二十九話 断たれた退路
村の入り口に駆けつけたシンシアは、三人にレオとのやり取りを説明。
二人が来るまで、村の入り口を死守する運びとなった。
「誰か!! た、助けてくれぇ!」
警戒していると、入口すぐの路地で助けを求める男の声がした。
「私が行くわ!」
シンシアが我先に飛び出し駆けつけると目を見開き、動きを止める。
目の前にはエルフの少女を奴隷として使っていたあの太った男が
壁を背にして数体のネオパンサー数匹と対峙している。
じりじりと距離を詰められ、喰い殺される寸前。
一瞬でも男が気を抜けば、飛び掛かり喉元を食い破られそうな緊迫した状況。
シンシアは躊躇う。
ここで見なかった事にすれば、自らが手を下さなくても男は自らの報いを受けるだろう。
男は完全に追い詰められ、もう自力で助かる可能性はゼロに等しい。
迷う間に、男は恐怖のあまり顔を歪ませ、涙を流すという隙を見せた。
その隙を見逃さず、ネオパンサーは一斉に飛び掛かる。
絶対絶命の瞬間、男は大量の血に塗れた。
男の足元には、綺麗に頭が貫かれた複数の獣の残骸が転がる。
「ひぃっ……!」
男が周囲を見渡すも、その危機を救った存在の姿は何処にもなかった。
シンシアが入り口に戻ると、既にレオとキーフが無事に合流していた。
多少の怪我をしていたみたいで、朔桜の雷電池で治癒されてる。
「朔桜さん、あざっす」
「すまない」
二人は感謝し、完治した身体の調子を確かめる。
「よし、まだまだいける!」
「大元をブッ潰すんだろ? その野郎はどこにいるんだ?」
「広がってきた方向から予測すると……湖の方ね」
「湖?」
「聞いた話だと、バルスピーチには足が無く、水面を触手で移動するらしいの」
「どんぶらこっこだね、朔ちゃん」
「確かに! そうだね!」
「ドンブラコッコって何かしら?」
「いえ、人間界の昔話の話なので気にしないでくださ~い」
レオたち三人顔を見合わせ首を傾げている。
「とりあえず、村人を外に出して入り口の門を閉めた後、全員で湖に向かいましょう」
「でも、村に取り残された人は外に逃げれません。。。」
「開けっ放しだと私たちが留守のうちに
せっかく朔桜たちが助けた人が襲われる可能性があるわ」
「確かに。。。」
「それにこの量のネオパンサーが外に出たら周辺の村も間違いなく壊滅する。
幸か不幸か、この村は湖と崖に挟まれている構造だから入り口以外から外に出る事は難しい。
食い止めておくにはこれしか方法はないの。
バルスピーチを倒した後で村に閉じ込めた
ネオパンサーを一掃すれば被害は最低限で済むわ」
「考えてる時間が勿体ない! とっとと倒して、とっとと救いましょ!」
レオが一人で盛り上がり、先陣を切って走り出す。
しかし誰も付いていかない。
「なんで誰も付いて来ないんだよ!? いい感じにいい事言っただろぉ!?」
「だって、門まだ閉めてないし。。。話聞いてた。。。?」
「うぐぐ…………」
無事、村の大きく分厚い木製の扉を閉じる。
これでネオパンサーが容易に外に出るという事は無いだろう。
「外の安全と同時に私たちの退路も断たれたわ。
みんな、気を引き締めて行きましょう!」
朔桜、ノア、シンシア、レオ、キーフ、キリエの六人は
同時に返事を返し背水の陣で湖へと向かうのだった。




