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人と希望を伝えて転生したのに竜人という最強種族だったんですが?〜世界はもう救われてるので美少女たちとのんびり旅をします〜  作者: 犬型大


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閑話・異世界へ1

 プカプカと水に浮いている感覚が続き、視界は雲の中にでも突っ込んだように真っ白く霧がかかっている。

 全ての苦しみから解放されたような落ち着いた心地がしていたが突然地面に足がついて忘れていた呼吸を思い出した。


 霧が晴れて気づいたら玄関に立っていた。

 古めかしい和風な作りで地方のお土産のようなものが置いてあったり例えるなら古き良き実家の玄関といった感じなのだが、妙に新築のような綺麗さもある。


「お待ちしておりました。こちらへどうぞ」


「あっ……ちょっと!」


 玄関の上りに割烹着を着た妙齢の美人が1人立っていた。

 うやうやしく一礼すると質問を投げかける前にすぐに踵を返して家の奥へと歩いて行ってしまい、慌てて追いかける。

 

 靴を脱ごうと足元を確認するがなぜか靴は履いていなかった。

 そんなに速い速度で移動しているように見えない女性を小走りで追いかけるが、結局部屋の前で立ち止まるまで追いつくことはできなかった。


「こちらでお待ちです」


 女性がふすまを開けて中に入るように促す。

 促されるままに部屋の中に足を踏み入れると女性は部屋に入ってくることなくふすまが閉じられてしまった。


「待っておったぞ。ほれ、そこに座るとええ」


 広くもなく、かといって狭くもない畳敷きの部屋の真ん中には濃い茶色のちゃぶ台と白いひげをたくわえた老齢の男性が座っている。

 老人は自分が座っている向かい側を手で指すとニコリと微笑む。


 老人が指した場所には厚めの座布団が敷いてあった。

 特に敵意のような怪しい雰囲気は感じず、朗らかに笑う老人に大人しく従う。


 座布団に座って改めて部屋を見回すとちゃぶ台以外に部屋には家具など飾り気はないのに物寂しい感じもなく不思議と心が落ち着く。

 ただこの部屋にも目の前の老人にも見覚えはない。


 しかしどうやってここに来たのか思い出そうとしてみても思い出せない。

 頭の中に霧がかかったように、いつどうやってこの家に来たのか思い出せないのだ。


「まずは客人に茶でも出そう」


 老人が手をたたくとちゃぶ台の上に湯呑とお茶請けのお菓子が入った器が落ちてきた。

 慌てて天井を見上げるが上は穴も仕掛けもないただの天井。


 湯呑は結構な勢いで落ちてきたのにも関わらず割れてもなく、中のお茶も一滴もこぼれていなかった。

 お茶は湯気だっていて今入れたばかりに見えるのに一体どういうことなのか。


 老人を見るとニコリと人の良さそうな笑みを浮かべているので勧められるままにお茶を口に含んでみるとほんのりとした甘みと豊かな香りが広がる。

 特別舌が肥えているわけでもなく味の違いには疎いといえる方ではあったが目の前のお茶はとてもおいしいことは分かる。


「あの……」


 質問しようとして口ごもる。

 何から聞いていいのか分からない。


 ここはどこなのか、目の前に座る老人は誰なのか、どうしてここにいるのか、どうやってここに来たのか、いくつもの質問が頭の中をグルグルと回って言葉に詰まってしまう。


「ほっほっ、それでは本題に入るとしよう」


 聞きたげな雰囲気を察してくれた老人が湯呑を置く。


「いろいろ疑問に思っていることじゃろう。この状況を一言で言い表すなら、お主は死んだんじゃ」


「死ん……だ?」


「そうじゃ。覚えておらんか?」


「覚えているも何も……うっ」


 いきなり自分が死んでいると言われても訳分からない。

 そう思った瞬間ひどく頭が痛み、霧が晴れるように思い出した。

 

 その日はとても寒くて道路が凍っていたためにスリップした車が女の子の方に向かっていた。

 女の子を助けようとして、とっさに突き飛ばした。


 車が迫ってきていた。

 その後どうなったのか正確に覚えていないけれど自分は死んだのだと頭の中でストンと理解した。


 受け入れがたく拒否したい事実なのに自然と納得できた。

 死ぬ直前の記憶があるせいかもしれない。


 死んだ事実よりもかっこよく死ねたかなとか車にひかれたけどきれいな死体でいられたかなんてくだらないことを考えていた。

 死の瞬間を思い出して、揺れるお茶の水面を見つめながら感慨にふける様子を老人は優しく見つめている。


 どれほどの時間ボーっとしていたのだろうか。

 ふと我に返って顔を上げたが、未だに老人の持っている湯呑にはアツアツのお茶がなみなみと入っていた。


「ここは死後の世界……でもあるのじゃが正確に言えば今おるのは神の世界。お主の魂は儂が呼んだのじゃ」


「では、あなたは神様なんですか?」


「ふむ、そうじゃがそう固くならずとも良い。もっと砕けて話してくれて構わん。何ならおじいちゃんと呼んでくれてもよいのじゃぞ」


「いや……」


「ほっほっ、まあ好きに呼ぶとええ」


 流石に知らない老人、しかも神様だと言う相手ををおじいちゃんと気軽に呼ぶことはできない。

 神様は茶請けの器の中から透明なビニールで包装された饅頭を1つ差し出す。

 

 それは生前好きだった近所にある和菓子屋さんの饅頭に似ていた。

 饅頭から神様に視線を戻すと何を考えているか分かったかのようにそうじゃよと言って優しく微笑む。


 饅頭の包装を開いて一口かじると程よい甘さが口に広がる。

 甘さが控えめで何個でもパクパクといけてしまいそうな、よく食べたあの味だとすぐに分かった。


 甘さが口に広がったところでお茶をすすり、また饅頭を一口食べる。

 饅頭は美味しくて、お茶も熱くて美味い。

 

 感覚は普通なのに自分はもう死んでいるのだ。

 気づいたら頬を涙が伝っていた。


 刺激にあふれていたわけでも何かの主役になって輝いていたわけでもないけれど人生に不満はなかったし楽しかった。

 死のうなんて思ったことも子供がすねたような理由でしか考えたこともない。


 生きることに特別執着したこともないがこんなことになってみて、こんなことになってしまったからこそ、まだまだ生きたかったという感情が涙となって流れ落ちる。

 神様は何も言わずにジッと黙っていてくれていた。

 

 何も言わないことがありがたくて、涙を流すごとに頭の中がスッキリとしてきて話の整理ができてきた。

 ひとしきり涙を流して落ち着いてきた頃に神様はもう1個饅頭をくれた。


 一口かじった饅頭はさっきの物と同じで甘いのだけど同時に少ししょっぱい感じがして、お茶で流し込んだ。


「…………どうして俺はここに呼ばれたんですか?」


「君は死んだ、そこまではよいかな?」


 よくはない。

 よくはないのだけれどここでそれを言っても話が堂々巡りするだけで前に進まない。


 とりあえず理解はしたので静かにうなずき返す。


「ふむ……何から話せばよいのか。まあ、結論から言おう。君には異世界に渡ってもらいたくて呼んだんじゃ」


「……は?」


 飲んでいたお茶を吹き出しかける。

 神様の顔を見返すがふざけている様子はなく、柔らかく笑顔を浮かべていた。


 悪ふざけなら困るけれど真剣でもそれはそれで困る。


「い、異世界って一体……?」


「まあ、待ちなさい。ひとまず結論から言ったのだから理解できなくても当然。まずは話を聞きなさい」


 神様が手で制して話を始めた。

 とてもじゃないがすぐに信じられるものではなかった。


 異世界、並行世界、パラレルワールドなど呼び方は何でもいい。

 人の目には見えないけれどこの世界には別の世界が存在している。

 

 宇宙における星や銀河みたいに世界と世界は近づいたり離れたりしながらも互いに干渉することなく独立していた。

 今現在地球がある世界は他のある世界とかなり近い距離にある。

 

 その中でもある星と地球は非常に近づいていた。


 奇跡的な確率なほどに。

 この『ある星』が神様の言う異世界であり話の主役になる。


 並行世界的な説明は簡素なもので終わった。

 時間をかければいくらでも話せるが説明も難しく、終わりがないので勘弁してほしいと言われた。

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