解決
その夜、エミリー・フラーは、ギルド本部の事務室で一人残業を続けていた。魚人による埠頭襲撃の後処理、犠牲者の確認、報告書の整理、王軍との連絡手配──すべてが後手に回っており、緊急対応の波は収まりそうになかった。
疲労の色が浮かぶ彼女の頬を、突如として鋭い音が貫いた。
「……鐘?」
ギルドの中にけたたましく響く金属音。それは、警備用の魔道具が“侵入者”を感知した際に発せられる非常警報だった。エミリーは椅子から跳ね起き、扉に駆け寄ろうとした瞬間──
「ギャアアアッ!」
「警備隊! 応戦しろ!」
廊下の先から、人の悲鳴と剣戟の金属音が重なる。恐る恐る扉を開けたエミリーの視界に、警備員と魚人の切り結ぶ姿が飛び込んできた。廊下の床に濡れた鱗が散り、血が弧を描いて飛び散る。
「部屋に戻って! 入口を封鎖して立て籠もれ!」
叫びが飛ぶ。その瞬間、エミリーの判断は早かった。扉を閉めると、すぐさま机を引きずり、椅子を積み上げ、書類棚で通路を塞いだ。心臓が耳元で打つような緊張の中、時間だけが過ぎていく。
──どれほど経っただろうか。
剣戟の音はいつしか聞こえなくなっていた。それでもエミリーは身を潜め、物音に耳を澄ませ続けた。そして、窓の外に多数の足音が響くのを感じる。
クナー守備隊だ。彼らがギルド内に突入していくのが見えた。
ようやく部屋を出たエミリーは、守備隊の兵士に保護され、血と煙の充満した廊下から避難した。
後日、ギルドの上層部から通達が下された。
襲撃の原因は、おそらく「至高の白」にあると。
七十年前、魚人族に奪われたその真珠のネックレスは、実は魚人の一族にとって“聖なる象徴”であり、侯爵がそれを再入手したことにより、彼らは「奪還」を開始したのだという。クナーへの連続襲撃は、その執念の現れだった。
だが、至高の白はすでに王侯貴族の館──エインズワース侯爵領に運び込まれ、厳重に保管・鑑定が進められていた。魚人の目的が果たせないと分かると、襲撃は沈静化した。
だがそれで終わらなかった。
政治的圧力のもと、侯爵の名のもとに、ギルドと王国軍は報復として魚人の拠点である岩礁を特定。重装備の軍艦と一部の精鋭冒険者を派遣し、全面戦闘の末に、魚人の一族は殲滅された。
その報は、「脅威の芽を摘んだ」として公的に発表されたが、エミリーは黙ってそれを受け取るしかなかった。
魚人の目が何を訴えていたのか、彼女には分からない。
ただ一つ、胸に残るのは──守るべき正義が、時に何かを踏みにじるという事実だった。
この出来事をきっかけに、エミリーがギルドや王権、貴族制度に対して思索を深めていく展開にも繋げられます。続けますか?




