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新生デオンの暇仕事  作者: kazfel
喜びに満ちた調べに共に声をあわせよう
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死は人生の目的

 3月19日、夕方にライヒシュタット公爵は体の状態を試すため、市外のプラーター公園へ寒さと霧の中を馬車で進んだ。

 しかし、馬車の車輪の故障で徒歩で帰り、高熱で公爵は寝込んでしまった。

「無理をしてはいけませんと、あれほど言ったのに」

 公爵はハルトマン博士に怒られたが、熱は翌日になっても下がらなかった。


 3月20日、午前中にライヒシュタット公の誕生日を祝おうと皇帝以外の皇帝全員とデオンか公爵の部屋に訪れた。

 皇妃、アントン、カール、ルードウィヒの3人の大公、大公妃ゾフィーが1歳の息子を連れて来た。

 フランツィは椿(つばき)の花を公爵に手渡した。

 女官と執事まで部屋に集まってくれた。

「ライヒシュタット、これは私の以前の人生の記録だ」

 デオンは『シュヴァリエ・デオン・ド・ボーモンの伝記 1728-1810 比類なき外交官と竜騎兵連隊隊長』の原稿を手渡した。

「貰っていいのですか?」

「いいも何も、私の人生の集大成だ。いいに決まっているだろう!」

 デオンは得意げに言い放った。

「あら、面白そうね」

 ゾフィーが手に取った。

「こいつの人生は無茶苦茶だぞ。ナポちゃんが皇帝になった年に牢獄に入れられたんだぜぃ」

 一同が笑った。

「あら、女装してロシアのエリザヴェータに近付こうなんて、最高の任務じゃない!」

 ゾフィーはデオンと公爵に笑いかけた。

「それは楽しみな原稿ですね」

 公爵の久しぶりの笑顔でデオンは安心した。


 4月16日、病症が良くならない公爵の元に2人の医師が来た。

 ウィーンのカフェではライヒシュタット公の病気が話題となった。

「寒いウィーンに閉じ込めないで、暖かいイタリアに移せばいいのに。ひでぇなぁ、メッテルニヒの野郎は」

「メッたんは何かと理由をつけて、出さねぇからなぁ」

「確かにウィーンは寒すぎる!」

 マシロとデオンは一緒に騒いだ。

 デオンは王宮のメッテルニヒの執務室へ入った。

「いい加減、ライヒシュタットをイタリアへ移せよ。私だってロシアの冬が耐えられなかったから、フランスへ帰国したのだからな」

 机を叩いたデオンが怒鳴った。

「イタリアだってペストが流行るかも知れませんよ。わざわざボナパルト派に公爵を差し出すようなものです。それにイタリアで民族主義者の反乱が今後起きないとは限りませんし、ここで公爵を留めて置くことが、公爵の安全を保証できるのです」

「うぅ……」

 デオンは何も言い返せなくて部屋を出た。そしてマシロの部屋にこもった。

「あいつはデオンみたいに丈夫じゃないんだ。もう、あきらめろ」

「人間はいずれ死ぬさ。ただ早すぎる。……いや、死ぬことは人生の目的みたいなものかも……」

 死は人生の本当の目標、とモーツァルトが手紙で書いていた伝記を思い出した。デオンはメッテルニヒに反論する気が失せた。


 5月になると新聞に結核だと書かれていた。

「これじゃ、メッテルニヒに公爵が殺されると同じじやないか」市民が騒ぎ出した。

 5月はシェーンブルン宮殿の広大な庭園、マロニエ樹々が青々として白い花を咲かせていた。チューリップの赤、黃、白の花々も美しく咲き誇っていた。

 5月22日、身重のゾフィー大公妃は息子にマシロを預けて、

買い求めた長椅子をデオンに馬車へ積ませた。痩せ細ったプリンスも容易に運べてシェーンブルンへ向かった。

 事前に1階左側の大きな部屋を掃除させ、デオンは長椅子に公爵を移した。

 ライヒシュタット公は広大な庭園を見つめた。

「ありがとう。こんなにしてくれて……」

 公爵はゾフィーの手を握り続けていた。ゾフィーは時々、公爵の元に現れた。デオンは遠慮して二人を見守った。


 6月ごろカフェや町中でも、ちひナポレオンが危篤で危ないと皆にささやかれいた。

「もう亡くなって、発表しそびれたんじゃないのか」

「まだ21歳の若さなのに……」

「おいおい、まだ死んでねーよ!」

「気が早いぞ。みんな」

 マシロとデオンは噂の火消しに廻った。

 街では公爵の竜騎士軍服の勇ましい肖像画が売られていた。

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