↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
雑多  作者: わすれもの
PR
6/6

ただしいおうさま

童話です。

モーリス・メーテルリンクの戯曲、「あおいとり」に近いものを目指しました。

続きません。

むかしむかし、外の世界の生き物を「欲望に塗れた存在」と嫌った妖精たちは、純粋な心を持つ者だけが暮らせる妖精の国を作った。

国を築いたのは、優秀な妖精ネイローン。彼は文明を大きく発展させたが、若くして不治の病に倒れ、亡くなった。妖精たちは彼を讃え、やがてネイローンを神として崇めるようになった。

やがて妖精たちは、不老不死を実現すれば、優秀な指導者を失わずに済むと考えるようになる。

その実験の被験体に選ばれたのは、ネイローンに仕えていた十二歳の巫女、セルノームだった。

莫大な電力、生贄、投薬…凄惨な実験の果てに、セルノームは不老不死の身体となった。

しかし、彼女が目を覚ましたとき、妖精は一人も残っていなかった。

実験によってセルノーム以外の妖精はすべて生贄となり、彼女には禍々しい山羊の角が生えていた。

セルノームは、自分以外の妖精を探すため、果てしない時間を旅した。

やがて妖精の国を抜け、魔界へ辿り着いた彼女は、心優しい魔物たちに助けられ、魔王インフェーリアのもとへ引き取られる。

インフェーリアは、セルノームが妖精であることを見抜いた。

そして彼女にこう教えた。

正しさは、人それぞれ違う。

だから互いに尊重しなければならない。

しかし、だからといって好き勝手をしていいわけではない。

争いがないだけでは平和とはいえない。人々の暮らし、安全、健康が保障されてこそ平和なのだ。

インフェーリアは、人々の願いを聞き、それが他者に大きな支障を与えない限り叶えていく「人々の願いの器」だった。

しかし彼女にも、不治の病という避けられない死が迫っていた。

インフェーリアは、自分の死後も国が続くように、セルノームへ次代の魔王を託す。

こうしてセルノームは魔王となった。

妖精の血を引きながら、魔族のような角を持つ、不老不死の魔王。

しかしセルノームには一つの疑問があった。

妖精の国を滅ぼしたものは、一体何だったのか。

技術発展の鍵を求めるという名目で、セルノームはかつての妖精の国へ戻る。

しかしそこにいた生き物たちは、セルノームを拒絶した。

白く美しい黄金のうさぎは、セルノームが近づくと歪んだ怪物へ変貌して襲いかかる。

かつて苦楽を共にした生き物たちまでもが、彼女を敵として扱う。

そして研究施設の最深部でセルノームが見たものは――

過去の自分だった。

拘束を解き、意識を失ったまま妖精たちを襲い続ける、少女の姿をした怪物。

セルノームは、自分こそが妖精の国を滅ぼした元凶だったことを知る。

実験によって生み出された怪物として、彼女は妖精たちを食い尽くしたのだった。

魔界へ戻ったセルノームは、自分が奪った命に対して何ができるのかを考える。

そして、自分がいつ暴走するかわからない存在ならば、王など務まらないのではないかと苦悩する。

そんなある日、妖精の国の生き物を魔界へ持ち込んだ者がいると密告される。

セルノームの前に差し出されたのは、一匹の金色のうさぎ。

セルノームはそれを見ると、理性を失ったかのようにうさぎを殺し、そのまま食べてしまう。

我に返った彼女の口元は血に濡れていた。

セルノームはさらに自分を責め、政治にも手をつけなくなった。

やがて国民の不満は膨れ上がり、反乱が起きる。

城へ押し寄せる群衆の中から、一人の声が響く。

「インフェーリア様を返せ!」

その言葉によってセルノームは気づく。

国民がついてきたのは自分自身ではない。

自分がインフェーリアの政治をなぞっていたからだ。

自分はインフェーリアの影として利用されていただけなのではないか。

そして、インフェーリア自身もまた、人々の願いを叶える「器」として都合よく利用されていたのではないか――。

セルノームは抵抗する気力を失い、捕らえられる。

しかし、不老不死であるため処刑することもできない。

そこで彼女は、人間の国へ放り出される。

人間は、どの種族よりも寿命が短い。

争いも怒号も絶えない。

それでも、その断片には確かな平和がある。

人間は平和を望んでは争い、争ってはまた平和を望む。

セルノームは、その不毛にも見える繰り返しを長い間眺め続けた。

やがて彼女は、「人間の主」を名乗る人物と出会う。

その主は奇妙な政治を行っていた。

人それぞれの正義は違う。

しかし、その中には共通する部分もある。

だから自分は、個々人の正義ではなく、社会全体に存在する共通部分――集合正義を政治の方針とするのだという。

セルノームは問う。

「主導者が間違えば、大衆も間違うのではないか」

人間の主は答える。

主導者がいなくても大衆だけで社会は動く。

少数派の声が掻き消され、古い習わしが「正義」として根付くこともある。

主導者が間違っていても止められないこともある。

恐怖によって、自分の正義を人々へ押し付けることもできる。

だからこそ、自分は「主」であり「代表」であっても、自分自身の正義を持たないつもりだと。

セルノームには、ますます「正しさ」が分からなくなっていく。

正しいことは悪なのか。

人の願いを叶え続けることは正しいのか。

王や主導者という存在は、本当に必要なのか。

答えを見つけられないまま、セルノームはまた彷徨い始める。

そして――

彼女は姿を消した。

妖精の国は廃墟のまま。

魔界は新たな主導者を掲げる。

人間たちは、また争いを始める。

世界はセルノームがいなくても続いていく。

その場所に残ったのは、わずかな足跡と、いくつもの問いだけ。

長い長い時を生きた不老不死の少女は、やがて誰からも忘れられていく。

それでも、彼女が残した問いだけは、誰かの心の中に残り続ける。

「ただしいおうさま」とは、一体誰なのだろう。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。