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㉛マリーとアスタロトの記憶 その2


 わたしが、アスタロト様のお城に来て、いたれり尽くせりの生活が始まった


なにもかも豪華で、あまりあるほどだった。


へスぺリデス家の生活は、まだ程度が知れていたのだと感じるほどだった。


しかし、それ以上に、悪魔というのは、なんて情熱的なのかと思った。


こんなに、四六時中愛を囁かれていることなどなかった。


それはやはり、オイジュス王太子のわたしへの愛情は、偽物にせものだったということだ。


所詮しょせん、わたしはエリス王女との関係のカモフラージュにすぎなかったのだ。


古来より、悪魔は人間を誘惑する存在とされている。


だからこんなにも、情熱的に接してくれているのだろうか?


いいえ、ちがう。


アスタロト様のわたしへの愛情は、本物だ。


このデスピオ火山城に来てからというもの、朝な夕な、アスタロト様は、わたしをかき口説いていた。


今日も今日とて、常夜のデスピオ火山城にあって、日の光がサンサンとふり注ぐサロンでお茶を頂きながら、ふたりで向かい合わせにソファに腰かけている。


「マリー、わたしと同じ悪魔にならないか?」


「悪魔に?」


「そうだ。悪魔に転身するのだ。どうだ?」


突然の提案に迷っていた。


「気がすすまぬか?」


「いいえ、そうでは、ありません。思ってもみませんでした」


「なにをだ?」


「悪魔に転身できることをですわ」


「我とともに、悪魔として悠久ゆうきゅうの時を揺蕩たゆたうのも、愉快なものだと思うが、どうだろうか?」


わたしは、すっかりアスタロト様と愛し合う生活に頭から爪先までどっぷりつかっている。


いまさら、人間界に未練みれんはない。


女性だからと言われて、生きづらい人間の生活よりも、悪魔に転身して、のびのび永遠に生きるのはいいかもしれいと考えるまでになるのに、そう時間はかからなかった。


「悪魔になったら、人間の男に負けないくらい強くなれますか?」


「まぁ、ひとひねりだな。どうして?」


「わたし、覚えているの。何度もオイジュスに殺されていることを」


アスタロト様は、わたしを手招きした。


そばへ行くと彼の腕の中に当然のようにおさまった。


「私たちの初夜のために特別に建てさせた白い館だというのに、あそこでなんども殺されました。助かってへスぺリデス家に逃げたこともあったけれど、お父様に冷たくあしらわれて結局、投獄されて服毒自殺に見せかけて殺されたこともありました。もう、あんな思いはしたくない。男に負けない力があれば、わたしは、わたし自身のことをいいように扱われずにすんだはずです」


「そうだな」


アスタロト様は、わたしの頭を優しく慈しむようになでてくれた。


「悪魔になったら、強くなれる?」


「ああ」


「心も、体も?」


「心も?どうして?」


「アスタロト様に甘えてばかりはイヤなの」


彼と至近距離しきんきょりで見つめあう。


「わたしもあなたを支えられるくらい、自立していたいの」


「自立か……考えたこともなかったが。わたしは、マリーを誰にもわたしたくない」


「嬉しい」


「傷つけさせたくもない」


「ありがとうございます」


「だから、独り立ちは、正直寂しい」


「別々に生きるわけではないの。アスタロト様のそばで、あなたが寄りかかりたいときに、ちゃんと支えられる人間になりたいの」


「支えるか!?この私を?」


「ええ!おかしいですか?」


「いいや。愉快だ!悪魔界で侯爵の位までのぼりつめたこの私を、支えたいという者にあったのは、初めてだ」


わたしを抱きあげ顔をまじかに見つめあう。


「マリー君の気持ちは、わかった。悪魔の力を得て、人間の男や人間界のしがらみなど気にせずに生きてみろ!」


「はい!」


わたしは、生まれて初めて、自分の人生の決断を自分で行った。


たとえそれが、悪魔になるという決断だったとしても。



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