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2-4

「アガネルじゃないか、元気にやってたか!」

「ええ、辺境伯にはたいへん良くしていただいておりますよ」

「そりゃ良かった!」


 足を踏み入れると早速声をかけてくる冒険者たち。活気あふれるギルドメンバーの様子にアガネルは柔らかい笑みを零す。かつてアガネルが冒険者だった頃と変わらぬ暖かい人々。これならばルザミラを安心して任せられる冒険者が見つけられそうだ。

 入口から少しだけ離れた席に座っていた冒険者が静かにアガネルに歩み寄る。こういうときは決まって力任せに肩を組んで驚かせてくるビリウルである。なんだか懐かしい気持ちになったアガネルはあえて気づかないふりをしてされるがままに彼の体重を受ける。


「そんでよー、今日は何しに来たんだ? 執事が冒険者をするわきゃねぇもんな」

「ええ、本日は我が主たるルザミラ様の師として護衛として働ける方を探しに来たのです」


 動じずに肩を組み返すアガネルに対してビリウルも動じずに問いかけた。10歳前後年上であろうビリウルはアガネルにとっては兄のような存在であり、本来砕けた口調で話してもいい。しかし、フェゲラーノ家に仕え始めてからすっかり使わなくなった昔の口調は喉に引っかかり敬語として出力されてしまう。

 ビリウルは「かたっくるしいなぁ、おーい!」などと言って笑う。


「え、なんでわざわざ冒険者から選ぶんだい?」

「あ、たしかに。貴族なんだから騎士様に頼むのが普通じゃないか?」


 ビリウルと年の近い受付嬢であるミラネラが疑問を口にし、それにつられたビリウルも不思議そうにアガネルに目線を送る。

 アガネルは苦笑して答える。


「兄さん、姉さん、そうも行かぬ事情があるのです。事情は省きますが現在お嬢様は命の危機に晒されている可能性が浮上しており、それを企むものが騎士にも混ざっているかも知れない。ここの皆さまであれば誰であろうと私の大事な人を傷つけるような真似はしないでしょう?」

「騎士様を信用できないのか……」

「殆どは私が疑り深いだけですけれどね」


 ルザミラが時間を戻った、もしくは憑依転生した、というのも状況からアガネルが考察しただけのことに過ぎない。いるのかどうかさえ分からない敵を排除したい。そのためならば、これまでに交流があって信用している正直者たち以外はノータイムで信じることなどしない。

 それに、騎士であればもう一つの目的は達成できない可能性が高い、とアガネルは思う。


「だが、疑い深いだけならわざわざこっちに来ずに旦那様と話をつけるだろう、あんたはそういう男だ」

「ええ、御名答。私がギルドを頼った理由、もうひとつはお嬢様に密かに稽古をつけてもらうためなのです。これは旦那様に知られるわけには行きませんから」


 実際は誰に頼もうともベルリツには知られることになるだろう。それでもアガネルがルザミラを裏切らないことに意味がある。そうアガネルは考えているのだ。

 騎士に依頼してしまえば、戦闘に駆り出される予定のない貴族令嬢にわざわざ戦闘訓練を受けさせてくれるとは思えない。うまいこと躱されるのがオチではないだろうか。


「何故お嬢様に稽古をつけるんだい?」

「お嬢様がそうお望みになられるからです。旦那様には知られたくない様子でしたので秘密裏に動かざるを得ず……」

「しかたがないとでも言いたげだけどさ、あんた、凄く嬉しそうなのを隠せていやしないよ」

「おや、頬が緩みすぎていたようです。あのお方に頼られるとどうにも嬉しく……」


 アガネルは上がった口角をそうやって説明する。推しへの過干渉は本来ならば禁制だが、本人が望むのであれば仕方がないしやぶさかもない。

 ミラネラは心配そうに八の字型の眉を描く。


「お嬢様を優先しすぎてあんたがそのうち旦那様に殺されやしないか心配だよ」

「姉さん、その心配はありませんよ、あの方は話がわかりますから」


 ビリウルは2人を交互に見てから頬を掻いた。


「ミラっさん、身内バカなこいつがこう言うってこたぁ、辺境伯を身内認定してるってことだろ。他人にゃお世辞丸見えないい人評価で止まるようなやつだぜ?」

「それもそうだね」

「兄さん……姉さんも辛辣ではありませんか? お世辞だと悟られないようにしているではありませんか」

「自覚がねぇのかよ、他人の評価を言うときのお前めちゃくちゃ棒読みだぞ」


 ビリウルがそう言うと、ミラネラが吹き出して他の冒険者たちもつられて笑う。アガネルはふてくされた様子で視線を足元に落として頬を膨れさせている。

 アガネルのことを皆でからかいすぎたと思ったミラネラは、彼の依頼を通す移行を示すべく口を開く。アガネルの求める冒険者像は分からないが、お嬢様が気楽に頼れるように若い者に行かせるべきだろうと判断したため、そのことについても触れておく。


「よし、それじゃあ、あんたと年の近いのを集めて志望者を募っておくよ、何人ほど集めればいいかい?」

「そうですね、1人から1つの小規模パーティーの範囲でお願いします。あまりに人数が多くても困りますので」

「そうだね、分かったよ」

「皆、ありがとうございます」


 アガネルはぱっと顔を上げて感謝の言葉を述べた。


「だったらルイエンたちに頼むのはどうだ? その場合だと最近入ったオルのやつには一旦パーティーから離れて留守番してもらったほうがいいだろうがな」

「オル……ですか? 誰だか存じ上げませんが、なぜその方だけ外すべきだというのですか?」


 パーティーから外す、それがなんだか前世に読んだ追放モノの物語の文脈と似ているように思ってアガネルは尋ねた。正統な理由があって、パーティーから外す分の補填をするのであれば問題はないかも知れないが、そうでないのなら追放された途端に覚醒して復讐を企てるかも知れない。このギルドの人間がそんな酷いことをするとは思わないが、万が一があると困る。

 ビリウルは軽く笑ってからアガネルの疑問に答える。


「ああ、あいつは新人でまだ人となりの把握ができていないんだ。ほら、そいつの細かい思想なんかは何度か共に冒険をしてみねぇとわからないだろう? 貴族のご令嬢につけるのに人となりもまだ把握していない新人を選んでなにかあったら困るからな」

「ビリウル、あんたさぁ、オルはパーティーの仲間たちと打ち解けていることを知っているじゃないか。彼らが信じているくらいには信用できる男だろう、あれは」

「うーん、ミラっさんがそう言うと反論しづらいな」

「結局私情でございましょうか?」

「私情っちゃ私情だし否定はしないが……ま、正確に言えば勘だな」


 ビリウルはそう言って近くにあった椅子に腰掛ける。もちろん、アガネルにも着席を勧めて。

 神妙な面持ちのビリウルの言葉を軽々しく扱うつもりにもなれずに、アガネルは詳細を聞くことにして席につく。


「ギルドメンバーに聞くだけでもすぐに分かる情報だが、オルのやつはお前に似てる。すげぇ似てる。なにか関係があるんだろうなってくらい似てる」

「は、はぁ……?」

「アガネルは元々捨て子だったろ? で、オルはそんなお前に本当にそっくりでよ、歳も同じくらいなんだ。だから俺は双子だったんじゃないかって思ってる」


 詳しく知らない実家の関係者、双子の兄弟かも知れない冒険者。なるほど、ビリウルは起きなくていいお家騒動が起きる可能性を危惧しているらしい。しかし、アガネルはそんなことに興味などなかった。


「この世には瓜二つの他人が3人ほど存在するそうですよ。ですので仮に兄さんの予想が当たっていたとしても関係がないと思います」

「そうか……ま、アガネルがそういうんだったら俺はこれ以上言わねぇけどよ、何かあったら誰かを頼るんだぞ?」

「ええ、分かっておりますとも」

「それならいいが……まあ、マスターたちに判断は任せよう」


 ビリウルも引き下がったことだ、アガネルはルザミラの元へ帰ることにした。一秒でも長くルザミラの側を離れていたくない。どこの誰だかも不明な彼女の敵を消せていないのになにかがあった時にすぐ動ける場所から離れている時間など早く終わらせてしまいたい。そんな思いだった。

 ミラネラは少しばかり寂しそうに言った。


「もう戻るのかい? 久しぶりに顔を出したんだから皆に挨拶くらいしようとは思わないのかねぇ」

「姉さん、私はフェゲラーノ家の執事にございます。あまり長く家を開けるわけにも行きはすまい」

「そうかい、それじゃあ気をつけるんだよ」


 そうしてギルドをあとにしたアガネルは約束通り夕方よりも前に屋敷に戻ることができたのであった。

次回からは毎週木曜日の19時投稿になります。

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