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「そろそろ飯ができる。今日は終わりにしよう」
「はぁっ、はぁっ、ありがとうございました……」
ずっと走り続けて足がふらつきながらテントのそばに戻る。
隣を走っていたグレイさんは汗ひとつかいてないのに。
グレイさんが鍋の蓋を取ると美味しそうな匂いがしてきた。
「ほら、食え」
「ありがとう。いただきます」
お椀を受け取って木のスプーンで掬って食べる。
日本でいう豚汁みたいなものだろうか。
味噌とか出汁は使ってなかったと思うけど、似たような味がしてホッとした。
お城ではよくわからない料理ばかりで、お腹を空かせることはなくても味気ないなと思っていた。
「グレイさん美味しいです」
「いいから食え」
お椀が空になるたびにグレイさんは問答無用で注ぐから、お腹がはち切れそうなほどたくさん食べた。
「ごちそうさまでした」
「ん。あとでお湯を持っていくからテントで身体を拭いておけ」
「ありがとう、グレイさん。グレイさんはお料理が得意なの?」
「得意ってわけじゃない。ただ作る機会が多かっただけだ」
グレイさんは水魔法と風魔法で鍋や食器類を洗うと魔法のポーチにしまう。
そこから私の着替えも出してくれた。
何でもかんでもグレイさんに甘えてしまってる。
「私もいつかグレイさんを手伝えるようになりたい」
「期待してない」
「酷っ」
「いいからもう休め」
火魔法と水魔法で適温のお湯を作ってくれたグレイさんのおかげで汗をかいた身体を拭くことができた。
毛布にくるまろうとしてからグレイさんに声をかける。
「グレイさんは?テントに来ないの?」
「俺はここでいい。魔物の気配があればすぐ対応できる」
「そっか……おやすみなさい」
返事は返ってこなかった。
パチパチと焚き火の音が聞こえるだけの静かな夜。
スマホもない、ネットもない。
お城で過ごしてる時、やることない夜はなかなか寝付けなかった。
でも今日はたくさん歩いて走ったから、焚き火の音を聞いてるとすぐに寝落ちてしまった。
翌朝。身支度を整えて軽く朝ごはんを食べ終えると森へのリベンジである。
「いいか、絶対俺から離れるなよ」
「うん。約束する」
「行くぞ」
スタスタとグレイさんが歩く。
私が歩きやすいように草を踏んで道を作ってくれるグレイさんのわかりづらい優しさに安心しながらも、時々気持ち悪い空気を感じながら森を進んでいく。
「魔物がいる。……なるべく音を立てずに回り道するぞ」
グレイさんの目線の先には米粒ほどの大きさの魔物がいた。
大きな犬みたいな魔物が三匹。
グレイさんの言う通りにしながら歩いていたけど、どうやら気付かれてしまったみたいで、魔物が走ってくるのが見えた。
「絶対離れるなよ」
グレイさんの背中に隠れるように立つ。
昨日、逃げ方だけじゃなく、護られ方も教わった。
グレイさんの動きを見ながら、魔物の攻撃が当たらない位置で、グレイさんから離れないように庇われる。
「アギャアッ!」
グレイさんが剣を振ると犬に似た魔物の首がスパンと斬れて地面に落ちる。
もう一匹もお腹を大きく斬られた。
最後の一匹が遠吠えしようと口を開けた時、グレイさんの剣が喉元を突き刺す。
あっという間に三体倒されると、剣についた血を払って鞘におさめた。
「まあまあだ」
「え、なにが」
「あんたの動き。昨日のあの時間で教えた限りじゃ上出来だ」
斬られた魔物から黒いモヤが出ていた。
これが瘴気なのだろうか。嫌な感じがする。
私は杖を握りしめた。
『光よ、在るべき場所へ』
呪文を唱えると杖の先についた魔法石が白く光り、魔物から溢れていた瘴気を消し去った。
練習していた通りにできたらしいと安心していると、グレイさんが少し驚いた様子で私を見ていた。
「あんた、本当に聖女様なんだな」
そう言ったグレイさんが少しだけ、苦しそうな表情をしているように見えた。




