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3-8

 グレイスはノインに温かいお茶を出して、言葉を切りだした。


「〝聖竜使い〟を探してるの? 君」


「……どうして……それ……」


「うん。様子がおかしかったし、そんな気がしたから」


 そう言って、ノインの向かいに座る。

 その隣にはレーヴェとヴェルエがグレイスを挟むようにして座っている。


「先に謝るね、ごめんね。怖かったでしょう?」


 多分、二人の事だ。


「……でも、僕が、その……」


「ううん。君は何も悪い事してないでしょ? 悪いのは怖がらせた僕達。ごめんね、ノインくん」


 そう言って、レーヴェが謝る。

 それを聞きながら、瞳でグレイスがヴェルエも謝るようにと見る。


「……驚かせて、悪かった」


「そ、その、いいん、です。……怖かった、けど、気にしてない、です」


 ノインの精一杯の言葉に、グレイスは向き直って、言った。


「君が探してる〝聖竜使い〟は、私だよ。レーヴェとヴェルエが君が探してる〝聖竜〟」


「……え?」


「今は人の姿だけどね。……竜の姿だともっと驚くし、普段は人の姿なんだよ」


 グレイスはそう説明をすると、ノインは少しずつ理解していく。

 ノインが探している〝聖竜使い〟は、目の前にいるグレイスなのだと。


「あ、あの!」


 ノインは、早くしなければ、と焦るようにグレイスに切りだした。


「僕を……僕達を、助けてください!」


「……助ける? そもそも、君はどこから来たの? ルーネスタ王国の子じゃないよね?」


「違います。……僕、その、……マーレから、来たんです」


「マーレって……。ここから少し遠いよ? どうやって?」


「あ、あの、……僕の、魔法で」


「……あぁ。そういや、マーレって〝魔法使い〟の家系、少しいるんだったよな? 昔、マスターがそんな事言ってた気がする」


 ヴェルエが思い出したように言う。


「……僕、その、〝転移魔法〟が使えるんです。その、魔法使えるの、僕だけで……」


 たどたどしい言葉を、グレイスは黙って聞く。

 無理に急かせてノインがグレイスに助けを求めた理由を聞く事をしないようにしたのだ。

 ノインの警戒心が解けていないのが、見て取れたからだ。

 そんなグレイスの心遣いに気付いているレーヴェとヴェルエは、同じようにノインの話を黙って聞く。


「……ここに来たのは、〝魔女〟が来て、マーレを乗っ取って……」


「……〝魔女〟?」


 グレイスはその単語に顔をしかめた。


「はい。どうして、マーレなのかわからないんですけど……。それで、マーレの子供たちだけが、その人に囚われていて……」


「じゃあ、君もそのうちの一人?」


「はい。……それで、僕しか〝転移魔法〟を使えないから、もし助けてもらえるなら、って思って……。僕、あんまり魔法使ったことなくて、自信が無かったから、ここに来れたのも奇跡みたいで」


 グレイスは頭の中で整理する。

 ノインは〝魔女〟に囚われている子供の一人。

 そして、〝聖竜使い〟のグレイスに助けを求めて来た。


「ねぇ、一ついいかな?」


 ふと、レーヴェがノインに問いかけた。


「大人はどうしたの? どうして子供たちだけが囚われてるの?」


「……僕達が囚われてる理由は、あんまりわからないんですけど……。大人、の人は」


 生々しくノインの脳裏を駆け巡る記憶。

 炎に包まれた家、両親の死。

 目を伏せて、手でズボンをぎゅっと握って、ノインは言った。


「大人の人は、皆、〝魔女〟に殺されたんです」


 その言葉は、三人に言葉を失わせた。

 なぜ、子供に限っているのか、理由はわからない。

 しかし、彼らの両親は、大人たちは、魔女に殺された。

 考えるだけで背筋が凍る。


「……僕、〝聖竜使い〟の話を思い出して、こっそり抜け出して来たんです」


「その、君以外にもいるよね、囚われている子。確かに君しか助けを求めに来れなかったのはわかるよ。だけど、君がいないのを〝魔女〟が知ったら、どうなるの?」


 グレイスは少し躊躇しながらも、その問いかけをした。

 ノインは不安と恐怖に満ちた表情で、言った。


「わからない、けど……。皆、殺されちゃうかも、しれない」


 そんな返答が返ってくるのは容易に想像出来た。

 聞く事によって、ノインが辛くなるのも分かっていた。

 けれど、聞かなければいけなかった。

〝魔女〟が何を考えているのかわからない。

 子供だけを捕えて、どうしようというのか。

 逆に、どうしてマーレの大人たちだけを殺し、子供たちだけは殺さなかったのだろうか。

 何の理由で? 何の目的で?

 グレイスは深く考え始める。

 しかし、早くノインを帰さないと、他の子供たちの身が危険にさらされるのかもしれない。

 未だ理由のわからない助けを求められ、どうするか考えた末。


「……その、君が言う〝魔女〟が何を考えているのかわからないけど。出来る限りの事はするよ。〝聖竜使い〟の家系は、救いを求める人には応じる。代々の言い伝えだから」


 グレイスがそう言うと、ほっとしたような表情をして、ノインは言った。


「ありがとうございます!」


「いいよね? 二人とも」


 グレイスはレーヴェとヴェルエに問いかける。

 今の主はグレイスだ。

 断る義理など、さらさらなかった。


「グレイスが決めたのなら、何も止める事はないよ」


「あぁ。今のマスターはグレイスだからな。その〝魔女〟が何を企んでるんだか知らねぇけど、グレイスがその願いを断らないなら、断る義理はないからな」


「ありがとう、二人とも」


 そう言って、グレイスはノインに向き直る。


「君は早く、帰った方がいい。他の子供たちの事、きっと心配だと思うから」


「はい。……あの」


「うん?」


 椅子から立ち上がってノインが帰る前に、グレイスに言った。


「その〝魔女〟、不思議なんです。……ご飯用意してくれたり、お風呂に入れてくれたり……。だけど、きっと悪い人だと思うんです。皆、そう思ってる」


「……今もまだ、マーレにいるね?」


「はい」


「そのうち、行くよ。私もその〝魔女〟に引っかかりを覚えてるから」


 そう言って、グレイスはノインを見送る。

 ノインはもう一度〝転移魔法〟でその場から消えた。

 ノインが消えてから、グレイスは夕食の準備を始める。

 心の中のもやもやを、かき消せないまま。


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