聖竜
──ピギッパリパリッ
きっとそろそろ産まれるタイミングだったのだろう。落としてしまったのは申し訳ないが、終わり良ければ全て良しだ。
問題は何が産まれてくるかだが……
『……きゅう』
「これは、どこからどうみてもドラゴンだよな?」
「小さくて可愛い!」
まさかドラゴンだとは思わなかったが、愛猫ならぬ愛竜。とても可愛い。
『ぱぱ?』
「っ……お前喋れるのか」
『ごはん…』
産まれて初めて見た人間を親だと思うのだろうか?それなら俺がパパで間違いはないんだが、それよりも喋れるとは。
竜は知能が高い生き物だとはよく言われているが、神獣だからなのかよくわからないな。
「こいつは一体何を食べるんだか」
とりあえず俺はこいつを連れて安藤さんのところへ向かった。
「安藤さーん!すみません、柔らかそうな生肉を小さく切ったやつとミルク貰えますか」
「ん?春樹くん……それはドラゴンかい?」
「はい。さっき産まれたんですけど、飯くれって言われちゃって」
「ははっ、喋るのか。そりゃまたすごいドラゴンだ。わかった用意するから少し待っていてくれ」
そして用意してくれた肉とミルクを厨房の隅でドラゴンに与えてみる。
『もきゅもきゅ』
俺、今日から猫じゃなくてドラゴン派になるわ。これが俺の求めていた癒しだったのかも。
『ゲプッ』
食べ終わったらトテトテと俺に近寄ってきてしゃがんでいる俺の脚にスリスリしてきた。
「ぐっ…可愛すぎる」
俺は抱き抱え、安藤さんにお礼を言ってから執務室に向かった。
普段執務室で何かすることはないんだが、大事な話や考え事をする時には落ち着く場所だ。
俺は名ばかりの領主で書類仕事なんかほぼないからな。
「名前をつけてあげないとな」
『きゅう?』
首を傾げて見上げてくるなんてあざとい!
これが可愛いメイドだったら俺は一撃必殺アウトだったね。
やっぱりこのユグドラシルで産まれたからあやかりたいよな……ちなみに俺はネーミングセンスがない。小さい頃祖父母が飼っていた犬に黒いからクロと俺が名付けたし、実家の近所にいた野良猫にはタマと名付けた。それぐらいネーミングセンスが壊滅的である。
「ユグドラシオン。お前の名前は今日からユグドラシオンだ」
そのまんまじゃないか!というクレームは受け付けない。これでも30分は考えたんだ。
愛称はそうだな……ラシオンにしよう。
鑑定眼鏡できちんと見てみると種族は“聖竜”だった。ドラゴンと竜の違いとか正直よくわかっていないが、響きがかっこいいからこれはから聖竜ということにしておく。
『すぴーすぴー』
食べたらすぐに寝る、やっぱり赤ちゃんなんだな。
これはもしかして将来結婚して子供が出来た時の予行練習なのか?
いや、ラシオンの子育てに満足して一生独身の未来も一瞬見えてしまった。危ない、考えるのはやめよう。
「たくさん寝てすくすくと育つんだぞ、ラシオン。」
……育つのが早すぎやしないか?
あれから1週間程たち日に日に成長していくな〜とは思っていたが、最初の子犬ぐらいの大きさから比べるとすでに倍近い大きさがある。通りで最近寝てる時重たく感じるわけだ。
『うみゃいうみゃい』
今もジルとヴァルグが狩ってきたモンスターの内蔵を貰って食べているんだが、聖竜は割と雑食でなんでも食べるらしい。
エリオットのアイテムバックが完成して、ヴァルグからアイテムリングを返されたおかげでいつでもラシオンのご飯が俺のリングに入っているのだが、お腹が空くとごはんと言いながらこのリングに頬擦りするようになった。
ここから自分のご飯が出てくるとわかっているのだろう、そのおねだりが可愛くてついついたくさんあげてしまう親バカは俺だ。
「そのうちラシオンに乗って空を飛べるかもな…」
『……ぼくに、のる?』
さすがにまだ小さくて怖いからやめておくが、楽しみにしておこう。
竜より先に馬に乗る練習でもしておいた方がいいような気もするが。




