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13.変身

「っ! おまっ……その髪……」


 と、めずらしく驚いた様子のペールがリヒーナの頭を凝視している。


「男ふたりに女ひとりの三人組、が追われてるなら、男三人に見えたほうがいいでしょ?」


 いいながら、短く切りそろえてある後頭部の髪をひと房つまんでみせる。


「もともとリヒーナはあんま髪伸ばさねえんだよ。旅の途中なんかは、男に間違われたほうが面倒が少ねえしな」


「街や村でお客さんの前に立つ時は人目を引きやすい華やかな格好のほうがいいから、これつけるんだ」


 リヒーナははずしたばかりの髪飾りを膝の上に乗せた。


 色とりどりの飾り布と一緒に、ひとつに束ねられた長い黒髪が広がる。

 髪飾りの付け根に、もとどおり鈴をつけ直す。


 飾り布と付け髪、それに鈴。これらをひとつにまとめて髪飾りにしてある。


 付け髪の黒髪は、ルッチェの姉ファーネが亡くなる直前、自分で切り落してリヒーナにくれたものだ。


 髪を伸ばすつもりがないんなら、せめて踊る時くらいこれをつけなさい。

 わたしの自慢のこの髪は観客を魅了する力があるのよ。


 そういって優しく笑ったファーネが亡くなったのは、それからわずか三日後だった。


「ちょっとごめんね」


 リヒーナはペールにひとこと断って、よいしょ、とスカートを脱ぎ始める。


「んなっ、なにしてるんだおまえ。頭がおかしくなったのか!? おいルッチェ、リヒーナを止めろ」


 リヒーナから目を逸らしながら焦っているペールの様子を尻目に、スカートから足を抜く。


「大丈夫だよ。ちゃんと下にはいてるから」

「え?」


 ちらりと横目でリヒーナの様子を窺うペールと目が合う。


「ほら。ちゃんと男の子に見えるでしょ」


 へへん、とリヒーナは胸をそらした。


 髪飾りをはずしてスカートを脱いだリヒーナは、短髪にズボン姿というごくごくありふれた男の子の姿に早変わりしている。


 ペールは一瞬言葉を失っていたようだけれど、すぐに疲れたように長い息を吐いてから、いつにも増して失礼なことをいった。


「確かに、その肉付きの悪い胸じゃあ、男にしか見えないな」

「てめえどこ見てやがる! 今すぐその目をほじくってやってもいいんだぜ?」


「不可抗力だ。今のはリヒーナが自分から見せつけたんじゃないか」

「ち、違うよっ!」


 リヒーナは慌ててペールに背を向ける。


「まあでも、その短い髪といい、腰に下げたシャルマイ(吹いて鳴らす円錐形の楽器)といい、しゃべらなかったら女だとはわからないかもな」


 女の髪は長いもので、シャルマイは男が吹くもの(トランペットやシャルマイみたいに大きな音の出る楽器は主に男が演奏するから)という一般的な観念を逆手にとっているわけだ。


「このシャルマイは、死んだお父さんのものだったんだ」


 リヒーナの両親も芸人だった。


 リヒーナが生まれる前に、立ち寄った街で飢えて死にそうだったファーネとルッチェを見かけ、自分たちの家族として迎え入れたのだと聞いている。


 昔は五人で旅暮らしをしていたのだ。


 ペールは「そうか」と短くいっただけだった。


 ルッチェも故人のことを思い出したのか、ペールから手を放す。


 死はすぐ近くにある。

 誰にとっても、当たり前に、すぐ傍に、その辛い別れはある。


 けれどその時が来ても、残されるものは確かにあるのだとリヒーナは知っている。

 それらに支えられて、リヒーナは今もこうして生きているのだから。

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