プロローグ
入り江の奥に位置する、この村には鬼たちが度々、訪れては作物や宝を盗むなど、悪さを働いていた。鬼は力が強く、村の男が十数人がかりでやっと太刀打ちできるほどであった。鬼には力づくではかなわない。防壁を作ったり、罠を仕掛けたり、刀や弓矢などの武器をそろえたりと、事前に知恵を絞って対抗したが、やれることは限られていた。鬼の襲来は天災と思って諦めていた。
状況が変わったのは、桃太郎という名の青年が現れてからである。この青年の出生については奇妙な噂がある。老夫婦が川から流れてきた、1尺ほどもある大きな桃を拾い上げて、斧で割ってみると、赤ん坊が産声を上げたという。老夫婦は「桃太郎」と名付けて、赤ん坊を育てた。老夫婦が亡くなった今となっては真意のほどがわからない。古来より桃の果実には魔よけの作用があると伝わる。事実、彼はその化身とも言える活躍を見せた。
桃太郎は体格こそ並みの男たちより、少し小さいぐらいであったが、尋常でない強さを誇った。鬼に対抗できるのでは、と村の皆が思った。何より、彼自身、正義感が強く、村人を苦しめる鬼を退治することを決意する。
鬼たちの住む島へ出向いて、鬼たちを降伏させ、二度と村に悪さをしないように約束させて、おまけに財宝を取り返して、戻ってきたという。それ以降、鬼たちが村を襲撃することはなくなった。これまた、真意のほどはわからないが、村の名物である黍団子を与えながら、犬、猿、雉といった動物たちを次々に仲間に加えた。それらも鬼との戦いで一躍買ったという。
鬼退治から5年の後、桃太郎は村の娘と結婚して二人の子をもうけた。長女を桃子、1つ年下の長男を桃吉郎と名付けて大切に育てた。桃太郎は、村の代表として公事のため都へ赴いた時期もあったが、大半は、村で役人を務めながら、畑を耕して過ごした。村には争いもなく平和であった。鬼退治から約30年の後、桃太郎が急病でこの世を去るまでは。




