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第7話 親友との共闘

「ああ、火山の神龍ネファエラ様ーーー私に力を与えてください。彼の者を生贄として捧げますからどうか私に……」


 そのリーダー格の声は続かなかった。


 火山の神龍なる存在が口を開けて、放ったのは言葉ではなく咆哮だったからだ。


 強烈なる咆哮。


 それが引き起こすのは雨だけではなく、噴火。


 巻き込まれるかと思ったが、『儀式』をした私たちには被害はなぜかないらしい。


 しかし、噴石だけじゃない。

 マグマが流れる。


 火砕流が、山を滑り落ちていく。


 火砕流が付近の村を蹂躙していく。

 人が死ぬ。

 住宅が燃え落ちていったのが分かった。


 悲鳴は聞こえない。

 けれども、命が消えたのが痛いほど分かる。


 5人は箒を召喚して逃げようとしていた。


 地にふしながら私は叫んだ。


「逃げんな!! 人が死んでんの分かってんだろ! 責任取れよ、お前ら! 」


 だけれど、5人は加速魔法を使って距離を離して行った。

 私は怒りと右腕の痛みに震えながら立ち上がる。


 ネファエラという火山より現れし、神のごとき龍の視線が私を捉えた。


 ひどく寒気を覚えた。

 それが、恐怖であることを理解したのが長い一分後。


 けれど、遅すぎた。


 理解したのが遅れたせいで、火砕流がさらに被害を押し広げて行ったのが感覚として鮮明に理解できた。


 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 カップが置かれた皿の上に、パフェの頭頂部に乗っかっていたチェリーを後から食べようとして置いておいたらしい。


 自分が好きな果物とかスイーツは最後に食べる嗜好なのだろう。


 ふーんと思いながら、フレイルはそのハルトの様子を眺めていた。


 美味しそうに食べながらハルトが言う。


「そんな破滅の始まりみたいな敵相手によく生き延びたな、フレイル」


「まあ、私は自分でーーーあ、うそうそ! 分かってるよ。人死にもあるし、ちゃんと話すって。後でツキヨが共闘してくれたのよ」


 ハルトは険しい顔をしていた。

「人死にが出てるのに、生意気さそのままで話してるのか? 茶化すのはバカにするのと一緒だ。大概にしろよ」

 そんな感情が見え隠れしているのを、フレイルは察した。


「ごめんて」


 私、あんまり暗すぎる空気になるの嫌いなのよねと言いながら、フレイルは手を合わせた。


「真面目に話すから、そんな顔せずに最後まで聞いてよ」


 ハルトは何度目かのため息を吐いてから、先を促す。


 居心地が悪くなったのかフレイルは少し頬をかいた。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


ネファエラの攻撃は苛烈を極めていた。

 爪の振り下ろし。

 翼を羽ばたかせたことによるマグマを伴う風。

 火砕流を竜巻状にして放つ魔法。

 その魔法の余波から変化した雷撃。


 全てが天災レベル。避けるか、魔法のバリアで防ぐことが私にできる精一杯だった。


 火炎弾、火炎剣、氷結魔法……。


 あらゆるものがネファエラに致命傷に与えられる可能性が1ミリもないこと、私は分かっていた。


 だから攻撃手段がかなり限られる。


 ーーー違う魔法を合体させた魔法しかない。


 けれど、私でも失敗続きだった。


 だってそれは、魔術式を並列かつ同じタイミングで発動させなければ合体にならず、互いの威力を殺し合うものだから。


 1人じゃできないかも……。


 でも、やるしかない。


 執拗な攻撃を避けて、火傷を負っても、それでも私は前を向いた。


 集中するために目を閉じる。


 ごおおっという燃える音がする。


 火炎を吐いたわけではないはず。

 現に暑いのはそのままマグマの熱気とネファエラの風によるものだと数回の攻撃を受けて分かったから。


 なら、時間はある。


 火炎魔法 火炎弾フレイムバレット


 反射魔法 空間跳弾ベクトルリコチェット


 この二つは属性が違う。けれど、弾丸を放つという概念は一緒だ。


 何かしらが同じなら、1人でも可能かもしれない。

 私は右手に火炎を、左手に反射をそれぞれ纏うように魔法を発動させようとした。


 一歩踏み込む。

 ネファエラだかラファエルだか知らないが、神なんて冠してダサいんだよ。

 この殺人龍が!

 魔力を両手に込めて、


「くらえ、化け物! 火炎+反射魔法フレイムリコチェット!」


 放つーーー不発に終わった。


 光が消える。魔力を帯びたものが力なく消えていく。

 見知ったものだった。

 失敗した。


 頭がガツンと鈍器で殴られたような痛みが襲った。


 魔法失敗の作用ーーーこんな時に!


 鼻血が出てうまく息が吸えない。


 荒い呼吸を繰り返す。


 ここで成功しなかったら死ぬ状況なのに、奇跡は起こらなかった。


 ふざけんな、ここで失敗したら死んでいった人たちに申し訳ないだろ!


 けれど、2度目を出そうとしても失敗して吐血と嘔吐感に苛まれるだけだった。


 ーーーく、そ


 意識が消えかかる。


 そこに、ネファエラの尻尾が迫った。

 避けようとしたが、直撃する。

 吹き飛ばされる。

 岩石に頭から当たる。血が出た。

 目に生暖かい血液が垂れてうまく視界が定まらない。


 立とうとするもふらついてうまく立てない。


 嘲笑うように、ネファエラが炎を纏ったかぎ爪を薙ぎ払った。


 死ぬ、と思った。


 けれどーーーガギッ!! っと何かを弾き飛ばすような音がした。

 同時に、「回復魔法」と優しい声色が聞こえた。

 手で触れられる感触。


 傷が塞がっていく。


 視界も少しずつ良くなってきた。


 目の前に、ツキヨが立っていた。

 悠然と災厄に立ち向かうように。


「ツキヨ? 」


ツキヨが振り返って私の頭を撫でる。

視界がより鮮明にクリアになってきた。

安心したように表情を緩めて私を見る。


「ありがと」


「いえいえ……でも」


バシンっと額に軽い痛みと衝撃が走った。


「いた……っ! 」


デコピンだった。額を両手で抑える。涙ぐむ私にツキヨがちょっと怒った顔で言った。


「ダメだよ〜」


「うう……でも、あいつらが」


「あいつらのことは今はいいの! 」


ツキヨは「そのことは横に置いときなさい」と言いながら、両手を右に大きく動かした。


「私もいるんだから、背負わせなさい! いつも勝手なんだからさ」


「……ごめん」


私が頭を下げるとふくれっ面をやめて、


「いいよ。さ、立って! 一緒にあの化け物を退治しよう!」


右手を差し出す。

私はその手を掴んだ。

暖かい気持ちでいっぱいになる。

今ならなんでもできそうな気持ちになれた。

ほころんだ顔をツキヨに見られたくなくて、ぶんぶんと首を横に振る。

気持ちが落ち着いた。


「行こう、ツキヨ」


2人で駆け出す。


ーーー協力しての戦いは、正直すごく楽だった。


私が遠方から火炎弾を放つことでネファエラの注意力を削いでいく。ツキヨが防御魔法で守ってくれながら、雷撃によるネファエラの機動力を削ぐこともしてくれた。


時に噴火とマグマの竜巻で死にかけたけれども、1人よりも焦りがない。

リスクも少なかった。


けれども、ネファエラも私たちも限界が近かった。


ここで決めなきゃいけない。


火山の神龍たるネファエラが天を仰ぐ。


膨大な光ーーー紫色の雷撃だ。

それも凄まじい。

太く、明らかに人だけじゃなくて魔法界を消し去らんとするほどの力。

そして、マグマ溜まりからは数えるのも面倒な程の熱を帯びた竜巻。


それを一点に凝縮して放とうしていたのが分かった。


私とツキヨは互いに頷く。


「合わせて」


私が右手を掲げる。


ツキヨは左手に杖を持って、同じように掲げた。


私たちのそれぞれの手に、魔力の光が宿る。


私が唱える。


「反射魔法」


ツキヨが唱える。


「防御魔法」


ついで、魔力光が大きく瞬いた。


2人を逆巻く風が包み込む。

髪がたなびいた。見合わせ、同時に叫ぶ。


『防御+反射魔法! プラズマフォース!!』


最大規模の魔力が同時に発動したことによって、プラズマを放ち、幻想的で爆発的な光を帯びる。


それが徐々に広がっていきーーー最後には、ネファエラから破滅の力もろとも弾き飛ばしながら、ネファエラをこの世から消滅させた。


世界が虹色の光、いっぱいに包まれる。


宙に浮かぶような感覚。


そのいっぺんに、私は胸に入ってくる黒い光を感じていた。



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