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聖女がいなくなったその後で、  作者: 沙波
リラの咲くころ
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1、リラの咲くころ

レッド侯爵家の一人娘である、マーガレットは、もうすぐ訪れる友人をもてなすため、お茶とお菓子、部屋を彩る、花の用意で忙しくしていた。選んだ花は白と紫のトルコキキョウ。凛として華やかなこの花はこれから会う友人にぴったりだと笑みがこぼれる。

マーガレットは由緒正しき、侯爵家の令嬢として育った。

彼女は人一倍内気ではにかみ屋な性格があり、人と打ち解けて話をすることが苦手だった。元来、一人で過ごすことに淋しさも感じなかった。けれど、年頃になれば成程、同年代の友人に憧れた。これから会う友人はそんな彼女が唯一、気取らずに話せる相手なのだ。

控え目にドアがノックされると、見知った顔が覗き込む。

「カミラ」と、友人の名前を呼んだ。

七分袖にスカートにはフェザーがついた白いシンプルなラインのわんぴーすドレスはカミラの人柄を映し出しているようだった。マーガレットは手を引き、ソファーに迎え入れる。ゆっくりと、ソファーに座るカミラに、用意した紅茶を差し出す。差し出された紅茶を飲むと、柔らかい笑みを見せた。

マーガレットはこの小さなお茶会を楽しみにしていた。家の者は付き合う相手の身分は選ぶべきだと言う。そのため、マーガレットには小さいころから話しても良い人と話してはいけない人がいた。身分が釣り合っても、変な噂があるとか、家の者がダメだと言えばそれまでだ。

初めて、カミラに会ったのはいつの時だったか。確か、二年程前、マーガレットとカミラがまだ十五、六歳の頃。カミラは廃聖堂調査委員になりたてだったと言っていた。そして、マーガレットは、とある想いびとへの手紙を差しだしに図書室へ向かっていた途中。急いでいたため、廊下の角でカミラと鉢合わせ、ぶつかってしまい、マーガレットがレースのハンカチを落としてしまった。マーガレットはそんな事に気が付かず走り去り、残されたカミラはわずかな人相と、ハンカチに描かれた刺繍と紋章からマーガレットを探し出し、届けてくれた。マーガレットはどこで落としたのかわからないハンカチの行方を探すことを諦めていた。もう出てこないものだと思っていた。本当はあの人との思い出のあるハンカチだったので、とても悲しかった。

律儀にカミラは届けてくれたのだ。その人柄に感銘を受け、お礼にお茶に誘おうとした。了承を得るために、家の者に事前に相談した。お茶に呼ぶと言った時も、今回もダメかも知れないとマーガレットは感じていた。

カミラ自身は身分もあり、慎ましく美しい令嬢であるが、女性としては珍しく、仕事をしていた。それは聖女様に関する仕事で『廃聖堂調査委員』という、部署に所属しているのだと聞く。少し彼女が羨ましかった。自分の意志で立っている、マーガレットから見るとカミラはそんな女性だった。だけど、家の人達は貴族の女性らしからぬことだと、言うかもしれない。もしそう言われたら、聖女様は女性の身でありながら国に貢献した。と伝えてみようと思った。それは初めてで、ささやかな反抗だ。

その理由でも今回も弾き飛ばされるのではないかと危惧していた。

しかし、返答は意外なものだった。彼女を呼んでしっかりレッド侯爵家の令嬢としてもてなしなさい。と、言われた時の拍子抜けし、間抜けな顔をしてたであろう自身の表情を鏡で見てみたいとマーガレットは思った。特に父はカミラに対して、マーガレットとは違うタイプのお嬢さんだから、良い刺激になるだろう。と肯定的な意見を示した。そんなことから、カミラとのお茶会は何の問題もなく、今まで開催して来た。

前に一度だけ、カミラになぜ廃聖堂調査員になろうと思ったのか聞いたことがある。

数年程前、行きずりの占い師からカミラには「凶星」ついている。自身の持っている力が強すぎるため、下手すると若くして亡くなる可能性があると言われ、意気消沈したそうだ。彼女の素敵なところは、その時、ただ悲観するだけでなく、どうしたら回避できるか、と解決策を聞いたのだそうだ。

聖女――しいては廃聖堂に関わる仕事をすると良い。と言われ、『なぜ、廃聖堂ですか?』とカミラが尋ねると、『星と言うのは、使わないでいると逆に星に呑まれる。だから自分から動いて使った方がいい。あんたの星が最適に利用できるキーワードが廃聖堂。まあ、信じるも信じないもアンタ次第だけど、廃聖堂に関わっているとアンタに影響を及ぼすような人物と出会えるかもしれない』『それって出会ったらまずくないですか』『凶星同士が重なり合う時、全てが破壊される。しかし、破壊と再生は表裏一体。壊されたものはまた新しく作り直せばいい。それを良いとするか悪いとするかはアンタ次第だ』と言われたのだそうだ。

そのうちに、廃聖堂調査委員という部署が出来、ちょうど調査員を探しているとふれがでていたので、カミラは自ら志願し調査委員になったという。これが、全てではないが、調査員を始めたきっかけになったらしい。『だってお似合いじゃない。人としての人生に希望を持てない私が聖堂としての役目を終えたモノを調査するなんて』と最後にそう自嘲し、付け加えたカミラは今にも泣き出しそうな表情を見せながら話していたことをマーガレットは強く記憶している。

侯爵家という狭い世界しか知らないマーガレットにとって、様々な場所を訪れるカミラの話は、物語よりもキラキラとしていた。

「ねえ、ぜひ今回はどんなことがあったのか詳しく聞かせてほしいわ」

マーガレットはわくわくしながら聞いた。

「ええ、もちろん。色々とあったの。だからきっと長くなるわ」

「もちろん、構わないわ。紅茶も、お菓子も用意したのだから」

「では、そうね。何から説明したらいいかしら。廃聖堂の調査員をやっているとごくたまに『いわく物件』にあたることがあるの」

「いわく物件?」マーガレットは首をかしげる。

y「そう、その意味については……初めから説明した方がいいわね。いつもの如く、あのペイル室長から調査依頼を受けたの。今回は、ある農村に廃聖堂のような建物がある。農業地として拡張したいが、手をつけていいのかどうかわからない。調査してほしい。ということだったわ。マーガレットはご存知かしら? 廃聖堂を取り壊す際には国に申請が必要なの。勝手に壊してはいけないきまりになっているの。だから、聖堂じゃなければ、その地区の領主や村長に伝えればいいだけなんだけど、そもそも聖堂だったかどうかもわからない建物のため、どうしたらいいかわからない。もしも申請を怠った場合はその領主に対しての何等かの制裁が加えられることもある。困った住民から声が上がり、私の所に来たという話。依頼としては特に難しい事ではないので、一人でも大丈夫だろうと言われ、実体調査もついでとばかりに私は、イワーツェ国の北端にあるシーラ村へ向かったわ」

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