4ヶ月後: 中央管理棟にて
はやとの通う学校はVの形に中等部と高等部が連結しており、その連結部分に食堂や図書室がある。そして、中央管理棟への連絡通路がある。
校舎に駆け込み、連絡通路を通る。管理棟の扉の鍵が開いていたのでそのまま入ると、扉の内側にいた誰かから肩を掴まれ、地面に組み伏せられた。
胸への痛みと共に、一瞬、息が止まった。
「…はやと!?」
上ずった声は覚のものだった。
体重をかけていたはやとの背から飛び退き、「悪い」と言いながらはやとに手を貸して立ち上がらせた。
小さく咳をしながらはやとは立ち上がる。
思い切り捻り上げられた右腕と肩、そして背中が痛む。
「なんでいるんだ?さっきまで校門の辺りでカワイソウナオレしてたのに。」
「やめてください」
先程の自分を思い出しはやとは顔を覆う。
カワイソウナオレ。
―そうだ。俺は自分を守ってかなめの心に踏み込むことを拒否していた。そのくせ、追い付けないからと腐っていたのだ。
雨に打たれて立ち尽くす自分を思い出すと顔から火が出そうだったが、もう同じ轍は踏まない。どんなに恥ずかしくても、向き合うと決めたのだ。
「先輩、教えてください。今、何が起きているんですか。俺はどうすればかなめを助けられますか。」
覚は目を丸くする。
「ここに来たからには、何かしら決心したんだろうとは思ったけど…」
検分するように、真正面からはやとを見つめる。はやとも、たじろがず真っ直ぐに視線を返す。
「まあ、お前も遅かれ早かれ巻き込まれるだろうしな…来なよ。」
どこから話したものか、と覚は悩む。話が進まないから、いちいち驚いたり質問するなと告げて、歩きながら話し始める。
覚は軍属ではないが、つてがあって、協力関係にある。通学路ではかなめを付け狙う者達の存在が確認できたこと、彼らに攻撃の意思があったことから、直ちにジャミングをかけて彼らを撹乱して、控えていた特殊部隊にその場を引き渡したこと。
まるで現実感のない導入にはやとは目を白黒させたが、驚きや質問を必死に呑み込み、頷いて覚に先を促した。
取り逃がした一部がどこに向かったのか、他にもまだ隠れているのか分からず、どうしようかと考えていたところにかなめから通信が入ったとの事だ。
半径4キロ以内に複数の敵の存在を察知したので、管理棟のセキュリティシステムを使用、まずは学園内のセキュリティレベルを二段階上げてセーフゾーンを確保、その上で「敵」を捕捉するとの内容だ。
この学園は、災害や戦争時に軍の拠点となるべく設立された。この中央管理棟には最新のAIを搭載したスーパーコンピューターが置いてあり、緊急時に地域のインフラをバックアップできるほどの機能を持たせている。
システムに入り込めれば、周辺の監視カメラ全てにアクセスが可能となるだろうし、場合によってはセキュリティシステムを利用して追手を誘導したり、追い込んだりすることもできるだろう。
先の大戦を経て民間の科学技術は厳しく制限されているが、軍の管轄のため最先端のものがここにはある。
もちろん、だからこそ管理棟に入るにはかなり厳重なセキュリティチェックがあるはずだ。それは鍵や暗証番号だけでなく、登録された人物の生体情報だったりする。
また、侵入者を狙撃するような物騒な設備もあると聞いている。大昔に学生が侵入を試みて大怪我をしたとのことだ。
緊急時に管理棟へ向かったかなめの行動には整合性がある。
管理棟に入れれば。セキュリティを掻い潜ることができれば。システムを起動することができれば。
「はい、質問どうぞ」
覚が現状について一通り説明すると、はやとの方を向き直った。
「俺は何ができますか。」
覚は少し見直したように目を瞬くと、
「…他にも知りたいことはあるだろうに、あくまでもそれか。」 と呟き小さく微笑んだ。
階段に続く扉にさしかかったので、覚がIDをかざし、何やら入力していく。階段を上り始めると、静寂を切り裂くような足音が響き渡る。
「正直いって、はやとにできることはあまりないよ。人質になったりしてかなめちゃんの邪魔にならないことがひとつ。」
人質になり得る立場であることを初めて知らされ、はやとは息を飲む。
「あとは、かなめちゃんが帰りたいと思える場所になることだ。あの子の望みは君たちの幸せだ。…だけどそこに自分が含まれていない。」
扉の横のパネルに覚が再度IDをかざし、またパスコードを入力して行く。
「かなめちゃんを受け入れること。それが今君
にできることだ。」
廊下に出ると、突き当たりの部屋から警報音が鳴り響いていた。覚は大股で歩いて行くと、ためらいなく扉を開いた。




