㉗マリーの異変
いつの間にか、わたしは、わたしの体をたすけ起こそうとするアスタロト様を見ていた。
アスタロト様とわたしの体を少し離れたところから見ていたのだ。
アスタロト様のことばには、正直驚いた。
『悪魔に転身させていなかった』
わたしは、悪魔になっていると信じて疑わなかった。
悪魔の初歩の初歩でも、その能力の一端を使えるようになっていたから。
悪魔になっていると思い込んでいた。
どうしてわたしを悪魔にしてくださらなかったのか?
「マリー目を覚ませ!戻ってきてくれ!!」
アスタロト様は、懸命に、わたしの体の傷に治癒の力を使われている。
メッタ刺しにされた傷は、みるみる治癒してゆく。
このままいけば蘇生できる。
と思えたが、傷はいえても、わたしの完全蘇生は、果たせなかった。
「アスタロト様!マリー様!」
ヤギハシさんが駆けつけてきた。
ーヤギハシさん!わたし、ここにいるわ!!ー
テレパシーもとどいていない?
「これはいったい!?」
「オイジュスに隙をつかれた。ヤツに騙されたのだ!いまは、治療が先決だ」
「傷はもうわかりませんが……なんだか様子が、生気が感じられませんが、まさか……」
ーえっ?もしかして、ダメなのわたし……ー
でも、それなら、また、タイムリープすればいいじゃない!
「今までの数多のタイムリープが原因だろう。普通の人間が、魂をタイムリープできることじたいが、おかしなことだった」
わたしは、タイムリープできるのだからと高を括っていた。
「人間の魂の限界だ。肉体的にも精神的にも。遺産めあてでありとあらゆる方法で殺害され続けて、そのたびにタイムリープをしている。心身ともに限界だったのだ。だから、早く助けてやりたかったのだ。なのに……」
「アスタロト様、それはどうゆうことですか!?」
ヤギハシさんの軽妙さは影を潜めた。
アスタロト様の傍らにひざまづき、肩口をつよくつかんでいる。
いつになく、真剣な激しい問いにアスタロト様はうつむいたままだ。
「マリーは、もうタイムリープできない。生き返ることはない……」
衝撃の事実に、ヤギハシさんだけでなく、わたし自身も驚き、声も出ない。
タイムリープができない!?
「タイムリープは、魂自体をすり減らす行為なんだ。それを、いくども繰り返せば、魂は摩耗しつくし、いずれは……魂は、消滅する」
「そっ、そんな!?……」
あのヤギハシさんが、茫然自失だった。
わたし、生き返れないの?
……わたしの魂が、消滅する?
わたしは、アスタロト様のそばにいるのに。
こうして立っているのよ!?
意識だって、ちゃんとあるのに!?
どうして!?
わたしは、まるで幽霊のようになってしまったことを理解した。




