紅蓮のヴァルゼ 四天王
炎花の神殿へ向かう旅は、過酷だった。
白花の森を抜けた先に広がっていたのは、灼熱の大地。
赤い岩山。
燃えるような空。
地面の裂け目からは溶岩が見えている。
「暑っ……!」
春は額の汗を拭った。
制服の上に羽織ったマントも、熱気で揺れる。
リリィはふらふら飛んでいた。
「妖精には厳しい環境ですぅ……」
対してレオナは平然としている。
「この程度でバテるな」
「お前が元気すぎるんだよ!」
ユナも少し汗をかいていたが、冷静だった。
フェンリルだけは元気いっぱいで岩場を駆け回っている。
「ワフ!」
「お前、暑さ平気なのか……」
その時だった。
遠くから、爆発音が響く。
──ドォォォン!!
全員が顔を上げた。
山の向こうに黒煙が上がっている。
レオナの顔色が変わる。
「神殿の方向だ!」
春たちは走り出した。
岩場を越え。
崖を駆け上がり。
そして辿り着いた先で、春は言葉を失う。
「……なんだよ、これ」
炎花の神殿。
巨大な火山の上に建てられた、赤い神殿。
だが今、その半分が崩れていた。
騎士たちが倒れている。
辺りには黒い炎。
そして神殿の中央には──
巨大な男が立っていた。
二メートルを超える身体。
燃えるような赤髪。
全身を覆う黒紅の鎧。
その背には、炎でできた巨大な斧。
男が笑うたび、空気が揺れる。
「ハハハハ!!」
レオナが歯を食いしばった。
「《紅蓮のヴァルゼ》……!」
四天王。
春は息を呑む。
ガルドとは比べ物にならない威圧感だった。
ヴァルゼは倒れた騎士を踏みつけながら笑う。
「弱ぇなァ、人間ども」
「やめろ!!」
春が叫ぶ。
ヴァルゼの赤い目が、ゆっくりこちらを向いた。
そして。
ニヤリと笑う。
「……ほぉ」
熱風が吹き荒れる。
「勇者・春か」
その名前を呼ばれた瞬間。
空気が重くなる。
ヴァルゼは巨大な斧を肩に担いだ。
「待ってたぜ」
レオナが槍を構える。
「春、気をつけろ!」
ユナも剣を抜く。
「今までの敵とは違う」
ヴァルゼは笑った。
「そうだ」
次の瞬間。
──ゴォォォォ!!
黒い炎が爆発する。
地面が溶けた。
「っ!?」
春たちは慌てて飛び退く。
熱い。
ただ近くにいるだけで肌が焼けそうだった。
ヴァルゼは炎の中から歩いてくる。
まるで怪物。
「見せてみろよ」
炎の斧を構える。
「女神に選ばれた勇者の力をなァ!!」
──ドゴォォン!!
斧が振り下ろされた。
衝撃で神殿が揺れる。
春は風花で加速し、ギリギリ避けた。
だが。
「速っ!?」
ヴァルゼはもう目の前にいた。
「遅ぇ」
「!?」
拳が春の腹へ叩き込まれる。
──ドガァッ!!
「ガハッ!!」
春の身体が吹き飛ぶ。
壁を突き破り、神殿の柱へ激突した。
「春!!」
リリィが悲鳴を上げる。
痛みで息ができない。
強い。
今までの敵と次元が違う。
ヴァルゼは笑う。
「そんなモンか?」
レオナが飛び出した。
「炎槍撃!!」
巨大な炎の槍がヴァルゼへ突き刺さる。
──しかし。
ヴァルゼは片手で受け止めた。
「なっ……!?」
「火遊びか?」
握り潰す。
炎が霧散した。
ユナが背後から斬りかかる。
「蒼花連斬!」
青い剣閃。
だがヴァルゼの鎧には浅い傷しかつかない。
「効かねぇなァ!!」
炎の衝撃波。
ユナとレオナが吹き飛ばされた。
「きゃあっ!」
「ぐっ……!」
フェンリルが吠えながら飛びかかる。
「ガァァァ!!」
しかしヴァルゼは笑ったまま、片手でフェンリルを掴んだ。
「ワゥッ!?」
「神獣でもこの程度か」
そのまま地面へ叩きつける。
──ドォン!!
「フェンリル!!」
春の中で、何かが切れた。
仲間が傷つく。
守れない。
また、自分は──
その時。
胸の白花の紋章が強く光った。
女神フローラの声が響く。
──勇者よ。恐れを越えて。
春はゆっくり立ち上がる。
震える足。
痛む身体。
それでも。
剣を握る。
ヴァルゼが楽しそうに笑った。
「……その目だ」
春の瞳には、怒りの炎が宿っていた。
「絶対に……みんなを守る」
風が吹く。
白い光と緑の光が、剣へ集まり始める。
そして。
フローラルブレードに、新たな文字が浮かび上がった。
《第三解放条件 接近》
ヴァルゼが初めて真顔になる。
「……何?」




