餅つき
年末年始、俺は両親と兄貴たち家族と一緒に過ごしていた。
俺はいつも通り屋敷で過ごす予定だったのだが、従者たちにも年末年始の休暇を与えると思って家族と過ごしたらどうですかとセバスに言われ、俺は両親の家に来たというわけである。
確かに年末年始まで仕事はしたくないという気持ちはよくわかる。決して邪魔者扱いされたわけではないと信じたい。
兄貴たちが泊まるのは三が日までだが、碧は冬休みの2週間程は両親の家に泊まるらしい。
両親も久しぶりに会えた孫にはデレデレで、嬉しそうにお年玉を渡していた。もちろん俺もだが。
冬休みは夏に比べて宿題も少なく、自由研究もない。この2週間はジルやマリーに稽古を付けてもらいつつ子供たちと体育館で遊んだりするみたいだ。
兄貴たちが帰った翌日、俺は子供たちを連れて集会所で餅つきの準備をしていた。
集会所の机の上には出来上がった餅を付けて食べるきな粉や納豆など数種類の味が安藤さんによって用意されている。
するとどこからか噂を聞きつけたのかエルやアスに加えて五十嵐くんや橋本さん、源田さんまでやって来た。
「日本人なら餅つきはしたいですよね!」
「俺は何気に初めてでな、気になって来てみたんだ」
「餅をつくなら返し手が必要だと思ってわしも来たんだ」
さすが頼りになるおじいちゃん……伊達に年齢だけ年上なポンコツたちとは違うみたいだ。そのポンコツたちは杵と臼に興味津々みたいだが。
そうして子供たちが順に餅をつき始めたのだが、アルトやエレナで持つのがギリギリな杵をフィンとフィアは軽々と持って楽しそうに餅つきをしている。
そしてアルトは大変そうなエレナに手を貸して一緒に餅つきを始めた。
……くっ、羨ましい。
俺もか弱い女の子をかっこよく助けて、優しくてかっこいいねなんて言われてみたい。
実際に出来ることといえば固いビンの蓋を開けてあげることぐらいだが。
「ところでこの白いモンスターはなんというモンスターなのだ?」
……もしかしてお前たち、モンスター退治か何かだと思ったから装備をしてきたのか?
仮にモンスターだとしたら呑気に子供たちに餅つきさせるわけないじゃないか。
「食べ物だよ」
「だがこの持っているのはハンマーだろう?」
「私もてっきり子供たちにか弱いモンスターの討伐経験を積ませているのかと思っていたのですがモンスターの気配はしないので自分の魔力感知がおかしくなってしまったのかと思って少し焦りました」
大賢者が魔力感知出来なくなることなんてあるのか疑問ではあるが、俺の代わりに安藤さんが餅はもち米という米から出来ていることを親切丁寧にわかりやすく説明してくれていた。
ありがとう安藤さん……俺は新年早々ツッコまないといけないかと思って泣きそうになったよ。
でもよく話を聞いてみれば剣もまだ使えない貴族の子供とかが護衛を連れてハンマーでスライムを叩いてレベルアップをすることが異世界ではよくあったらしい。
異世界怖い。
そんな話を聞いているとどうやら餅が完成したらしく、俺たちは食べやすく丸めていった。
「最初はやっぱり砂糖醤油でいこうかな」
俺はこの甘い感じが好きで、きな粉はちょっと苦手なんだよな。
「やっぱりつきたての餅は美味いな」
「これこれ、やっぱり正月は餅が食べたくなる」
日本人の彼らはどこか懐かしむ感じで食べているが異世界人はみんな不思議そうに食べている。
「美味いが飲み込むのが大変だ」
「「甘いのおいしー!」」
だが、慣れてくると意外と味も悪くないのかみんなおかわりをし始めた。
「これは……喉に詰まりそうですね。爺は気を付けてくださいね」
「お前さんより若いのに爺呼ばわりしおって!」
「子供たちには源爺って呼んでくれと言っていたではありませんか」
「それは子供たちからしたらわしは爺だからな」
「それじゃあ源くんと呼びますね」
「今まで通り源さんでいいではないか」
「私からしたら貴方は子供みたいなものですからね源くん」
「もう爺でよい…」
さすがに見た目は若いとはいえ1000歳超えのハイエルフに源くん呼びされるのはきつい。
源田さん……いや、源さんは仕方なく諦めたのか餅を食べ始めた。
だが安心してほしい。領主の俺は赤子や雛扱いをされているということを。
…それに比べたら爺の方がまだマシに見えるだろう?




