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ぽっちゃり転生する!  作者: 冥希
3/3

一人で出来るもん! ①

 マリー・サイラスこと私は『飯マズ』に耐えに耐え今日4歳となった。

 美男美女の現世両親に囲まれ、使用人もこれまた美形に囲まれ立派な淑女になるために礼儀やら勉強やら頑張った。勉強に関しては前世という名のチートがあったから、それほど苦労もなく出来ている。これには家庭教師の先生も流石ですお嬢様と言ってくれているので問題はないだろう。

 礼儀の方も両親や祖父母を見ているうちに自然と出来ていたようだ。

 この現世での『サイラス』という家は、世界の四大国のうちの一つ『キュブリエ』という人族と温暖な常春という気候が特徴の国の公爵家の一つだった。

 世界にはキュブリエの他に、魔族の多いと火山や温泉が有名な『サヴェージ』。獣人族や妖精族が多く、自然豊かな『ブラハ』。天使族や竜族の住む天空にある『スフィア』この四大国に分かれている。どの国も友好関係にあり戦争はこの世界には無い。

 魔族と聞いた時は、魔王いるの?と思ったものだが基本は魔族の王様を指す言葉だそうだ。どの国も王族がトップの王政らしい。

 そして人もだが生活には魔法やら魔術が色々使われている。

 誰もが大なり小なりの魔力を持って生まれる。これはこの世界の神、アルス神の恩恵らしい。世界の王様達が言っているのだからそうなのだろう。

 勿論私にも魔力はある。父様曰く、精霊王並みのチート魔力らしい。

 らしいというのは本人に自覚が無いからだ。まともに使ったのも、3歳の時に一回だけだし使わなくても問題を感じなかったからというのが一番の理由だ。

 前世の記憶を引きずる私としては別に使わなくてもという所で、皆が魔術を使うのに疑問を持ちたくなるのだ。例えばお茶をポットから注ぐのに魔術で自動とか、部屋の扉が自動ドアばりとか至極どうでもいいものばかり。どうせやるなら洗濯機を開発するとかお掃除ロボを作るとかすればいいのに、そういった事にはメイドさん達が使われているのだから無駄というか何というかといった心境だ。

 

 目覚めて四年。

 今日私は遂に革命を起こすべく動くのだ。

 鏡を覗く度に容姿は両親の血を確実に引いているはずの父譲りの銀髪に青と赤のオッドアイなのだが。それを全て台無しにする平凡な顔に前世からのポチャ子ぶり。一体なぜ…と思わずにはいられない容姿。

 幾ら頭が賢く淑女なお嬢様になろうがコレでは結婚出来ないのではと思わずにはいられない。

 両親や祖父母は私を溺愛しまくりだが、一歩外に出れば『出来損ないのサイラス』と呼ばれる始末。

 祖父も父もキュブリエの宰相を歴任しているが、私一人のせいで母様も『鷺がカラスを生んだ』と陰口を叩かれているのだ。

 悔しかったのだ。自分のせいで美しく優しい家族が貶されるのが。

 だから少しずつ色々考えていた。

 周りに私の力と知識を見せつけるのだと。

 それが今日の誕生会なのだから。

 「誕生日おめでとうマリー」

 「ありがとう父様」

 「おめでとうマリー」

 「ありがとう母様」

 ダイニングには両親や祖父母が微笑ながらお祝いを口にする。

 普段は厳しいダンディな祖父も銀髪を綺麗に纏め優しげな微笑を浮かべる祖母も皆が嬉しそうだ。

 そばに控えてくれてる執事もメイドの皆もニコニコしている。

 ―――――本当に私は幸せ者だな。

 白髪混じりの髪を後ろに撫で付け紳士然とした執事長のベンが椅子を引いてくれるのに合わせて座り、朝食が始まる。

 「アルス神に日々の恵みの感謝を」

 「「「「感謝を」」」」

 これがこの世界の頂ますらしい。

 食卓には固いカチカチのパンに薄緑色の枝豆に似たエヴィという豆の浮かんだ塩辛いスープ。メインは鳥肉のソテーしかし味無。

 本当に残念な食事だ。

 でも周りには悟らせない様に笑顔で食べる。四年で表情筋は大分鍛えられたのではと感じずにはいられない。

 「今日の誕生日会のですが…」

 「何か問題でもあったのかい?」

 「あの…自分で、おもてなしのお菓子や料理を作りたいのです」

 そう言った途端、周りの視線が自分に集まるのを感じる。

 「お客様に喜んで頂きたいのです!」

 「まぁ、でもマリーは料理した事無いでしょう?」

 「ずっと本で勉強はしていました!おじい様やおばあ様、父様母様に食べて頂きたくてずっと勉強していたんです」

 幼児の力一杯の言葉に父様は感動している様子だが、母様は困った顔だ。

 「…ダメですか…?」

 精一杯のウルウル上目使いで訴えてみる。前世との年齢プラスと平凡顔にされても効果は薄いかもだが。

 「やってみなさい」

 祖父の一言に父様もうんうん頷いてる。

 「おじい様ありがとう!」

 満面の笑みで言う私に祖父はニコニコしている。

 「でも一人じゃ危ないわ」

 「じゃあユーリと一緒ならいいでしょ?包丁とか危ないのはユーリに手伝って貰うから」

 ユーリというのは私専属の護衛騎士のユーリ・カルヴァンだ。常に後ろに控えていて、危ない時や必要な時に手を貸してくれるのだ。例に洩れずイケメンさんだ。金髪にグレーの瞳、身長も180以上あり騎士だけあって細マッチョ。年は17歳と言っていたが、ぽっちゃり幼児の面倒を嫌な顔をせず見てくれる性格もイケメンさんだ。

 「ユーリが一緒なら…」

 「ありがとう母様!美味しいの作るからね!」

 母様が続きを言う前に被せるように言う。

 よし、これで今日来る客どもをギャフンと言わせてみせる!

 密な闘志を燃やす私を後ろで控えていたユーリがジッと見ているなんて、私はまったく気付いていなかったが。




 朝食が終わり動きやすいワンピースにエプロンを付け、髪を軽く一括りにし私は厨房に立つ。

 勿論ユーリにもエプロンを付けて貰い、準備万端だ。

 イケメンはどんな格好でも決まるんだな。それにしても、ユーリは本当に格好良いと思う。恋愛に興味無かった干物女の私でも、この王子的外見はちょっとグっとくる。

 「料理長、小麦粉と強力粉はありますか?」

 心配した母様が料理長に手伝ってあげてと頼んだらしい。料理長はサルバ・オーランドという白いコックコートに短い黒い髪、グリーンの瞳が綺麗な全体的に華奢な感じの美形というよりは美人な男性だった。

 料理長が手伝ってくれるとは心強い。材料や道具の場所は分らないからね。 

 この世界の食材は基本現世と似ている。不思議なのは名称がメチャメチャなのが果物限定なのだ。動物やその他はほとんど同じ様な物なのだ。

 果物は見たことない物ばかりだから、ある意味覚えやすいといえば覚えやすい。

 「こちらに」

 「あとパン用の酵母菌はありますか?」

 「今は三種類あります。ピノ、レイン、ベルです」

 ピノは細長いオレンジみたいなメッチャ酸っぱい果物、レインはピーナッツみたいな味のナスみたいな形の果物、ベルはブルーベリーが房みたいになった果物で味はイチゴに似ている。

 「ではレインで作ってみましょう。後はバターにチーズが欲しいですね」

 「…失礼ですがバターもチーズという食材も私には分らないのですが…」

 この世界にはバターもチーズも存在していないのだろうか?

 「牛乳はありますか?」

 「それならば」

 冷蔵庫から1リッター程の瓶の牛乳が出てきた。上の縁にうっすら白く凝固しているので加熱処理されてないのだろう。これならバターも作れるな。

 ボールにパン生地分の牛乳を移して蓋をきっちり閉め、それをユーリに渡す。

 「これをひたすら振ってちょうだい。少しずつ固形と液体に分離してくるから。出来るなら瓶二本やって欲しいけど…。大変だと思うから無理しないで」

 「分りました」

 先に少し振って見せると、それを見本に物凄い勢いで振り始めるユーリに驚く。

 これが大人の騎士の筋力なのか…。

 「あとは塩、砂糖、卵で。量りと計量カップはありますか?」

 料理長は私の言葉に次々調理台に並べていく。

 材料を計量しバターの出来上がりを待つ。

 「お嬢様こんな感じですか?」

 「おぉ、凄い!」

 瓶の上澄みのバターを取り出し、スプーンで少量ずつ二人に差し出す。

 「食べてみて?」

 「これは随分とまったりしてますね」

 「バターは料理の隠し味に使ったり、パンに塗って食べても美味しいそうよ。料理に味のコクと深みが出るのだと本には書いてあったわ」

 料理長は興味津々で聞いている。

 「そして、この残った液体を火に掛けながら酸味の強い果汁を少量入れるとチーズという固形が出来るの。今日は皆が立食できるように、パンに色々な具材を挟んだサンドウィッチという料理にケーキ、マフィン、クッキーを作るわ。お昼に間に合う様に、かなりのハイスピードでやるわよ」

 「今からパンを作るのですか?」

 「そうよ。今日のは今までのパンとは違うフワフワでモチモチのパンを作るわ。お客様が20人程の予定だから、時間を考えて魔術を少し使うわ」

 「魔術を?」

 「パンの発酵とその他の菓子の焼き時間の短縮に使うわ」

 そう言った途端驚いた表情の二人。

 「時間魔術ですか!?」

 「お嬢様、いつの間に!?」

 「そんなに驚く事?簡単よ?全ての時間じゃなくて手元のモノだけですもの」

 「いやいや、余計に高度ですからね!?どんな術式でやってるんですか!?」

 「術式?そんなの無いわよ。手元のモノに集中して早送り!て考えてると出来上がりよ」

 「…マジですか」

 ユーリの驚愕という表情は見ていて面白い。

 「という事でやるわよ!」

 さっそくバターをボールに計量済みの材料に入れ混ぜていく。一纏めになったら、調理台に打粉をして叩き付ける様に捏ねていく。

 が、幼児にキツかった…三分も持たずに息が上がる。

 「代ります。お嬢様は他のを」

 「ありがとうユーリ。料理長、型はどんなのがあるかしら?」

 「この厨房にあるのはここに全てあります」

 少し離れた棚の引出には色々な形の型が入っていた。そこから30センチの深型長方形の食パンに使えそうな型をだす。次いでに小さめの15穴マフィン型、円形のケーキ型が無かったので40センチ位の正方形型も出しておく。パン用は5個、マフィン用も6個、ケーキ用は2個。

 「料理長先ほどの私の動きで同じ分量の生地を4つ作って下さい。計量はきっちりとしないとフワフワにはなりません。出来ますか?」

 「勿論です。お任せ下さい。ですが少し人手を呼んでもかまいませんか?成功すれば毎日のパン作りに活かしたく思うのですが」

 確かに今日成功すればサイラス家でのパン事情は激変するだろう。

 「分りました許可します。あと一人、私の補佐をして頂きたいのですが…」

 「では副料理長のハルノを付けましょう。今呼んできますので少々お待ち下さい」

 じゃあスポンジとマフィン同時進行で生地を作って行こう。

 ケーキはショートケーキを目標に、マフィンはナッツとチョコ、ピノはジャムにして、ルルもジャムにしよう。ルルというのは中も外も真っ赤な見た目リンゴで味がマンゴーという果物だ。

 チョコも存在はするが基本薬の材料にしか使われてなかったのを薬学辞典で見つけて、悲しかったのだ。

 しかもカカオをそのまま何も加えず苦いまま湯に溶いて飲むという荒療治。初めて風邪をひいた時は、真っ黒のダークマターを飲まされ死ぬと思ったが。後からチョコというのですと聞き、どうして一手間加えないのだと涙が出た。

 この苦い思い出を今日こそ革命という名の思い出にするのだ!

 マフィンの生地を大量生産していると四人ほどのコックコートの集団が現れる。

 「お待たせしました。さ、お嬢様に自己紹介をしろ」

 何だか全体的に若いな。一人は女の人がいるみたいだが。

 「初めまして、副料理長を務めておりますハルノ・カヴァーリと申します」

 赤茶の髪に同じ色の瞳、口元の黒子がセクシーなイケメンさん。

 「パン担当のルイ・ワーディスです」

 黒髪短髪に赤みの強い瞳、何だか不良高校にいそうな硬派系イケメンさんね。

 「菓子担当のカルデ・オーランドです」

 長めの黒髪をポニーテールにし、グリーンの瞳の美人さん。

 「あら?オーランドというと…」

 「はい、私の弟になります。今日はお嬢様が新しい菓子を作ると聞き、是非手伝いたいと」

 弟!?

 てっきり妹かと思ってたわ。

 オーランド家は美人家系なのねぇ。

 それにしても皆大きい上にイケメンさんばかりね。女の私が一番平凡って本当に悲しいわ…。

 「皆さん、よろしくお願いします」

 一応ちょこっと頭を下げると周りが慌てだす。一応お嬢様だからね、本当は使用人に頭は下げないものなんだよね。

 「ではハルノとカルデはお嬢様の補佐を」

 「「はい」」

 それぞれが動きだすのを見ながら二人に向き直る。

 「今からマフィンという菓子を作るわ。トッピングにナッツとチョコ、ピノとルルをジャムにして加えるわ。ハルノさんはピノを3ミリ位の薄切りとルルを1センチ角に切って、それぞれを二つの鍋一杯にして欲しいの…。本当は私がやれればいいのだけど母様と包丁と危ない事はユーリに手伝って貰うって約束したから。頼んでもいいですか?」

 踏み台の上からでも、大分見上げなければならないハルノさんに言う。

 「か、かわ…」

 口元を手で覆いプルプルしてる?

 「大丈夫?具合でも…」

 「大丈夫です!副料理長のはいつもの事なので。お嬢様の頼みごとは、きっちり完遂するはずです」

 私とハルノさんの間に入り、すかさず返事を返すのカルデさん。

 「そう?じゃあお願いしますね。カルデさんには一緒にチョコを作って貰います」

 「…チョコとは薬のですか?」

 「そうだよ。普段は何も手を加えてないけど、あれに生クリームと砂糖を加えると菓子になるんだって」

 チョコを適当に砕いてボールに入れておき、別ボールにバターと牛乳を入れてホイッパーで混ぜると即席生クリームが出来る。でチョコは湯煎で温めながら溶かし全部が滑らかになったら湯煎から外して、砂糖と生クリームを加え混ぜる。

 「はい、食べてみて?」

 「これは凄い!初めての味です!」

 「美味しいでしょ~。今日はマフィンに混ぜちゃうから、ちょっと硬めだけど緩くしてムースとかも美味しいよ。固めて多少は保存も出来るから作り方は覚えておくといいよ」

 テンパリングまでは私もやった事ないから教えられないけどね。

 「マフィンは今回、砂糖じゃなくて蜂蜜を使うよ。砂糖より焼いた時にしっとり出来るみたい」

 マフィン生地にチョコを入れ混ぜマーブルにし型に詰める。一種類につき40個を目標に!

 「こんな感じで全部混ぜないで焼くと綺麗にマーブル模様になるんだよ」

 「なるほど。焼き時間は?」

 「170℃で25分位かな。今回は昼までだから型に全て入れたら、オーブンフル稼働で促進魔術で一気に焼いちゃうよ。ちょっとズルしちゃう。だからチョコとナッツ型3つずつ全部に詰めて」

 「促進魔術ですか!?」

 「それさっきも驚かれたから。今回だけだよ。じゃあお願い」

 カルデさんは、菓子担当だけあって手際がよさそうだ。

 ハルノさんもそろそろ終わりそうだ。今度はジャム作りね。

 「こんな感じでよろしいでしょうか?」

 「バッチリ!じゃあコレに砂糖を入れて煮てくよ。ルルの方にだけピノの果汁を少しだけいれるよ。赤が鮮やかになって色止め効果もあるはず。果実の水分がどんどん出て煮詰まってくるから半分の量になったら教えて。火加減は砂糖が溶けたら中火でずっとね。混ぜないと焦げちゃうから」

 「わかりました」

 皆さすがな動き。

 やっぱり実力はあるけど、それを開発加工するっていうセンスが無かったんだろうな。

 というよりも、『飯マズ』に疑問を持ってなかったんだろう多分。

 料理長のパンチームも凄い勢いでバシバシ、ビッタンビッタンやってるし。

 よし、じゃあスポンジ作りに取り掛かるか!

 幼児の腕力でどこまでいけるか、メレンゲ死ぬ気でやらねば。

 ボールに卵白だけを、どんどん入れていきホイッパーで最初は軽く混ぜ徐々に高速で混ぜていく。少しもったりしてきたら砂糖を加えさらに混ぜる。

 ――――やばい、腕攣りそうッ。

 楽しくて思わず笑いが込み上げてくる。

 生まれて、この方こんなに楽しいのは初めてかもしれない。

 「ふぅ、ちょっと休憩…」

 重いし腕もだるい、でも後少しかな。

 両腕をブラブラさせながら、結構いい具合のメレンゲに嬉しくなる。

 「よし」

 カッカッカッ。

 リズミカルなホイッパーの音に鼻歌が出る。

 この時、私は気付いてなかった皆がご機嫌で鼻歌を歌いながら菓子を作る幼児を温かい目で見ていたことに。気付いていたら、暗黒歴史の1ページに刻まれていた事だろう。

 

 

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