表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

6/6

04-2 チタン(後編)


「あら、ミレリア様。本日は随分と斬新なデザインの指輪をされていらっしゃるのですね。」


王太子の凱旋パレード終了後に王城で始まった祝賀会でシャルロッテの母ミレリアに対し別派閥のご婦人が揚げ足取り気味にミレリアの指輪の奇抜さを指摘してきている。


「あらあら、ほほほほ、これね。シャルロッテとお揃いなのですよ。あの子もようやく身に着けるものに興味を示してくれたのは良いのですが、もうちょっとセンスを磨かないといけませんね。」


娘から微妙な刺繍がされたハンカチではなく指輪を送られたことなのか お揃いの指輪であることかその両方か、表面上はセンスがいまいちと言っているが内心はどうやら相当うれしかったようだ。派閥争いでマウントを取りに来たご婦人のことなどまったく気にせずに指輪をほめられたと勘違いしてニコニコしているその横でセリアの母マリアがシラーっとした目でミレリアのことを見ながら娘二人にもう少しファッションセンスを磨かせることを心に誓っていた。


そんな娘を目線で探したその先で娘たちは娘たちで舌戦を繰り広げていた。


「あら、伯爵令嬢ともあろうお方がそんな貧素な飾り物を身に着けていらっしゃるなんて。お付けになる飾り物を御家の格に合わせ大きさのものになさった方がよろしくてよ。」


そう言ってフォートワース伯爵家の令嬢であるシャルロッテにケンカを売っているのは子爵令嬢のアリアドネである。アリアドネの実家であるスラローン家は最近領内で高品質の薬草の栽培に成功しそれをもとに作成される魔法薬の売り上げで領内の税収が爆上がりしたことで一時期話題となった。

その口元を隠す扇子を支える左手には大きなエメラルドの指輪が光っておりその手首には淡い赤色のこちらも大きなルビーの腕輪をしている。どうやら自分が身に着けた宝石の大きさを見せつけてマウントを取りに来ているようだ。

二年ほど前から身に着けている指輪のエメラルドはその中心に星形の輝きを内包した一級品であるが、今回手首にしている腕輪に付けられたルビーは大きさこそあるものの赤みが淡くピンク色にみえるそれは10代の少女が付けるには可愛らしくて似合っているが価値的には比較的お手頃と思われる。

一時、高品質の薬草で上がった税収で羽振りが良くなり”ポーション成金”等と呼ばれていたが、薬草栽培とポーション作成を行っていた錬金術師の囲い込みに失敗し領内から逃げられて 一時上がった税収も元に戻ったが貴族の矜持で見栄を張って見た目大きな石を使ったアクセサリーを身に着けいるあたりに財政が厳しいらしい状況が透けて見えるのが残念である。


「ああ、これ。大きく外に出ていると戦闘に邪魔になると言ったら台座に埋め込むこともできるって言われて、こうして完全に台座に埋め込むのにリングの幅に合わせた大きさにしたからこのサイズになったのよね。」


残念ながら宝飾品の価値が普通の令嬢とは異なるシャルロッテ嬢には効果がなかった様でむしろその機能が気に入って付けているのでむしろ自慢げである。


「本当ですわ。石が指輪の中に完全に埋め込まれているデザインは今まで見たことがありませんね。」


「でもあの金でもない銀でもない不思議な光沢とグラデーションの台座がとても魅力的ですわ。」


そう言ってシャルロッテの指輪を目にした周囲の令嬢がやいのやいのと集まってくる。浄化作用を付与するために生成された表面の酸化膜の膜厚でその色合いを変えるチタン特有の金属光沢がいい感じにグラデーションを掛けている。

アリアドネ嬢の放った口撃はその造形の珍しさと色合いの不思議さから周囲の令嬢の注目をシャルロッテの指輪に集めてしまっていた。


「そ、そちらの白い指輪には石すらついていないではないですか。」


分が悪いと思ったのか今度はシャルロッテの隣にいたセリアの指輪に目標を移したようだ。


「こちらの指輪は日焼け防止の効果が付与、ひぃぃ」


”ギンッ”


日焼け防止の効果が付与されていると言いかけた途端、周囲のご令嬢はもとよりご婦人方の眼力が圧力となってセリアに圧し掛かっている。


「あら、日焼け防止とはなんて素敵な効果がある指輪なのかしら。帝国では聞いたことがありませんがこちらの王国では普通なのかしら。。」


そう言って声をかけてきたのは、今回の祝賀会の主役の一人、エカテリーナ皇女である。


”サー”


セリアに注目していた周囲のご令嬢たちが一斉に礼を取る。


「エカテリーナ皇女様にはご機嫌うりゅわしゅう」


『うりゅわしゅう』

『うりゅわしゅう』

『うりゅわしゅう』


王族など口を利くどころか近くで見たことも無いセリアが見事に噛みながら返事をしている。


「そんなにかしこまらずに面を上げてくださいまし。わたくしも肌の白さを保つために人一倍気を使って居ましてよ。それにそちらの不思議な色合いの指輪にも興味がありますわ。」


「はひ。こちらは私達のおこじゅかいでも かっ、買える指輪をとお願いしてあまり一般では使われていない金属で作ったものとなります。」


『おこじゅかい』

『おこじゅかい』

『おこじゅかい』


「うふふふふ、金属なのに白いのね。白いから日焼け防止の効果があるのかしら。」


「はっはい。あ、あちらの【浄化】を付与した指輪と同じ材料ですが少し足りなくなったのでこちらは混ぜ物をしたところひにゃけを防ぐ効果が偶然付与されまして。」


『ひにゃけ』

『ひにゃけ』

『ひにゃけ』


「あら、素敵ね。でも偶然となるともう手に入らないのかしら?」


「あの、じゃいりょうとなる鉱石がもうないので作れないと言われています。」


『じゃいりょう』

『じゃいりょう』

『じゃいりょう』


「それは残念ね。わたくしも一つ欲しかったけれど。それは実習で外に出ないといけない学生さんに必要ですものね。」


「はひ、実習ではたしゅかっております。」


『たしゅかって』

『たしゅかって』

『たしゅかって』


「ふふふふ。楽しそうね。貴女、お名前は?」


「ロンド子爵家三女のセリアと申します。」


”ちら”


「フォートワース伯爵次女のシャルロッテと申します。」


「改めて、エカテリーナ・アレクサンドリアよ。帝国から来たばかりでこちらには親しい知り合いが居ないのよ。良かったら二人とも仲良くしてね。」


「もったいないお言葉。」

「光栄です。」


「皆様もこれからよろしくね。そうねぇ、せっかくなので乾杯しましょう。」


そう言って新しい杯を手に取る。

それを見て遠くから見ていた何人かの貴族の口角がわずかに上がるのに気付いたものは居なかった。そうその直前に偶然にもシャルロッテとセリアの指輪に周囲の目が集まって一瞬のスキが出来ていたことにも気付いたものは居なかった。


「王国と帝国の共存を祝して、乾杯」


『乾杯』

『乾杯』

『乾杯』


コクコクと楽しそうに杯を開けるエカテリーナの動きが途中で止まる。


「かはっ」


”どうっ”


唐突に血を吐いたかと思うとエカテリーナがその場に倒れこんだ。目をつぶり荒い息遣いで胸を押さえている。


「キャー」


「皇女様、しっかり」


「毒か。誰か解毒ポーションを」


「治療師、治療師」


「あぁ、聖女様、聖女様がいるぞ。」


たまたま出席していた教会聖女が引っ張り出されるが


「ご、ごめんなさい。私は治療特化で解毒は得意ではなくて。」


残念聖女だった。

突然の出来事でボー然とする周囲のご令嬢方の中でセリアがいち早く再起動した。


「シャル!指輪!!」


シャルロッテの指輪に付与された【解毒】を思い出させ皇女に解毒を施すように促す。


「そっ、そうね。光魔法ね」


促されたシャルロッテが皇女の脇に跪いて右指にはめた指輪に左手を添える。


「【星明】」


光の生活魔法の魔力を注がれた指輪が紫色に光その光が皇女を包み込む一瞬、呼吸が安定したがまた苦しそうに呼吸し始めている。


「うう、残念ながらそれでは効果が弱いようだ。」


残念聖女に付き添っていた高司祭の服を着たオッサンが他人事のようにつぶやいている。


『じゃあ、お前が解毒しろよ。高司祭だろう。』


との周囲の目も気にならないようだ。


「効果…そうだ。お母様、お母様。セリア、お母様から指輪を分捕ってきて!!」


指輪を作った時に話していた同じ指に2個はめた時の効果について先に思い出したのはシャルロッテだった。


「ああ、そうね。直列ね。おくさまー、おくさまー。」


そのシャルロッテの指示を聞いてセリアがシャルロッテの母親のミレリアのもとに走っていく。


「お、おくさま、指輪を…失礼します。」


「あ、ああ、はい」


シャルロッテの指示通り分捕るようにミレリアの指から指輪を抜き取ったセリアがシャルロッテの元に戻ってくる。


「シャル、はい。」


「ありがと。」


セリアから受け取った指輪を右手の同じ指にはめる。


「セリア、あとお願いね。」


「任された。」


指輪をはめた手を握り胸の前に翳すと魔力を集中させ始めるとまるで指輪に光が集まるように周囲が暗くなりシャルロッテンの周囲がキラキラと星屑のように輝く始める。


「全力全開、【星明】」


周囲の光を集めきった指輪から倒れているエカテリーナに光が注ぎその体を包み込んでいく。

やがて包み込んだ光が収まるとエカテリーナの呼吸も落ち着いたが、その手はまだ胸を苦しそうに抑えている。


「聖女様、回復を!」


「は、はい。【ハイヒール】」


今度は聖女から放たれた魔法の光が皇女を包み込むと皇女の体から力が抜け呼吸も安定し始めた。


「うう、わたくし…」


「おお、気が付いたぞ。」


残念聖女が回復特化なのは伊達では無かったようで回復魔法の効果がすぐに表れてエカテリーナが目を開けた。


『パリーン』


「壊れた!」


やはり、シャルロッテの全力に耐えきれなかったようで【解毒】が付与された指輪が砕け散った…



***************



祝賀会はその場で中止され毒を盛った犯人捜しが行われたが、結局犯人の特定に至らず王太子が怒りで周囲に当たり散らす日々が過ぎている。


その後無事に回復したエカテリーナ皇女主催のお茶会が王宮で開かれている。


「シャルロッテもセリアもありがとうね。お陰で命拾いをしたわ。」


「いえ、皇女様がご無事で何よりでございます。」


「でも指輪、壊れてしまったって聞きましてよ。ごめんなさいね。」


「いえ、あれはそれほど高価なものではありませんので。それに領地に戻りましたら作ったものにまた作れないか相談してみます。材料さえあれば作れると思いますので。」


「その時は、わたくしにも作っていただけるかしら。わたくしはセリアさんとお揃いの日焼け防止が付与された指輪の方が興味がありましてよ。ふふふ、そういえば作ったものがいるのよね。フフフ」



***************



「うおっ」


「どうした。急に大声上げて。」


伯爵領の領都から半日歩いたところにある田舎の村の錬金工房内に居た錬金術師の男が急にい大声を上げたので隣にいたご近所さんの中年の男が驚いて何事かと聞いている。


「ああ、いや、なんか急に寒気がして。」


「なんだ。風邪でも引いたか?怠けてばかりで働かないから体が衰えているんだよ。毎日しっかり体を動かして働かないからだ。」


「いやそんなこと言われても外に出ないだけでちゃんと作業はしているんだよ。それよりもなんか嫌な予感がする。」


「嫌な予感?」


「んん、そうだな。働かないとだな。よし、明日から、いや善は急げだ。今すぐ採取の旅にでよう。そうしよう。」


「オイオイ急にどうしたんだよ。」


「いや、前にもこんなことがあって あの時はお貴族様に絡まれたんだよな。今回の方がなんとなくヤバそうだから姿をくらますよ。」


「穏やかじゃないな。」


「まあまあ、ほら、出た出た。」


そう言って男を店の中から追い出しつつ店内の物を片っ端からインベントリに詰め込んでいく。

あっという間に空っぽになった店舗から二人そろって外に出ると何処からともなく取り出した旅行者用のローブを羽織る。


「じゃあ、そういうことで姿をくらますから探さないでくれ。誰か来ても何処に行ったか分からないと…そうだな。足が付くと嫌だから辺境伯領の金属ダンジョンには行かないと言ってくれ。」


「え、分かったけど今から出るのか?明日の朝でなく?今から出発したんじゃ日のあるうちに領都にも着けないぞ。」


「ああ、問題ない。荷物は全部詰め込んだし食料も持っているしな。じゃあな、世話になった。」


「お、おい」


そう軽く挨拶すると錬金術師の男は2年ほど前にふらっと村に現れた時と同じように2年間過ごした村を後にするのだった。


 ーENDー


自分で掛けた縛りがきつすぎてこれにてネタ切れです。

短いうえにエタった挙句に完結としてしまって申し訳なく思いますが何とかここまでは書けました。


次有るかわかりませんが、その時はよろしくお願いします。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ