証拠見届けたり!
山村圭太 三十四才
K大九七期生 文学部応用社会学科卒業
進路未定のまま卒業後、現在は東京で投資コンサルタントとして活躍。ここに至るまでの経歴は詳細不明
そんなメモを片手に、有作が川床会館の裏口をくぐったのは、それからしばらく経った、ある暑い水曜日のことだった。
ご隠居経由で渡りをつけてもらった有作は、式場の係と同じような格好で、最終の内覧に来ていた新郎、ご隠居の親類となる山村圭太の姿を陰からそっと見守っていた。
――人違いなのか、それともこの人がターゲットなのか……。こればっかりは、この目で見ないとわからないや。
それにしても、ひどく暑い日であった。設備の古いせいで、館内の冷房には効きにムラがある。おかげで、風の届かない場所にいる有作たちは襟足に大粒の汗をかいていた。
「当日はさすがに、涼しくしてもらえるんでしょうねぇ?」
学生時代の面影などさらさらなく、ともするとヤクザかなにかのような態度でほかのスタッフへ接する山村に、有作は不快な気分を覚えた。
「あいすいません、なにぶん設備が古いものでして……。氷柱と、スポットクーラーはオプション内のサービスでご用意できますから、そちらのほうのお支度をさせていただきましょう」
「当たり前だ、来てくれるお客に恥かかせたら……ねえ?」
サングラス越しのねめつけるような視線は、ますます有作の不興を買った。と、そんなところへ、思いがけない幸運が飛び込んできた。
「――ああ、我慢できねぇ。ちょっと窓開けますよ」
ガラス戸を開け、入り込む風に当たっていた山村が着ていた半袖をまくり、新婦を手招きしたのだ。
「――ほら、前言ったやつ。ほんとに出てきたやろ?」
「わあ、ほんまやぁ」
育ちのよさそうな、おっとりとした新婦の返事に、有作はそっと、気づかれないよう周り込んだ。そして、その光景を目へ焼き付けると、ほかのスタッフへ目くばせをして、有作は音もなくその場を抜けだした。
有作の予感は的中していた。山村のめくった二の腕には、たしかに稲妻のような赤いアザがありありと浮かんでいたのだ。
――やっぱりあいつが、犯人の狙っている相手だったのか!
スタッフ用の階段を下りきると、有作は更衣室で借りていた衣装を脱ぎ捨て、元来た道から外へと飛び出した。どこで時間を食ったのか、ほんの少しと思った間に山村夫婦は外へ出て、呼びつけたタクシーで川床会館を出てゆくところだった。
「間に合わなかったか……」
「――佐原クン、いまのって、例のカップルですか?」
タクシーの後ろ姿をにらんでいた有作の元へ、近くへ浮音のシトロエンを借りて控えていた英二が、ひょこひょこと寄って来た。
「番号は控えてありますヨ、まだ今からなら追いかける余地はありますけど――」
と、英二がカーチェイスをほのめかしたところへ、有作のズボンへ入れてあった携帯電話が鳴り出した。
「もしもし――あれっ、沢村さん」
発信元も見ずに出た有作は、意外な相手に驚いた。相手はここまで、ともに事件を追いかけていた沢村瑞月だったのである。
『佐原くん、あなた今日、東野くんといっしょに、川床会館に行ってるのよね。――あのカップル、いまどうしてる?』
いくらかバツの悪い気はしたが、有作は二人がたったいま出て行ったこと、やはりあざがあった、ということを伝えた。すると、
『今しがた、牛村警部からタイムスの編集部に連絡があったんだけれどね。「そちらで追っている山村圭太と名乗る人物は、警視庁と大阪府警が行方を追っている投資詐欺の常習犯で間違いない。指定暴力団のY組に噛んでいる危険な男だから素人は手を引け」――って、こういうのよ』
「や、Y組……詐欺師!?」
「アッ、佐原クン!」
膝から力が抜けるのがわかると、有作はそのまま、アスファルトの上にへたりこんでしまった。そしてその翌日、関西一円の朝刊各紙には、異口同音に次のような見出しが載っていた。
投資詐欺師逮捕
被害総額数億円 挙式控えた直前に捕縛 容疑全面自供す
さて、次回はいよいよおまちかねの絵解きです。




