↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
9/42

第9話 異界より来たりし者 妖狼

「俺の話をする前に話しておきたいことがいくつかあるんだ」

 

ハルトが腕組みをする。


「ん? そうなんだね」


 フレイルがふーんという顔をしていると、おうよ、とハルトが頷いた。


「まず、十二星ってのはなんだ、から始めた方がいいな。一度は説明してるけど、詳細省いてただろ? フレイルも見たもので分かる範囲で教える。

 俺は輝光星(きこうせい) 光の大剣を出す魔法に、狼に変化する能力がメインの星出身で、その星では他星との戦争が続いてる。俺は兵役に準じてて戦争に駆り出されたことが何度か……」


 話が止まる。

 歩いていたのに、足が止まっている。

 表情も心なしか暗い気がする。


「ハルト?」


 フレイルが声をかけた。


「ああ、すまん! 」と言いながら、ハルトは顔をあげる。


「まあ、まずは過去に触れず、パパッというな。

 薔薇の女王ジュリアスは、傀儡星(かいらいせい)。

 何億光年か離れた位置に存在するほぼ別時空に存在すると言っていい惑星だな。

 そこはまあ……噂で聞いたんだが、あの女の様子だと食い荒らしたんだろうよ、自分の民にむごいことするよな。

 倒せてよかったよ、ほんとに」


「本当にね〜あの時は助けてくれてほんと助かったよ、ありがとね」


 ハルトが豆鉄砲くらったような顔をした。


「どした?」


「いや、お前……生意気なのになんか素直だから調子が狂っただけだ。気にすんな」


「何よそれ〜」


「そ、それでだ……俺の過去を話すとしたいんだが」


 お前誰だ


 そう言ってフレイルの後ろーーーその奥の石柱に問いかける。


「誰だ、だと? 誰に向かって口聞いてんだ、この人殺しがよ」


 男の声がした。

 気づいたら人々がいない。

 行き交う人々が全員はけてしまっている。

 術中か?

 フレイルは構えた。

 それを庇うようにハルトが前に立つ。


「忘れてはいないようで安心したよ、妹殺しのクソ野郎」


 言いながら現れたのは、黒い狼がロングソードを背負った姿だった。


 それが人の姿を徐々に模っていく。


 女性のように美しい顔立ち、紫色の長い髪。


 それでも目には憎悪が滲んでいた。

 男は怒気を含んだ声で言った。


「この妖狼剣士ユーロの妹エルフィアを殺した罪を、今ここで償え」


 剣を抜く。月明かりに照らされたような薄光がもの寂しく、それでも鋭利な殺意となって世に現出したのが分かった。


「さあ、死の舞踏を踊るがいい。我が怒りを思い知れ!」


 狂気が、迫り来る。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


「現れろ、妖(あやかし)なる狼の群れ。怨敵(おんてき)を喰らい尽くせ」


 剣で切り掛かる最中、そう言葉を紡いだ。

 その瞬間に、闇より暗い色をした影が現れた。霧のように周囲を包む。

 ハルトが舌打ちをしつつも短剣で迎撃しようとする。

 しかし、影は切れない。短剣は虚しくも空を切るのみだ。


 そこにユーロと名乗る男の剣が迫る。


 フレイルが魔法防壁で対抗しようとした時、ハルトが叫んだ。


「手を出すな!」


 ぴたりとフレイルの手が、口が止まる。


「なんで」とフレイルは聞こうとした。だが、ハルトは踵でユーロの剣を蹴り抜いて、さらに肉薄しようとしていた。


 だが、危機は脱していない。


 揺蕩うような影から黒く、禍々しい色合いで毛並みが美しくもかたそうな狼が10匹も現れた。


 ぐるる、と唸り声をあげる。

 少しずつにじり寄ってくる。


 魔法界に、魔獣で狼のようなものはいた。

 だから、氷狼シルバーウルフを召喚できた。

 けれど、あの狼たちは異質だ。

 なにか……ひどく呪いようなものを感じて仕方がない。


 フレイルは火炎弾をいつでも放てるように準備しつつも、冷や汗を感じていた。


 ハルトが叫ぶようにして言う。


「だが、俺だってお前を許していない!

 敵方である魔術王星に降ったのは何故だ!!

 お前の妹を危機的状況に追いやったのは、あいつらの方だと言うのに!」


「黙れ! 人殺しがでしゃばってんじゃねえよ、死ね!」


 ユーロの血を吐くような、泥を吐くような叫びを合図に狼たちが飛びかかる。


 その時だった。


 八つの透明な板が宙に浮かび上がる。


「反射魔法 空間跳弾ベクトルリコチェット」


 フレイルの言葉が響いた。


 瞬間、高速で空気の塊でできた弾丸が射出され、透明な板に当たる。

 そしてまた別の板へ。

 それを繰り返すごとに加速を続け、威力を上げた弾丸が


「ーーーな、に」


 狼7匹の腹を一瞬にして貫いた。黒い血飛沫が上がる。

 驚く、ユーロのマントをも裂く。

 ユーロはすぐに落ち着きを取り戻し、ハルトの腹を蹴りつけた。

 咳き込むハルトを無視して、フレイルを睨みつける。


「貴様、おとなしくしていれば命までは取らなかったものを。覚悟はできているのか?」


「は? 」


 フレイルは激怒した表情そのままで、


「あんたこそ覚悟できてんでしょうね、私の目の前で魔術の王様気取り? ざっけんな。私は魔法、魔術の天才なの。あんたに、魔術の基礎ほども感じられないわ、吐き気すんのよ! 2度と語るんじゃないよ。虫唾が走る!」


 腹の底の怒りを全てぶちまけた。


「なん、だと」


 怒りで震えるユーロを無視してハルトに向けて言う。

 一歩前に出る。


「ハルト! 私も参加する、いえーーー最大出力であの狼剣士だかなんだか知らないけどね、地平線の彼方までぶっ飛ばしてやるから見てなさい!」


「いや……あいつは俺の因縁の相手で」


「それは後で聞く!」


 フレイルはまた一歩前に進んだ。


「喰らえ、偽魔術師気取り!」


 フレイルが反射魔法と火炎魔法を同時に放とうとする。


 失敗をするものだと思って、ハルトは止めようとした。


 だが、黒い光がフレイルの全身を包み込む。


 それが、莫大な魔力の光の柱を出現させた。


 フレイルはそれを全て魔法へと転じる。

 複合、融合、合体

 そのような概念の、2つの属性を合わせて放つ最高の魔法を。


「反射+火炎魔法! フレイムリコチェット!」


 爆炎が上がる。火球というより隕石だ。


 それが16枚もの透明な板を何度もぶつかりながらさらに熱を帯びーーー箒星と化しながら、ユーロへと迫る。


 ユーロは残り3匹の狼をすべて盾にし、己を守ろうとした。


 しかし、瞬時のうちに焼け果ててしまう。


「ーーーぐ」


 ユーロが剣で受け、ずるずると下がっていく。

 威力は死なない。

 むしろ上がっていく一方だった。


 そして、壁に背中と頭を強くぶつけ。


 けれど歯を剥いて耐える。


 ここで死ぬわけにはいかない、と。


 地球の、それも隔絶された上空に住まう魔女なんかに魔術王星の住人が負けるわけにはいかない。


 だが、


「眠れ、ユーロ!」


 ハルトの剣戟が閃いた。


 ユーロは避けようとするも、その時だった。


 パキン


 ガラスが割れるような音と共に、ユーロの持つ剣が折れた。

 破片が散らばる。


 箒星が自らに当たる寸前で身を翻し、ハルトの頬を殴りつけて危機を脱した。


 頬を抑えるハルトを睨みつけて言う。


「剣を折られた以上、ここは一旦引いてやるが次は最も大事なものを一つ奪いに来る。

 お前が妹を殺して奪い去ったように、お前も奪われる悲しみを思い知るがいい」


 ゆめゆめ忘れるな、お前は人殺しだ。


 言い残し。影に溶け込むようにして、ユーロは姿を消していく。


 一度だけフレイルを見て


「お前も、そいつに加担するなら死ぬ覚悟をしておけ」


 そう、殺意を伝えて。影すらも消えていった。



評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。