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聖女がいなくなったその後で、  作者: 沙波
アジュールダイヤ
4/19

4、

「なぜ、彼女だとわかったの?」カミラはクロムウェルに聞いた。

「よく考えて。ここへの入り口は一つ。それが意図するのは、君を殴った犯人、聖女は絶対にこの入り口から出たということ。「しかし、聖女はどこへ? 死体を抱えて運ぶなら、それなりに大変だ。この岩塩抗は今現在も稼働しているため、人の出入りはそれなりにある。私も、周囲も探したが、聖女を隠して置ける場所なんて見当たらなかった。とすると、考えられるのは聖女自身がこの部屋を出ていき、かつ一人で歩いていても、周囲から不審に思われない人物ということになる。そう考えていくと当てはまるのは君しかいなかった」

ルディーは目を合わせることが出来ずに、唇を噛んだ。

「でもクロムウェル様が、棺の中の女性の脈を計って、死んでいると確かめていたじゃないですか? しかも、入る時、扉は南京錠で鎖が巻いていました」

モランは思い出したように言った。

「これをしていたんだ」と、カミラの手の上にあった腕輪をひょいと掲げた。

「この腕輪はかなり精巧に作られており、金具の部分は外す時に落ちないように二段階に開く仕組みになっている。逆に言うと、かなりきっちり止まる仕組みになっている。この腕輪を右の二の腕の部分に巻いていたのだろう。かなり強い圧がかかっていたはずだからもしかしたら、まだ彼女の腕にうっ血のあとがあるかもしれない。きつく締め、わざと一時的に脈が止めたのだ。左手で脈を計られない様に、わざと右手を出していたのだろう。あと、扉に関しては、装飾の隙間から女性の手ならくぐらせ、錠をすることが出来るだろう。彼女は私達が来る前に、事前にこの棺の中に入り準備をしていた。鍵は、フィリップ伯爵の屋敷にある。スペアを作ることは容易だったはずだ。エリザ・フィリップという主人の存在もある」そう言って、腕輪を棺の中に戻した。

「計画はこうだ。エリザ・フィリップは一目、このアジュールダイヤの腕輪を見て、なんとか自身のモノに出来ないだろうかと考えた。このままだと、聖女のモノだと認定され、王城に持ち出されてしまう。盗んだとしても、ここの鍵はフィリップ伯爵家で管理していると聞いているからね。必然的にフィリップ伯爵家の者に疑いがかかるだろう。だから、一芝居うった。この腕輪を聖女自身が持って行ったと私やカミラ嬢に思わせ、そしてその聖女が消失してしまえば、聖女が持って行ったとみなされ、それ自体が奇跡となる。そう納得できるような状況下を作り、腕輪を盗み自身のものにしようと考えていた。恐らく、この計画は頭の良いルディー、君が考えたかもしれないが、実際に指示したのはエリザ・フィリップだね。しかし、一つだけわからないことがある。なぜ、この腕輪だけ残していったのか?」

クロムウェルがそう言ったところで、フィリップ伯爵夫妻が到着した。フィリップ伯爵は知らなかったらしく、ウォルターに説明を求め、エリザは全てがわかったように呆然としていた。それからルディーを見た。ルディーはわっと泣き出した。

「もう、言い逃れは出来ないのだと思います。そうです。私が聖女のフリをして棺の中に隠れていました。鍵は奥様から合鍵を貰ったので。隙間から手を伸ばし、開け閉めをしていました」

そう言ってポケットから南京錠のスペアキーを取り出した。「南京錠の鍵を閉めるのは簡単でした。やり方はクロムウェル様の言われた通りです。それから、腕輪は、忘れてしまったのです」

「忘れてしまった?」カミラはあっけにとられた。

「カミラ様、本当に申し訳ござません。本当は、ちょっと脅かしてその隙に逃げる予定だったんです。棺の中に、このコートとトンカチを用意していました。コートを羽織って、カミラ様の持っているランタンを壊して走り去る予定でした。しかし、カミラ様自身を殴ってしまって。わたし、殺してしまったのかと思って、気が動転して、そのまま走り去りました。トンカチは岩塩抗を出てすぐの草むらに投げ捨てました」

「これだね」と、クロムウェルが、みせるとルディーは頷く。

「屋敷へ戻っている途中にウォルターさんやモランさん達と合流しまして、ここへ戻って来ました。そうしましたら、カミラ様は意識がありましたので本当に本当に私ほっとしました。本当に申し訳ございません」

ルディーのしゃくり上げる泣き声だけが反響していた。

フィリップ伯爵はウォルターと話を終えると、カミラの前に立って深々と頭を下げた。

「話を聞きました。申し訳ございません」

カミラはフィリップ伯爵の謝罪を受け入れた。実質、被害はほとんど無いに等しいのだ。それに、ルディーの表情を見ると、なんだか毒気を抜かれてしまった。

「それより少し休ませていただきたいのですが、よろしいでしょうか」

カミラは妙に気分が良くなかった。今になって痛みが出て来たのか。がんがんと頭に音が鳴り響いているようだった。

「もちろんです。彼女をお連れして」

その言葉に、フットマンが動いたが、それよりも先にクロムウェルがカミラの腰に手をまわした。

「早く出るんだ」

クロムウェルが鋭く叫んだ。

その言葉に、モランが「ガスだ、ガスが出ている、急げ、ここからすぐに離れろ」一同が、出口に向かって走り出すと、ガスは粉じんを巻き上げるほど勢いを上げた。

あの、金属製の扉まではそう距離は無い。扉の向こう側に全員が到着したのを確認すると、モランとクロムウェルは扉を勢いよく閉じる。

その後、カミラはクロムウェルに支えられながらなんとか岩塩抗から出て外の景色が目に映った、ところで意識が途切れた。


カミラは一日、休ませてもらい翌朝はすっきりとした気分で目覚めることが出来た。

部屋を出るとフィリップ伯爵の屋敷はしんと、葬式の様に静まり返っていた。

「目が覚めたんですね」廊下の向こうからモランが歩いてきた。

「おかげ様で。あれからどうなったの? 私、今目覚めたばかりで」

翌日、棺のあった廃聖堂の部屋は、噴出したガスの爆発により落盤が発生し、部屋自体が埋もれてしまったと聞いた。

「何かいわくつきだったのかしら」

「そこまでは……。ですが、あれは世に出ない方がいいものだったのかもしれません。もう聖女がどうこうの時代は終わったのですよ」モランは清々しい笑顔をしていた。

カミラはそれに対してどう答えていいかわかりかねた。

「目が覚めたか。気分は?」クロムウェルが階下から上がってくるところだった。

「昨日はありがとうございます」

カミラは頭を下げて、そういえばクロムウェルに寄りかかりながら歩いたのだと思い出すとかっと頬が熱くなった。

「状況は聞いた?」

「ええ、あの部屋は閉ざされてしまったと。何も調べる間もなく」

「こうなっては、ここに居る意味もない。君が目覚め次第、ここ出ようと思っていた。用意は出来ている」

「ええ、そうね」

クロムウェルの後ろから使用人が続いて上がって来たと思うと、カミラの部屋に入った。荷物をまとめてくれるのだ。

「こちらこそ、何もお役に立てなくて申し訳ない。また、機会があればぜひ来てほしい」モランはそう言って握手を求めた。

「ええ、ぜひ。ありがとう」カミラはそう言って手を重ねる。モランはクロムウェルとも握手をし、そのまま階段を下りて行った。

丁度その時、カミラの部屋から使用人が荷物をまとめ、出て来たので、クロムウェルの後に続き階段を下りた。

玄関ホールにはフィリップ夫妻と、ルディーが蒼白な顔をして並んでいた。

「今回のことは、本当に申し訳ございません」

三人は深々と頭を下げた。

「実質的に被害はありません。穏便に事を済ませましょう」

「君、それでいいのか?」クロムウェルが強く言った。カミラは頷く。

「ええ、私も特にケガもないですし、調査も無くなってしまったので。まあ、よろしければ、我、ウィンスラー伯爵家は商会を営んでおりますので、今後ごひいきにしていただければ」とほほ笑んだ。


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