魔王と異世界メシマズ問題
:魔王と異世界メシマズ問題
「お出かけですか?ソーマさん」
外出着に着替え城の外に出ようとした所で、広間の掃除をしていたアリアと顔を合わせる
「ああ、ちょっと街まで。食料品が底を尽きそうで」
「食べ物ですか?私も料理出来ればお手伝い出来るのですが・・・」
そう、魔王軍はアリアという新入社員を採用したわけだが
未だに、俺の異世界メシマズ問題は解決していなかった
「その・・・体力を使う仕事なら得意なのですが、料理等と言った細かい作業はどうも苦手で・・・」
「アリアは旅をしている間、食事はどうしてたんだ?」
「宿や酒場で取る事が多かったですね。野宿する時なんかは、襲ってくる魔物を丸焼きにして食べてたりしましたが」
「魔物を丸焼き!?」
「焼けば大体の魔物は食べれますよ。でもそのせいか近づくだけで魔物が逃げていってしまって、数日間食料にありつけなかった・・・なんて事もありました」
「そうだったのか・・・」
おそらくアリアだから出来る芸当であって、普通なら間違いなく腹を壊すだろう
少なくとも俺は真似出来ない、したくない
「まあ、俺もこっちの世界の料理はよく分からないし、試行錯誤していくしかないんだが」
「こうして普通に話していると忘れそうになりますけど、ソーマさんは異世界の人なんですよね?」
「まあな、強制的に連れてこられただけなんだけど」
俺の事情についてはアリアを採用した時に軽く説明しておいたのだが、アリアはさほど驚いたりしていなかった
アリアの話によると、どうやらこの世界では、異世界からの住人というのはそれほど珍しくもないようだ
「こっちの世界の人達と何も変わらない様に見えます」
「言葉も普通に通じるしな」
と言った所で、俺は自分が言った言葉に疑問を持つ
そういえばなんでだ?ウラムに聞けば分かるのだろうか?
「お答えしましょう!」
「うおうッ!」
その瞬間、突然ウラムが現れた!
「突然現れた上に人の心を読むんじゃねえ!」
「マンネリにならないよう常に刺激溢れる・・・そう、エキサイティングな登場シーンを演出しているのです」
「そのエキセントリックな思考には着いていける気がしねえが・・・」
「コホン、まあ前置きはこのぐらいにして。言葉が通じる理由ですが、まあ有体に言って魔法の力ってやつです」
「魔法の力?」
「ええ、禁断の秘術とも呼ばれる魔法ゴツゴウ・シュギです」
「知ってた!そーいうくだらねー事だって分かってた!」
ご都合主義だと言うなら他にも色々あるだろうに
チート級の戦闘能力とか、他には無い特殊能力とかさー・・・
「ハハハ、何を甘い事を。魔王様はちょっと異世界に夢持ちすぎじゃないですか?」
「だから心を読むな!・・・ともかく、それ以外の事は自力でなんとかするしかねーってわけだな」
何かと厳しい異世界ではあるが、嘆いているだけでは始まらない
さし当たっては、今日の夕飯をどうするか考えるとしよう
「んじゃ買出しに出かけてくるから」
そして俺は出かけようとするのだったが、そんな俺をウラムが呼び止めた
「ああ、待って下さい」
「ん?」
「魔王様一人では色々危険な事もありますし護衛を連れて行って下さい」
「護衛って・・・そんなの必要か?」
「魔王様、この間それで死にかけたのをもう忘れたんですか?」
「うっ・・・」
まあ、先日のあれはかつて無い程の命の危機だった
本気の戦闘になっていたなら全員でまとめてかかったとしても返り討ちにあっていただろう
「ん?どうしましたか?ソーマさん」
その危機そのものであったアリアは、何の話か分からないといった様子で小首をかしげていた
「んじゃ、ウラムが着いてくるのか?」
「いえ私は私で色々と忙しいですし、丁度手が空いている方にお願いしようかと」
そして、ウラムの後ろから現れたのは
「スライムCさんです」
「いや、スライムBだろ?」
「Eさんでは?」
スライムD「ぷるぷるぷる」
スライムだった
俺は声を潜めると、ウラムに問いかける
「こう言うのもなんだが・・・大丈夫なのか?」
「ええ、全く問題ありません。以前お話したかもしれませんが、スライムは地上最強のモンスターですから」
「そういえばそんな話をしてたな。・・・まったくそうは見えないが」
「この辺りでエンカウントする魔物なんかとは、比べ物にならない強さを誇っています。買い物カゴに入る大きさですし、丁度いいでしょう」
「まあそういう事なら・・・」
という訳で、護衛のスライムを連れ街へと向かう事となった
城の外に停めてあった自転車の買い物カゴにスライムを乗せ、サドルに跨る
「それじゃ行って来ます」
「お気をつけて~」
アリアの見送りの言葉に手を振って返しながら、俺とスライムは街へと出かけるのだった




