旅の剣士ユナ
「今度は、俺から行く」
春は地面を蹴った。
風花の加護が反応し、身体を緑色の光が包む。
──シュッ!!
一瞬で植物の魔物の懐へ潜り込む。
「うおおおっ!!」
フローラルブレードを横に振る。
しかし。
──ガギィン!!
「なっ!?」
硬い。
黒いツタが盾のように絡み合い、剣を防いだ。
植物の魔物は不気味な声を上げる。
「ギギギギ……」
次の瞬間。
大量のツタが春へ襲いかかった。
「春!!」
リリィが叫ぶ。
春は後ろへ飛ぶが、一本のツタが足に絡みつく。
「しまっ──」
そのまま宙へ持ち上げられた。
「うわぁっ!?」
子どもたちが悲鳴を上げる。
植物の魔物の巨大な花がゆっくり開く。
中には鋭い牙。
飲み込む気だ。
「ヤバい……!」
春は剣を振るうが、ツタが強すぎる。
動けない。
その時だった。
──ヒュン!!
銀色の光が森を走った。
「え?」
次の瞬間。
春を拘束していたツタが、一瞬で切断される。
「うわっ!」
春は地面に転がった。
その前へ、一人の少女が降り立つ。
白銀の髪。
青い瞳。
黒いマント。
そして手には、細い剣。
「……下がって」
静かな声だった。
「え……?」
少女は春を見ずに前へ出る。
植物の魔物が怒り狂ったようにツタを放つ。
だが。
少女はまるで風のように避けた。
速い。
春ですら目で追えない。
「はぁっ!」
銀色の剣閃。
──ズバァッ!!
巨大なツタが次々と切り裂かれる。
「す、すげぇ……」
リリィも目を丸くする。
少女は魔物の目の前へ跳び上がった。
「咲き狂う闇よ──散れ」
剣が青白く輝く。
「《蒼花一閃》」
──キィィィン!!
十字の光が走る。
次の瞬間。
巨大な植物の魔物が真っ二つになった。
「ギャアアアア!!」
断末魔。
黒い霧となって消えていく。
静寂。
白い花びらだけが、ひらひら舞っていた。
春は呆然と少女を見る。
「……助かった」
少女は剣を収める。
だが、その目は冷たかった。
「あなた、本当に勇者?」
「え?」
「弱すぎる」
グサッと刺さる言葉だった。
「なっ……」
春が言い返そうとすると、少女はため息をつく。
「その程度で魔王軍と戦う気?」
リリィがムッとする。
「春は昨日この世界に来たばっかりなんですよ!?」
「昨日?」
少女は初めて驚いた顔をした。
「……それで四天王と戦ったの?」
「まぁ……ちょっとだけ」
少女は春をじっと見る。
その青い瞳には、何かを確かめるような色があった。
「名前は?」
「春」
「……春」
少女は小さく呟く。
そして。
「私はユナ」
軽く名乗った。
「旅の剣士」
風が吹く。
白銀の髪が揺れる。
春は思った。
綺麗な人だ、と。
しかし次の瞬間。
森の奥から、不気味な笑い声が響いた。
「ククク……見つけたぞ」
空気が凍る。
リリィが震えた。
「この声……!」
木々の影から現れたのは、黒いローブの男だった。
顔の半分が仮面で隠されている。
その手には、黒い花。
男は春を見つめ、不気味に笑った。
「勇者・春」
その瞬間。
春の胸の紋章が熱く疼いた。
「お前を、魔王様の生贄にする」




