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転生した侯爵家のお嬢様は人ならざるものに愛されすぎています〜自由に這って進む繭を誰もとめられない〜  作者: 白木のた
第一章

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16/16

16この人達が君にそういう顔をさせてるんだね

 


「おお、ジルエン待っていたぞ!」



 はっとした表情で現れた息子に目を向けたジルエン父が、明るい声音で話しかけた。


 急いできたのか、少し疲れた顔をしているジルエンが私を見る。僅かに目を見開き顔を赤くさせ俯く。どうしたんだろう。

 一瞬だけ表情の変化を見せた彼は、直ぐに顔を上げると自分の両親に視線を向け、口を開いた。

 その頃には普段の彼の顔つきに戻っていた。


「僕に話したいことがあると聞きました。何用で来られたのですか」


「まあゆっくり話そうじゃないか……、少し息子と私たちだけで話したいのだが」


「では、こちらの部屋をお使いください。リル様と私どもはこれにて失礼させていただきます」


「ああ。リル嬢、またお会いした時はゆっくり親睦を深めよう」


 え?ごめんなさい嫌ですー。

 未練があるのかシロツメクサをチラリと見るジルエン父。そんな物欲しげに見てもあげませんよ!



 終始オルランに抱かれた状態での短い面会は終わり、私たちは部屋を退室する。一緒に出てきたテプトアが直ぐに扉を閉めてぷはっと息を吐いた。


「鼻が曲がるかと思いました」


「匂いよりあの夫妻のリル様に対する態度、許せるものではない。やはりお連れするのではなかった。テプトア、旦那様がおかえりになられる前にここを離れるぞ」


「喜んで」


 早急にこの場を離れようとする二人に、私は焦った。ジルエンの事が気になるのでまだここにいたい。というかなんの話をしているのか知りたいのだ。離れるわけにはいかないとオルランの服を引っ張っていやいやと頭を左右に振ると、困ったような表情で二人が見てきた。


「リル様、お屋敷へ帰りましょう? ここは空気が悪いです」


「何故まだここにいたいのですか」


 訊ねてきたオルランに私はジェスチャーをした。耳があるであろうところに短い手を当てて聞いている仕草をして、ウンウンと確認しているかのように頷いてみせる。

 盗み聞きはオッケーですか?と首を傾げた。



「………」



 何も言ってくれない。

 やはり駄目なのだろうか。



「あの親子が話す内容をお知りになりたいと」


 オルランの言葉に一つ頷いて返答する。


「……。ここでは話す声が聞こえませんので移動しましょう」


 そう言ってオルランが足を向けたのは先ほどいた部屋の隣にある長細い部屋だった。壁にはソファがぽつんと設置されている。というかソファしかない寂しい部屋だ。なにに使う部屋なの?



 オルランが扉側の壁についている黒い石のようなものに触れた瞬間、片側の壁が透けて隣の部屋が見えた。

 わぁ!マジックミラーみたいに向こうが見えるんですけど!?どういう仕組みなんだろ。



『それで、上手くやっているのか』



 どこから声が?

 あ、あの黒くて小さい箱のようなものから聞こえてくる。多分、スピーカーの魔道具だよね。

 よしよし、これで会話も聞けるし親子の様子もばっちり見れる。

 さて、彼らは一体なにをジルエンに言うつもりかな?




『……』


『侯爵に気に入られれば、お前は侯爵家の養子となり、跡取りになれる。そのためにあの娘を懐柔する。それがお前に与えた役割だ。しっかり役目を果たしているのか』


『……それは』


『まさか上手くいっていないなどと言わぬよな』


『……』


『はぁ……私をこれ以上失望させるな。魔法の才も、剣の才もない。頭の悪いお前に折角簡単に成せる役割を与えたのに、なんの役にも立たないなど、お前にかけた金が無駄になるだろう!』


『あなた、声が向こうに、部屋の外に漏れてしまいますわ……』


 ジルエン母の言葉にマズイといった表情を浮かべ咳払いをしたジルエン父は、声のトーンを落とし話しだす。


『……お前は私に似て容姿だけはいい。娘をその顔で誑かし、一刻も早く侯爵に認められるよう、しっかり動け。そして養子入りするのだ。侯爵は王家の覚えもめでたく、広大な土地を支配し唸るほどの金をもっている。魔道具事業を拡大して、ついには国内初の飛空船開発にまで着手した。有力貴族も関わっている一大事業だ。さらに富と名誉を手に入れるだろう。侯爵家と我が家の繋がりは必要不可欠だ。お前が養子入りした暁にはと援助の約束を取り付けた。何かあった場合の助けにもなってくれるだろう。絶対に縁を繋ぐのだ』


『……』


『聞いているのか』


『……わかり、ました。父様。仰る通りにします』


『それでいいんだ。お前のような使い道のない子供を伯爵家に迎えた私の慈悲に感謝し、精々今までの恩を返せるよう努力することだ』



『……はい』



 ジルエンの顔を、私はただ見続けた。

 虚ろな瞳には何も映していない。いや、映したくないのだろう。


 なにも見たくないのだ。


 噛み締めた唇は震え、痛々しい。

 痛みや苦しみ、悲しみが私に伝わってくる。



 窓の外を眺めていた時のジルエンと、同じ表情。



 この両親の顔は見えなかったが、きっと息子を見る目は冷たく、侮蔑の表情を浮かべているだろう。

 ジルエンが私に向ける顔と同じく。



 そっか、この人達がジルエンにそういう顔をさせてるんだね。



 ようやく、君のことを少し知れたよ。






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