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待ち遠しいのは夏休み

お待ちかねの絵解きのお時間です。

 川床会館での一幕から数日後、そろって徳兵衛の元を尋ねた有作たちは、あらためてこの奇怪な事件の全容と、その後の顛末について話し合った。すだれの下りた涼しい座敷の中を、気持ちのいい風がかけめぐる昼下がりのことである。

「――話を聞いて、どことなく胡散臭い男とは思っておったが、ヤクザものとは思わなかったのぅ。して、佐原くん。例の四組の件じゃが……」

 徳兵衛の問いに、有作はややかしこまった調子で口を開く。

「捕縛の一報が出た次の日に、僕らのところへ真相を話しに来てくれました。奥さんたちは過去、サークルや委員会のコンパの席で、OBを名乗るまったく同じ人物と心安くなり、結婚を前提にした交際をしていたんだそうです。ところがいずれも、挙式の直前になって費用と一緒にドロン……。おまけに、親御さんたちもニセの投資話を持ち掛けられて、ずいぶん痛い目にあっていたんだそうです」

「――調べようにもマンモス私大じゃ、ひと学年追うだけでも骨ェ折れるからなぁ……」

 浮音がフォローを入れると、有作からバトンを受けた瑞月が手帳をめくる。

「新郎たちの協力もあって、どうにか二級上にいた山村圭太という人物へたどりつきました。ところが当人は卒業以来、仕事の都合で海外在住。懇親会などへ顔を出すことは出来ない……。で、本人と話すうちにわかったのが、暴力団と関わって一族から絶縁された、顔かたちがよく似たもう一人の山村――従兄弟の山村遼太郎という人物の存在だったんです」

「親御さんの事業の失敗で、遼太郎サンはずいぶん苦労の多い半生を過ごされたそうデス。自分そっくりな圭太さんの順風満帆さに嫉妬を抱いて、狼藉を働いたのか……どうかまではちょっと、捜査が進まないとわからなさそうですがネ」

 英二が付け加えると、徳兵衛はなるほど……と腕を組んだまま返答する。

「つまるところ、そんな危なっかしい悪党へ『我々はお前のことを知っているぞ』と、精いっぱいの脅しをしかけたのが一連の狂言誘拐じゃったと……こういうわけか」

「そういうことです。新郎たちが行動を追っているうちに、川床会館での挙式の話を掴んだようでして、それにのっかったのが真相だったようです。――つくづく、カモさんには勝てないと悟ったよ」

 しょげる有作に、浮音は何言ってんのぉ、と返す。

「あそこまで接近したんや。僕は大いにえばってええと思うで。――してご隠居、僕はともかくとして例の件……どないなもんでしょう」

「ああ、その件やけどな……」

 吸いさしをもみけしながら、浮音はしげしげと徳兵衛の顔を見つめる。

「今度の件は、きみの背中のアザが佐原くんにずいぶんな霊感を与えたと、こういう具合だそうじゃのう。――思えば佐原くん。きみのちょっとした指摘や一言がきっかけで事件が進展したことがあったそうじゃの。その理屈でいけば、鴨川くんも立派に解決に貢献しておることになるんじゃが……他の方、どうかな?」

 徳兵衛の提案に、有作たちからは反論は出なかった。それを見て取ると、徳兵衛はよろしい、と前置き、

「おそらく、友情に熱い貴君らならそういう答えが返ってくると思っておったよ。ひとつ、その大いなる友情をふかめる、別府あたりへの船旅なんぞどうじゃろうな……もちろん、費用一切はこの早川徳兵衛が持つ。どうかな?」

「――さすがご隠居、太っ腹やことォ」

「わはは、当たり前じゃ。この早川徳兵衛に二言はないのじゃぞ……」

 いくらか暑さの緩んだ窓外で、ふたたびセミが鳴き声を上げる。とあるけだるい昼下がりのひとときのことであった。


初出……同人誌「WEST-EYE No7 特集・ワトソンたちの大冒険」 令和四年九月 文学フリマ大阪にて頒布

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