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剣聖の娘が賢者の弟子〜その娘は将来魔王になる予定です〜  作者: 桜庭古達
第二章 剣の頂は杖とともに
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新たな日常.後編


結局あの後のエレノアは人が変わったかのように変化したらしい。


一言で言うと、『大人しくなった』と。


以前は魔法の腕はあったものの大きく高笑いしたり、それでいて高圧的な態度を取って周りを寄せ付けない雰囲気を醸し出していたらしいが、今はそんなことはなく、別人になったかのように大人しくなったらしい。


正直俺は二度しか会っていなかったのでその変化がどの程度かもあまり分からないが、その変化で悪い噂も出てないのだから結果的にその変化は『良い』と言えるのだろう。


ただ、他に変化したことで大きな噂になっていることがある。

それは魔法の腕が爆発的に伸びたことらしい。


今までも学年で上位に位置していたエレノアだったが、いつかを堺に魔法の腕が伸び、そして今では一位にまで上り詰めているそうな。


……うん、俺?


いんや、俺は特に教えるとかもやってない。

そもそもとして賢者の弟子は一人だと定められているし、というか俺が指導したからと言って爆発的に能力が伸びるほど俺はそんな教育は上手くないし、そんな魔法は()()ない。


ただ少し、ちょっとだけ助言をしてやっただけだ。


『その魔眼、「集積の魔眼」は魔眼の中でも大きく魔力操作に依存している。その力を全て把握できるようになれば……魔法の理論だって簡単に自分に「集積」できるんじゃないか?』


あの日の帰り際、試しにそんなこと言ってみたら速攻で帰ってしまった。

その後の経過はどうしたのかは俺の知る由もないが、それを頑張ったからこそ、成績という結果で表れたのだろう。


「(しっかし……あの反応は魔力操作の技術を向上させたことによって魔力の感受性が高まってしまったからかね。普通の一般人にやっても全く影響はなかったはずなんだけど」)


そう思いながら、ようやく完成した二つの指輪型の魔道具を手に持って眺める。


因みに、ちょっと前のティナの食い入るような願いについては「バベルのレベル八を達成したらできるようになる」と言って一蹴した。


「……んで、これは完成したけどこれを見てお前たちはなんか得したか?正直言って魔道具作りってつまんないだろ?」


俺もそう思うから。

土魔法での素材作りも金と信頼のために仕方なく作ってただけであって、あんなの誰が楽しいと思うのか。魔道具も同じで、こんなの疲れるしただでさえ俺の少ない魔力が持ってかれるし。持ってかれることは良いんだけどそれが俺の魔力操作の技術を持ってしても『再利用』できないのが問題なのだ。


そんな同意を得るためにいつの間にか帰ってきていたエレノアと最初からいたティナに問いかけるが、


「確かにつまんない」「そんなことないですよ!」


……うん、自分の意見を持っていてなによりだ。

そしてお互い同時に言ったのにティナの方が聞こえやすかったのはどうしてなのか。

特に俺にとっては魔道具作りは別に好きでもなんでもないため寧ろそっちの方が好感を持てるぞエレノア。


「それはそれとして……ほれ、できたぞ。『アズ』と『レダ』」

「……ねぇ、今更だけどシークはできた魔道具に名前を付けてるよね」

「そうだな。特に意味もないけど……この俺が作ってるんだからな」

「それは自信過剰じゃないの?」


そうでもない、と俺の正体を知っている者なら言えるのだが……。

チラリとエレノアを見てみると、ティナのことをクスリと笑っているのが伺える。

あの魔眼を使われた際、俺の魔力が少ないせいでその時に俺の殆どの個人情報も読み取れたらしい。勿論俺はその可能性も視野に入れて魔眼を使って記憶を読み取らせたわけだが。


なぜ、そんなにもエレノアという人間を救おうと思っても、『信用』するに至ったのかと思うだろう。それは彼女が魔法師だという要因と、俺が賢者だというのが大きい。

この賢者という称号はなんとも便利で、魔法師にとっては全ての憧れとも言える存在だ。そしてエレノアも例に漏れず、賢者という存在に憧れを寄せていた。

人間というのは不思議で、憧れる存在との秘密、というのは自分だけのものにしたがる性質がある。

俺もそれを利用させてもらっただけだ。


「ま、それは冗談として」


ただティナは賢者に対しての信仰心があるとも思えないので、()()()()()まで秘密にしているだけだ。


「普通に魔道具として……その魔道具が後世に残って欲しいと思って名付けしただけだ。ちゃんと俺自身の手で作ったってのを」


ただ正直に言うとこうやって名付けしないと、俺がこの魔道具を作ったって証明しづらくなってしまうだけなんだけどな。業界では普通に魔道具の盗作なんて珍しいものでもなんでもないし。そうなったら面倒極まりなし。


「それに、名前をつけたのにも理由があるんだぜ。ほれ、その魔道具付けてみ。サイズは自動で合うはずだから」

「へぇ〜。流石魔道具」


その魔道具らしい効果に感嘆の声を漏らしながら、指輪二つを指にはめる。

アズを左手の中指に、レダを左手の薬指に―――


「なぁ……お前()()意味分かっててやってんのか?」

「んん?いやぁわかんないかなー」

「相変わらず嘘が下手だな」


そう言って薬指にはめられたレダを取ろうとその手を伸ばしたところで……


何故かヒョイと避けられた。


「「「…………」」」


もう一度手を伸ばす。

今度はさっきよりも早く。


だが今度は一歩後ろに下がられてしまったため、手すら届かなくなってしまった。


「はぁぁぁぁぁぁぁ。……そこに付けても良いけどそれ絶対に誰にも見せんなよ」

「……一人だけなら良い?」

「……因みに誰だ」

「私の婚約者」


このイタズラ好きなお嬢様が侯爵家の次女で巷では優しく、品性があって、誰にも隔てなく接してくれるお人と言われてるのか……。


「……分かった。ただ少し待て」

「……?うん」


そう言って俺は遠くに外して置いてあった次元収納口(ポケット)に手を突っ込む。

そうして取り出したのはこぶし大の正規の『エディ』が作り出した純度の高い魔石。


それを……


「あ、やべ」


砕く!!


どうやら早めに危険を察知し、部屋を飛び出そうと駆け出しているが……もう遅い。


「“無属性魔法:行動の鎖(ムーヴ・チェイン)”」


部屋のドアノブに手をかけようとしていたが、その手を魔法陣から伸びた鎖が絡め取る。


「は!?」


そして次々にその体に鎖がまとわりついていき……いつしかその体は魔法で生み出された鎖によって完全に行動を封じられていた。


「…………どういう仕組みなの?」

「無属性魔法の行動の鎖(ムーヴ・チェイン)という魔法で、効果はシンプルに対象の動きを制限する魔法だな。んで、この無属性魔法というのがちょいと括りが難しい」

「括り?属性魔法とか概念魔法の?」

「それそれ。その括りがねー」

「ちょ、ちょっと良い?なんでこんな状況でいの一番に魔法のことについて聞くのも大概だけど、く……し、シークさんもなんでそこで普通に解説してるんですかっ!」


お、おぉ……。逆にまさかこの状況にツッコミ入れる人がこの場にいたとは……。

でも確かにそうだな。普通に考えたらおかしいよな。なんだか「ティナの知らない魔法を使う」、から「解説をする」、の流れが染み付き過ぎてて俺も人間として普通じゃなくなってきてたようだ。


「でもその前に、と」


指輪の入れ替えだけは絶対にしなければ。


最後まで抵抗する気はないのか、特に煩くすることもなくレダを人差し指にはめ変えられたところでようやく魔法は解除された。


「ふぅ、酷い目に遭った」

「そっちが奇行をしなかったらこんな事態にもなってねぇよ。あ、あと最後にその魔道具に仕上げをしないと」

「仕上げ?」


その疑問の声には特に返事をすることもなく、淡々と最後の作業を行う。


「アズ、レダ。汝にこの(今日から)者の魔力(コイツが)の封印を命ずる(お前らのご主人な)。……さて、これで完了」


詠唱を交えた魔道具の能力の発動だ。

これが鍵としてアズとレダに存在している限り、誰もこの指輪を盗めない。

詠唱は少々雑だが……成立したのだしもうこれで問題ないだろ。


「ん〜?特に何も変わってないけど……」

「それはお前の魔力操作がまだ未熟だからだ。……ま、明日の朝がその変化が一番わかりやすいわな」

「ふ〜ん」


そんな声を漏らしながら、左手に付けられた指輪をジロジロと眺める。

その隣でエレノアも至近距離でその指輪を見つめているのが視界に入った。


ティナは特になんの実感も湧いてないが、これで正式にお前はこの俺、『土の賢者』の弟子だ。

……さて、この『土の賢者の弟子』という名前がコイツに一体どう影響をもたらすのか。


それは決して良いものだけではないのだろう。






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