夢の果て
数日後、ギルド本部に届いた急報は、冷たい現実を突きつけるものだった。
バルベラへ続く街道の中間地点。緩やかな丘の陰に、四人の若者たち──エルネスト、プラシド、エクトル、アンジェリカが倒れていた。全員が戦闘の末に命を落としており、その場には矢の残骸や、焦げ跡、深くえぐられた大地の痕跡が無数にあった。
調査に当たった衛兵隊の報告によれば、襲撃者はおそらく二十人前後。しかも組織的な配置と一斉攻撃を行っており、偶発的な野盗の襲撃とは思えないとのことだった。
そして、最も深刻な事実がひとつ。
──彼らが護送していた文書が、消えていた。
蝋封され、ギルドとスィニ商会間の協議内容が記されていた極秘文書。それだけが、現場から跡形もなく消失していた。
「文書が……奪われたのね」
エミリー・フラーは、報告書の文面を読みながら、力なく呟いた。文書が目的だったのならば、彼らは無関係な巻き添えではなかった。意図的に狙われ、口封じのために殺された可能性すらある。
胸の奥に走る激痛。それは、ただの「失敗」や「不運」では片付けられない何かだった。
彼女は、あの日の光景を思い出していた。
「任せてください。僕たちが絶対に届けます」
そう言って、胸を張って旅立った四人。道中の不安を笑って跳ね返していた彼らの姿が、まるで昨日のことのようによみがえった。
──私が、送り出した。
夢を抱き、故郷を捨ててクナーにやってきた若者たち。その命が、たった一通の文書のために絶たれたのだ。
どれだけ多くの冒険者を見送っても、慣れることなど決してなかった。だが今回の痛みは、より深く、鋭かった。エミリーの手の中には、四人の登録記録があった。彼らの名が、確かにそこに並んでいる。
エミリーは震える手で、記録の末尾にそっと「殉職」と記した。だがそれは、彼女の心に刻まれた傷の深さを、到底書き尽くせるものではなかった。
──これは偶然じゃない。誰かが、文書を狙っていた。
その疑念が、彼女のなかで静かに芽吹き始める。
涙をこらえ、唇を噛みしめながら、エミリーはまた一歩、前に進む決意を固めた。若者たちの死が無意味で終わらないように。今度は、ギルドとして、何が起きたのかを突き止めなければならない。
そして、彼らが命を賭して守ろうとしたものの意味を──明らかにしなければならない。