陥れるというのに。

「我等の王に逆らえば、消されてしまう」

「その前に消せばいい」

「輪廻は、同等でありながら対極の我等に、容赦など」

「僕だって全力で挑むよ」

「理を破れば、貴殿は」

「大丈夫さ」

 蘇生する術を行使しようとは思わない。

 僕は消されるつもりもなければ、手加減するつもりも毛頭ないのだ。

 意識のない僕が彼女と永遠を過ごしたって、それはあまりに無意味過ぎる。

 刻みつけよう。

 彼女との邂逅、過ごした日々、迎えた朝夕に触れた肌の感触。

 忘れるはずがない。

 冷たい僕の手が知った、温かだった彼女の手を、忘れるはずが。

 いずれ来る別れを、僕がただ待つだなんて思うな。

 同等でありながら対極である、輪廻。

 頂点に君臨せし死の神を統べる、我等の王。

 僕の歪みに気付いただと?

 王の名が、理と並ぶ輪廻が、笑わせる。

 遅すぎたんだよ、王も、輪廻も。

 この数百年、あまりに平穏だったとはいえ、異端者の僕を放しすぎた。

 我等の王など、すぐに消してやる。

 否、消すと言うのはあまりに味気ない、つまらない、面白みの欠片もない。

 そう、僕が彼女のために行う行動なのだ。

 人の言葉で斬新にいこうじゃないか。

「殺してやるよ」

 王も、輪廻も、何もかも。

 殺して、殺して、殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺して殺し尽くしてやる。

 裂いて抉って潰して刺して刻んで嬲って詰って屠って。

 そして、そうして、それから。

 王を退け、僕がその空席を埋めてやろう。

 誰も僕を消すことなどできなくなるよ。

 やっと真実、永遠に在れる。

 その腕に、その胸に、輪廻から奪い返した彼女の躯を抱えたまま。

 ちゃんと施しをかけるよ、君が腐敗し醜くならないように。

 あの日あの時思ったことのすべてを、実行に移せばいいだけだ。

 ずっとずっと永遠に僕が抱き続ければいい。

 君はただ僕の傍らに居続ければいいんだ。

 王だったものが報復をしに来る度、僕は得た権利を使うことなく、最初の王と同じ姿に還してやろう。

 何度も何度も、何度でも殺してあげる。

 輪廻だったものが怒り狂ったって関係ない。

 人の世界が崩れ去ったって関係ない。

 僕は彼女が居ればいい。

 僕と彼女が居ればいい。

 彼女はやらない。

 彼女は渡さない。

 彼女は僕から離れられない。

 彼女は僕から離してやらない。

 躯を、僕以外の何者にだって譲ろうものか。




 君のためなら、忌み嫌う王席に座すことも厭いはしないのだから。

実は真っ先に書けたよ狂気エンド。

俗に言うバッドエンドで〆とか根暗だ。でもこれにて終了!

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