二十七話 異常な数
日の落ちた夜の村に火の粉が舞う。
家屋は焼け落ち、残ったのは高温の炭だけ。
二割の人々は無惨に喰い荒らされ、ネオパンサーに吸収された。
辺りにはエナの無い肉片が散らばっている。
原型を留めて倒れている者の中には、瀕死ながらもまだ僅かに息がある者もいた。
早急に手当すれば、まだ助かる可能性はある。
朔桜はペンタントを首から外し、手にしっかりと握り締めた。
入り口付近で倒れていた人々を
ペンダントに宿った宝具【雷電池】に
溜めたエナを、倒れた人に当て分け与えていく。
すると、傷はみるみると癒え、欠落した箇所はエナの力で補填されていく。
「ノアちゃんは倒れている人をこの入り口まで運んできて!
シンシアさん、レオくん、キーフくんはネオパンサーを倒して!
キリエちゃんはここで助けた村人を守って!」
朔桜は適格に指示を出し、全員はそれに従い行動する。
「は~い」
「分かりました。。。」
「俺は加足で先に行って、奥の方から仕留める!」
「お兄ちゃん、それ以上は。。。」
「大丈夫だ。まだ耐えられる」
「俺は下から狩って行くぜ!」
「じゃあ、私は中層ね。みんな武運を」
キーフは上層。レオは下層。シンシア中層。
三人は村人を助けるべく、ネオパンサーを討伐しに向かった。
それから数十分。三人は煤煙にまみれながら戦っていた。
火の手の回らない石造りの家の屋根からシンシアは弓を射る。
「聖槍!!」
放たれた星々の一閃は、屋根の上から確実に数匹ずつ仕留めていった。
「ふぅ……」
「シンシアさん!」
家の下から今の一閃を見たレオが声をかけた。
瓦礫を利用し、屋根上に軽やかに登る。
「レオ。無事で良かったわ」
「かなり引っ搔かれましたけどね。シンシアさんも無事でなによりっす!
それにしてもなんか……数異常じゃないっすか?
五十匹くらいは倒したはずなんすけど、減る気配がまるで無いんですよね」
レオは周囲を軽く見渡し、ネオパンサーの数を数える。
視界に入る限りでも、まだ五十匹は確実にいた。
「私は百七十六匹倒したわ」
「百七十六匹っ!?」
数を聞いたレオは、目を大きく見開いて大口を開けて驚く。
「おかしいわよね。道で囲まれたのは、四十ちょっとだったのに
今はその数を遥かに凌駕してるわ。恐らく、この村だけで五~六百近くはいるわよ」
「五~六百!? そんな数どっから湧いて出たんすか!? 勝てる訳ないじゃないっすか!!」
普通に相手にして勝てる量では無い。
五匹程度ならまだしも、十匹以上に囲まれれば嬲り殺しされるだろう。
「ホノポ村を出てから、何かがおかしかったのよ。
大量のオーガの襲撃に、一列に並んだオーガの壁。
それに、ネオパンサーの集団……並んだオーガとはあなた達も戦ったでしょ?」
「ええ、オーガが立ってるだけで、なんか変な違和感がありました。
それに、一体倒しても持ち場を守るみたいに他のオーガは全然動きませんでしたし」
「まさか……」
シンシアの頭に一つの可能性が浮上する。
「何か心当たりがあるんですか!?」
「オーガを使って村の周囲を囲い、精霊人を逃げられないようにする……。
そして、大量のネオパンサーで狩る……。
最初から狙われていたのよ。このシネト村は!」
「そんな、ありえないっすよ!
こんな量のオーガやネオパンサーに指示するなんて!」
「それができるのよ……。“精霊女王の忘れ形見” “喰者”の一体。
複製結合バルスピーチならね」
「バルス……ピーチ……。
そんな……や、奴がいる確証はあるんですか!?」
レオも勇者を志す身。
その名はもちろん知っていた。
“精霊女王の忘れ形見”の中でも特に強い個体だ。
「この異常なネオパンサーの量を見れば分かるでしょ。
奴は必ずこの村にいる。断言出来るわ」
「そんな……」
「ネオパンサーの複製体を倒し続けても無意味よ。
こちらが消耗するだけでキリが無い。
一度、全員集まって本体を叩きに行きましょう」
「分かりました! 俺はキーフを連れてきますっ!
シンシアさんは三人の所へ。村の入り口で落ち合いましょう!」
シンシアは気を付けてと言い残し、再び分かれて行動するのだった。




